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第57話 危険な賭け

(くそっ……こんなことなら、もっと金を稼いでれば良かったな)


オークションで読めないところは、どの商品がどれだけの額まで吊り上げられるのか。

予想以上に上がることはなく、どうせなら参加してれば良かったと後悔したケースが数回。


そんな悔しい思いをしながらも、やはり今後の生活を考えれば、下手に参加は出来ない。


(にしても、本当に色々と売ってんな。美術品にマジックアイテム、スキルブックに武器……そんで奴隷、か)


基本的に所有者の自由に出来る契約という名の鎖で繋がれた存在、奴隷。


ギールとしても、生まれ変わった後のことを考え、奴隷という手足を買おうかと悩んだことはある。

しかし、考え抜いた結果……足手まとい、お荷物になるという結論に至り、購入することはなかった。


(強い奴を手に入れたら、それはそれで俺が強くなれなくなるからな)


過去の親友、レオルの聖剣技を奪う。

その目的を果たす為には、やはりソロでの活動が一番効率が良い。


そんな中、買うことはないと解っていながらも出品される奴隷たちに目を向けていると……とある美少女が舞台に運ばれてきた。


次の瞬間、主に男性たちから欲望の詰まった声が漏れ出す。

そして美少女の落札劇が始まると、一気に白金貨数枚という大金を越えた超激戦へと発展。


(おいおい、いくら美少女とはいえ……頭おかしくないか?)


まだ年若く、十代後半ではない。

にも拘わらず、その体はほんのりと実っている。

野郎たちが抱く分には問題無い体つきと、そそる顔を持っている。


それに加えて、戦闘者であるギールは美少女が持つ魔力量を見抜いていた。


(顔は文句なしの美少女で、体はこれからまだまだ育つ。そして鍛えれば……一級品の魔術師に育て上げることも不可能ではない、か……でも、それでもここまで値が吊り上がるか?)


既に美少女の金額は白金貨十枚を越えており……更に上がり続ける。


ある意味面白い喧噪を眺め続ける中、興味深い声と、その声の主が目に留まる。


(……声は変えてある。でも、髪色は一緒…………この距離だと、バレないよな)


とある人物に向けて鑑定を使用した結果、ギールの予想は確定に変わった。

それと同時に……何故? という疑問が頭を埋め尽くす。


(マジ、か…………でもなんでだ? そういう人じゃないよな。けど、表情や声からは必至さが見える……もしかしなくても、あの美少女は知人なのか?)


「白金貨二十五枚!! 白金貨二十五枚が出ました!!!! 他に、これ以上参加するかたはいませんか!!??」


「ッ!!!!!」


ギールの予想が確定に変わった人物は、今にも拳から血が零れそうなほど力を入れ、怒りで血管が切れてもおかしくない。


その人物の仲間であろうメンバーの顔にも怒りの色が浮かんでいる。

しかし、彼らは考え無しの行動を起こす馬鹿集団ではない。

だからこそ……怒りで脳内が埋め尽くされようとも、次の策を必死で考えようとする。


「ッ!! なっ、えっと…………は、白金貨二十八枚!! 白金貨二十八枚が出ました!!!!!!」


「「「「「「「「「「ッ!!!???」」」」」」」」」」


とある集団だけではなく、オークション会場にいる多くの者たちが一人の男に視線を向ける。


「なっ!!?? ぐぎぎぎぎ……」


ギール(タレン)が知っている人物と競り合っていた男は、あと一歩のところで大きく突き放され、こちらもこちらで血管がぶち切れそうなほど顔が怒りで染まっていた。


「白金貨二十八枚!!! 白金貨二十八枚で落札です!!!!」


この後もオークションは続いたが、本日の出品物の最高落札額は……ギールの白金貨二十八枚だった。



「少し良いですか」


「き、君は……ッ!?」


ギールはオークションが終わった直後、人波を避けて進み、予想外の人物……アミ―ディオ・シュルパートに声をかけた。


「これが、俺の裏切らないという証です」


「ッ………………つまり、そういう事で、良いのかい?」


「えぇ、勿論です」


ギールがアミ―ディオ・シュルパートの前に差し出した物は、フレイムドラゴンの素材を元に造られた短剣。


アミーディオもその仲間たちも、一目で目の前の短剣が一級品の者だと把握。


十数秒悩んだ末……アミーディオは白金貨二十四枚と、金貨五十枚が入った袋を……名も知らない男に渡した。


「会場の入り口で待っていてください」


それだけ伝え、ギールは購入者たちが向かう一室へと向かう。


「お待たせしました。こちらが霊化の効果が付与された指輪と雷魔法のスキルブック、そしてシーレ・サーブレットになります」


(やっぱり貴族のご令嬢だったか。そりゃアミーディオさんや他の貴族たちも必死になる訳だ)


目の前の微笑上の正体に納得しながら、シール・サーブレットがギールの奴隷になる契約を進めていく。


(この人が、私の……主人になる、人)


シール・サーブレットの眼にはあまり生気が宿っておらず、完全に自分の人生は終ったという顔をしている。


(そりゃこういう顔になるのも仕方ないよな)


奴隷契約が行われ、シール・サーブレットは一時的にギールという冒険者の奴隷となった。


「…………」


商品を支払い、受け取った後……ギールは一言も話さない。


コミュニケーション力が皆無なのではなく、心の底からシール・サーブレットを欲しいと思って購入したわけではない。


直ぐに手放すつもりでもあるので、余計な感情を抱きたくないという思いもあった。


「ッ! シール!!!」


「あ、アミーディオさん!!??」


直ぐにでも抱きしめたい。

そんな親愛に近い思いを持ちながらも……ギリギリのところで踏みとどまる。


口約束ではあるが、そういう約束を交わした。

それでもまだシール・サーブレットはギールの所有物。

気軽に触れてはならない存在。


「す、すまない。その……彼女は私の知人なんだ」


「そうでしょうね。だからこそ、そこまで必死にこの子を助けようとしていた……それでは、奴隷館に向かいましょう。短剣を返してもらうのは、契約の解除が終わってからで構いません」


アミーディオやその仲間たちはギリギリで涙が零れそうなのを堪える。

しかし……シールは奴隷という立場から二度と元には戻れないと思い込んでいたこともあり、溢れ出る涙を抑えきれず……その場で泣き崩れてしまった。

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