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第56話 割と悪くない雰囲気

オークション開催日まで、ギールは普段通り冒険者として活動する。


ディーディアの周辺にはあまり凶悪なモンスターは生息していないが、それでも冒険者の仕事は十分にある。


「念のため稼げる仕事があれば、そういう依頼を受けたいけど……残ってるわけないよな」


予想通り、クエストボードには割が良い依頼は既に消えていた。


(ん? あの人は……どっかで見たことあるような)


視界に映った人物は、確かに見覚えがある冒険者。


(アミ―ディオさん、たちだよな)


見覚えのある人物の名は、アミ―ディオ・シュルパート。

シュルパート家の令息であり、騎士になれる実力を有していながらも、冒険者という道を進んだ……貴族界では変人扱いされている人物。


逆に、冒険者たちにとっては、とても貴族には思えない気さくな人物。

シュバリエで主に関わっていた人物はレオルだが、ジールも少しだけ会話をしたことがある。


抱いた感想は……貴族だとか顔面偏差値七十超えのイケメンとか、どうでもよくなる程性格の良い人物であり、実力まで兼ね備えている最高の冒険者。


(なんか、表情が暗かったような……パーティーメンバーが減ったようには見えなかったし、いったい何があったんだ?)


ギール(タレン)のイメージでは、アミ―ディオも含めてパーティー全体の雰囲気は明るい。

暗い表情をしてる時など、殆どないという印象を持っているが……先程視界に映ったアミ―ディオたちの表情は、確かに暗かった。


「……考えたところで仕方ないよな」


適当な討伐依頼を受け、ギールも仕事開始。


当たり前の様に昼前に討伐依頼のモンスター討伐と解体が終了。

日中はそういった日々を繰り返しながら、オークションまで過ごし……ついにその日がやってきた。


(どういった雰囲気なのかだけは知ってっけど……普通に怖くなってきたな)


オークションが開催される会場に足を踏み入れたギール。

入場と共に従業員から一つの仮面を渡され、それを身に付けて指定された席に座る。


(……商人や貴族だけじゃなくて、騎士や冒険者……どっかに所属してるであろう魔法使いも多いな)


例え仮面を付けていたとしても、雰囲気だけである程度どういった人物なのか解る。

とはいえ、喧嘩を売りたい訳ではないので、勝手に鑑定を使って細かく調べたりはしない。


「皆さまお待てせしました!!! それでは、待ちに待ったオークションを開催いたします!!!!!!」


司会進行を行う者が大袈裟な身振り手振りで開催を宣言し、ギールとしても待ちに待ったオークションが始まった。


始めの出品の落札から会場は非常に盛り上がりを見せた。


(何と言うか……場の雰囲気はカジノに似てるな。そう考えると、参加してる人だけじゃなくて、それを見てる人たちが盛り上がるのも理解出来るな)


オークションが始まって約十分……ギールはまだ一度も参加していないが、割と雰囲気を楽しんでいた。


「こちら、双剣技のスキルブックになります!!!!」


「ッ…………」


開始から約一時間が経ち、スキルブックが商品として出品される時間帯となった。


ギールとしても、今まで出品された美術品などよりも、スキルブックなどの方がよっぽど興味がある。


それでも……基本的にモンスターや盗賊から奪い取れるスキルには興味がない。


「双剣技のスキル、白金貨一枚と金貨十枚で落札です!!!」


(……解ってはいたけど、本当に恐ろしい値段だな)


今だからこそ、高みの見物気分で心に余裕を持てるギールだが、少し前までは痛い程……主に貴族たちが必死でスキルを手に入れようとする気持ちが解る。


(雷魔法……もしくは、風魔法。どっちかが出たら落としたい!!)


魔法スキルを持つ者はそれなりに貴重であり、会得できれば職業が失業することは殆どない。

そのため、魔法スキル持ちが盗賊に落ちるケースはあまりないため、そういった手段では中々得られない。


モンスターも魔法スキルを習得している個体は……いるにはいるが、ギールが望む属性魔法を習得しているとは限らない。


「こちら、雷魔法のスキルブックとなります!!! スタートは金貨五十枚です!!!!」


「ッ!!!」


司会がそう口にした瞬間、速攻で鑑定を使用して本物かどうか確かめる。


(マジ物だ!! 出来れば手に入れたいが……どこまで吊り上がるんだ?)


金額は双剣技の白金貨一枚と金貨十枚をあっという間に突破。

ソロで冒険者活動を始めてからそれなりに貯め込んできたが、それでも超大金持ちではない。


「白金貨五枚!! 白金貨五枚が出ました!!! 他にはいませんか!!??」


貴族の個人が使える懐事情を考えれば、中々の大金。

しかし……白金貨五枚は、まだギールの許容範囲だった。


「ッ!!! は、白金貨六枚!! 白金貨六枚が出ました!!!!」


「「「「「「ッ!!??」」」」」」


白金貨五枚を提示した者も含め、驚愕の表情を浮かべる。


金貨十枚……もしくは、金貨五十枚の競り上げではなく、一気にプラス白金貨一枚。


お前らと競り合うつもりはない、これで終わりだ。

という意志を示す競り上げ方を従業員から教えられていたため、早速実行。


まだ他にも出品されるスキルブックはあり、スキルブック以降も他の商品が出品される。

先のことを考えた結果、全てらのライバルが戦意を引っ込めた。


「白金貨六枚! 雷魔法のスキルブック、白金貨六枚で落札です!!!」


念願の雷魔法をゲットすることに成功。

ギャンブルを行う時の様にポーカーフェイスを保っているが……内心では、他の参加者たちと競り合わずに済み、心の底からホッとしていた。


(良かった~~~~~。正直、競り上げられるとかなりきつかったからな……いやぁ~、本当に良かった良かった)


まだギールの手元には白金貨が残っているが、それは今後それなりに良い暮らしを続けるための金。


それ故に……ギールとしてはもっとマジックアイテムなども落札したかったのだが、これ以上金を使ってしまうとヤバいことぐらいは解る。


(オークション自体が終わるまで待たないといけないんだよ。面倒だが、競り落とした雷魔法のスキルブックはちゃんと持って帰りてぇし……大人しく待つしかねぇか)


どれだけ良質なマジックアイテムが出品されても、今の暮らしを捨てない為に、これ以上金は使わない……そう決めた筈だったが、未来というのはやはり完璧に予想出来ない。

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