第52話 帰ったら今度こそ
「ッ!? あいつ、私たちに気付いてる!!」
オリビアがそう叫んだ瞬間、既に冒険者風の服装をしていた盗賊たちを殺し終えたヴァイスサーペルスが四人に向かって毒液を吐いた。
「「「「ッ!!??」」」」
四人はギリギリで反応することに成功し、無事に回避。
「こりゃ、逃げるのは無理だな」
「そうみたいだね!!!!」
二人の言葉から今後の予定が決定。
当初の予定通り、ヴェーラがタンクとしてヴァイスサーペルスの注意を引きながら、ギールとグロンが戦場を駆け回りながら攻撃をぶち込む。
そしてオリビアが後方から弓で牽制、妨害を行う。
(まさか、こんなに早くBランクのモンスターと戦うことになるとはな。まっ、練度が高いスキルをゲットできる良い機会だと思うしかないな)
Bランクモンスターが相手でも、以前のハードメタルリザード戦と同じくオルディ・パイプライブを発動。
結果、縛りの内容はスキルの使用が四つ。
勝利した報酬は毒魔法。
(ど、毒魔法か……珍しいスキルではあるんだが、なんでこう……火とか水、雷とかじゃないんだろうな……まぁ、白蛇にそんな文句を言っても仕方ないよな)
武器と魔力の縛りはないため、幾分戦いやすくはある。
しかし、これまで戦ってきたモンスターの中では、かなり長生きしている個体。
それはギールだけではなく、他三人にとっても同じ。
モンスターにも寿命は存在するが、基本的に戦い続けて長生きしている個体は……例外なく強い。
そしてそれはヴァイスサーペルスに当てはまる為、グロンは当然としてオリビアとヴェーラの表情にも一切油断の色はない。
そんな中、ギールだけはヴァイスサーペルスの素材について考えながら二振りの竜戦斧を振り回していた。
(正直、あんまり鱗は傷つけたくないんだよな~)
Bランクモンスターの素材ともなれば、高値で売れる。
そして鱗はそんな素材の中でも数が多く、倒し終えた後に分配しやすい。
グロンはそんな素材の心配などしてる余裕はないが、ギールはその辺りを気遣いながら、なるべく数か所に限定して竜戦斧による斬撃をブチかましていた。
いくらギールが魔力による強化と身体強化、腕力強化……加えて、竜戦斧の付与効果である腕力強化があるとはいえ、たった数撃で体内まで斬り裂けるほどBランクモンスターの討伐は甘くない。
「おぅらああっ!!!!」
とはいえ、一度斬撃を叩きこめば、必ず鱗は切断できる。
「ッ……シャァアアアアッ!!!!」
一人の男が、集中的に数か所だけ狙っている。
その戦法にヴァイスサーペルスはとっくに気付いていた。
攻撃力とその戦法に限れば、一番自分の命を脅かす存在は二振りの戦斧を持つ男。
であれば、まず集中的にそいつを狙って潰せば良い……という話ではない。
数か所を集中して狙ってくる人間の厄介だが、全身をくまなく鋭い刃で斬りつけてくる人間も厄介。
(もっと、もっと全体を、ヴァイスサーペルスに、次の攻撃箇所を、悟られない様に!!!!!)
自分の気配察知力は、今パーティーを組んでいる者たちの中では役に立たない。
故に、グロンは目の前の敵を倒し終えた後に、自分がぶっ倒れても構わない。
そう判断しながら全力で戦場を駆け回り、双剣を振るっている。
グロンも魔力を纏う強化、身体強化と闘気を纏うことによる強化の三重強化により、そう簡単にヴァイスサーペルスに捉われない速さと強さで回避と攻撃を両立。
戦力的には確実に中堅の中位以上であるオリビアとヴェーラの眼から視ても、グロンの機動力と攻撃力には頼もしさを感じる。
それと同時に、グロンがガス欠になる前に確実に仕留めなければという思いも生まれる。
(今度こそ食べる為に、きっちり生き残らないとね!!!!)
前回は機会を逃してしまったが、ヴェーラはまだまだグロンの捕食を諦めていない。
「おぅううらああああああッ!!!! 嘗めんじゃないよ!!!!」
本場のフレイムドラゴンやハードメタルリザードには劣るものの、白蛇であるヴァイスサーペルスもブレスを放つことが出来る。
しかし、ヴェーラは風属性が付与された大剣の力を発揮し、毒ブレスをやり過ごす。
後方に毒液が飛び散るものの、ヴェーラが稼いだ時間により、オリビアは余裕をもって回避。
(ちっ、三人に加勢するのが、難しくなってきた)
戦闘開始から数分後、ヴァイスサーペルスはグロンと同じく、残りの魔力量を考えずに攻撃を行う様になり、特に後方から水を纏った矢を射るオリビアを狙うようになった。
それなりに距離を取っており、回避という選択肢もあるものの、どうしても矢で相殺しなければならない場面もある。
そのため、避けるか避けられないといったギリギリのラインで攻める厭らしい攻撃が行えず、三人のサポートが出来ずじまい。
(いきなり、暴れ始めやがったな!!!!)
魔力をガンガン消費してくれるのはギールとしても嬉しいところ。
だが、魔力が有限なのは毒魔法で狙われているオリビアも同じ。
事前の解毒ポーションを全員用意しているが、場合によっては収納しているホルスターから取り出せない可能性がある。
(浮かせれば、良い感じの隙になるか?)
ギールとしてもそろそろ魔力の残力が気になり始めたが、強敵を相手にそんな事は気にしてられない。
疾風を発動して更に身体能力を強化。
ヴァイスサーペルスの察知力を完全に振り切り、なるべく頭に近い腹下に両手をかける。
「お、らあああああッ!!!!!!」
「ッ!!!???」
自身の視界がいきなり上昇し、ほんの一瞬とはいえパニック状態に陥る。
ヴァイスサーペルスほどの巨体と筋肉を持つ蛇であれば、体の一部を持ち上げられても、他の部分を動かして敵を攻撃することが可能。
ただ、それは事前に自分が上に飛ばされると予測出来ていたらの話。
視界が急上昇したことでオリビアに毒魔法を当てることも出来ない。
そしてその瞬間を待ってましたと言わんばかりの速さで、三人がフィナーレの準備に取り掛かる。
「はっ!!!!」
水の魔力を纏った三本の矢を同時に放ち、狙うは顔面の破壊。
しかし、ギリギリで勘付いたヴァイスサーペルスは無理矢理体を動かし、寸でのところで回避に成功。
「私の攻撃は、囮よ」
オリビアが呟いた通り、ここからフィナーレが始まる。




