第64話 我慢我慢
「とりあえず宿だな」
ディーディアから出発したギールは無事に次の目的地、ライブスに到着。
特にこれといって特徴がある街ではないが、ここ最近厄介なモンスターが周辺の森に住み着いている。
(細かい情報集めは明日からでも……良さそうだな)
丁度良い宿を見つけるまでの間、通り過ぎる同業者たちに腕前を観察した結果、獲物である厄介なモンスター……鬼熊を倒せそうな人物は見かけなかった。
フレイムドラゴン、ハードメタルリザード、ヴァイスサーペルスなどと同じBランクのモンスター。
通常の熊系モンスターより確実に一回りは大きい体を持ち、額には赤い結晶の角が生えている。
個体によっては、火を操る鬼熊もいる。
当然……ギールはソロで倒すつもりでライブスにやって来た。
(普通の熊より超大きいらしいから……竜戦斧でも腕や足をバッサリ一刀両断するのは難しいだろうな)
先日購入したもう一つの切り札である魔剣で鬼熊の体を切断しようとしても、スキル技を使って……ギリギリ斬り落とせるかもしれないといった程度。
上手く斬り落とせず、多少深い斬り傷を負った程度では、平気な顔で動き回り続ける。
明日に備えてゆっくり英気を養うのを優先しなければならないのだが……ギールは意識が落ちるまで鬼熊との戦闘を脳内でイメージし続けた。
「これ受けます」
「……かしこまりました」
翌日、軽い討伐依頼を受けつつ、酒場で耳にした鬼熊出現地域を探索する。
そして一人で依頼を受けようとするギールに対し……受付嬢は特に何も忠告などはしなかった。
Dランクの冒険者であれば、一応一人で受けても問題無い依頼であり、全てではないが……ギールが今までどういった依頼を受けてきたかを把握している。
(噂じゃ、ハードメタルリザードとの戦闘に参加したらしいけど……それはやっぱり嘘よね)
戦闘経験がない受付嬢は、自分のところまで流れてきた情報に関しては……実際に
その本人を見ても本当だとは思わなかった。
事実を信じられていないことなど知らず、ギールは少し緊張感を持ちながら探索を開始。
いつでも鬼熊と戦える様に竜戦斧を携帯。
「つっても、そう簡単に見つけられねぇよな」
探索開始から数時間後、依頼のモンスターの討伐は完了したが、お目当てのモンスターとはまだ遭遇しておらず、手掛かりらしい手掛かりは見つからない。
(まだ全然焦らなくても良いっちゃ良いんだけど……狙う相手が相手だからなぁ~)
元親友であるレオル。
彼の身体能力や戦闘技術、潜在能力などを全て一番身近で感じてきたからこそ、無意識に焦りを抱いてしまう。
壁を四つ越えることが出来れば、完全にBランククラス。
竜魂の実を食べた恩恵を考慮すれば……Aランク冒険者クラスの身体能力を手に入れたと言っても過言ではない。
実際のところ、次壁を越えることが出来れば、壁を越えた回数では……一応レオルに追い付く。
そうなると、スキルの数では圧倒的にギールが勝っている。
しかし……次会う時には、以前までと比べて更に強くなってる気がしてならない。
(もし…………次会う時までにもう一つ壁を越えられてると、聖剣技を奪いにいく前に死んじまうかもしれねぇ……)
ギールとしては絶対に避けたい危機ではあるが、少しでもレオルとの差を縮めるのであれば……この先、もう二回は死線を越えなければならない。
そして当然と言えば当然なのだが……ギールが間違いなく今回の戦いは死戦だった感じても、壁を越えたという結果に至らない可能性は……十分にある。
それはギールも理解しており、今回の戦闘は自身の戦闘力を確かめるためでもあった。
「……ちっ、今日はもうタイムリミットか」
探索に初日は収穫なし。
昂った緊張を鎮める為に夕食後……ムフフなお店へと向かい。
万全な状態で睡眠に入る。
翌日……そのまた翌日も手掛かりが見つからなかったが、探索四日目にある物を発見。
「うっ……この大きさは……そういう事で、良いのか?」
ギールが見つけた物とは、一つのフン。
どう見ても小型モンスターの物とは思えない大きさ。
「……クソ。この匂いを手掛かりにするしかないか」
嗅覚強化を使用することで、フンの周辺に残っている匂いを嗅ぎ取り、匂いが続く方向へと向かう。
(一瞬とはいえ、フンがある周辺で嗅覚強化を使うとはな……気を失うかと思ったぜ)
嗅覚強化を使用したからといって、特定の匂いをシャットアウト出来るわけではない。
匂いは徐々に薄くなっていくが、それでも懸命に匂いを嗅ぎ取り、ゆっくり……一歩ずつ進む。
「……ここで、終わりか」
到着した場所は、大樹の下。
大樹とは言っても、他の木々と比べて数周り程度大きい木。
ギールが嗅ぎ取った匂いは、そこで途切れていた。
(二日前の夜に少し雨が降ったらしいが……いや、とにかく匂いの主がいた場所は、ここで間違いないだろう)
雨が降れば、地面や木々に残っていた匂いは薄れてしまうが、ギールは辿り着いた場所から動こうとしなかった。
理由としては……大樹の下から、幾つもの血痕を発見。
加えて、辿っていた匂いこそ発見時と比べて薄れてはいるが、血の匂いだけは明らかに濃密。
(巣って感じには見えねぇけど、ここで食事を取ってるのは確かだ。ここが鬼熊の……別のモンスターって可能性は捨てきれねぇが、それでも難敵であるのは間違いねぇ筈だ)
冒険者としての勘が告げる。
ここを食事処としているモンスターは過去の強敵たちと同じく、己が死ぬかもしれない覚悟で挑まなければならない程の強さを持っている。
いつでも戦える様に待機し続けること夕方手前……ギールの読み通り、強敵がゆっくり食事を取るために餌を両手に持って現れた。
「はは……本当に角が生えてるんだな」
「…………」
大樹の元に現れたモンスターは鬼熊
事前に得ていた情報通り、額には赤い結晶の角が生えていた。
「これから食事タイムだったか? そりゃ悪かったな。まっ、あれだ。食事前に腹を減らすための運動だと思ってくれ」
「…………」
鬼熊は無言でオークとトライボアの死体を離れたところにぶん投げた。
「快く了承してくれたってことかな?」
そんな訳がない。
食前の運動などせずとも、十分に腹は減っていた。
しかし、生まれてから一年も経っていない未熟な個体ではない為、野性の勘である程度敵の戦闘力が解る。
鬼熊から見たギールは……片手間で倒せる相手ではない。
まだ詳しい部分は解らないが、大雑把な戦闘力が解ったところで、四足歩行モードになり、ギール目掛けて超突進。
(クソ速いなっ!!??)
少々予想外のスピードに驚きながら、二振りの竜戦斧を持ってその場から動いた。




