第49話 狙われる要因?
「僕はいつも通りの理由で依頼を受けたけど、ギールはなんで依頼を受けたんだい?」
「あの受付嬢は俺たちセットに頼んだんだ。俺だけ断る訳にはいかないだろ」
脅迫的な意味はなく、ギールにとってあそこで断るという選択肢は本当になかった。
「ヴァイスサーペルスの肉は美味いって聞くし、鱗も防具の素材とかに使えそうだからな」
「……確かに僕が言うのもあれだけど、ギールの装備ってこう……防御面が薄いよね」
時には戦斧二振りを使って暴れ回る戦闘スタイルを取るのに、ギールの装備は全く前衛の戦士とは思えないほど……薄い。
「それは自分でも自覚してるよ。自己分析的に今は速さよりも力の方が優れてると思うんだけど、それなりに脚力の方もあるから、あんまり重装備は好まないけどちょっとぐらいはな」
ギールは現在モンスターから奪ったスキルの中に、脚力強化と疾風の二つを有しており、重装備でもやろうと思えば素早い動きが出来る。
しかし、強化系スキルを重ねて発動すれば、その分だけ多くの魔力消費する。
それらを天秤にかけた場合……ギールとしては、やはり重装備は自分に合わないと断言。
「手甲、脚甲ぐらいはどこかで造ってもらおうかなって考えてる」
「僕もそれぐらいは造ってもらった方が良いかもね」
二人が防具に関して意識するようになってから二日後、ギールとグロンはギルドにヴァイスサーペルスの件について呼び出された。
内容はお叱りや説教などではなく、ホリートの泉の水汲みに関する件で、他にも参加する冒険者との顔合わせ。
自分たち以外にもギルドから依頼を受けてほしいと頼まれた冒険者がいる。
それを知って……二人は、特にギールも怒ることはなかった。
寧ろ、Dランクである二人だけでBランクモンスターが徘徊してるかもしれない場所に向かえと言われる方が、基本的にブチ切れるもの。
(俺とグロンはぱっと見、前衛の軽戦士って感じだから他の面子はガッチリとしてタンク系の前衛と後方から魔法、もしくは弓を使うタイプだろうな)
一緒に依頼を受ける者たちの戦闘スタイルを予想しながら、顔合わせの部屋に入室すると……そこには、ひとまずギールの予想通りの冒険者二人がいた。
「彼女たちが、今回お二人と一緒に依頼を受けてもらう冒険者たちです」
ギルド職員が示す方向には、一人のエルフと一人の鬼人族がいた。
(うおっ! 二人とも良い女だな!!)
ギールの目に入ったのは、まず二人の女性冒険者の容姿とスタイル。
「私はヴェーラだ。よろしくな」
身長は同じ鬼人族であるファリエのメンバー、ナディアと変わらないが、胸の大きさは完全に一回りは上。
ついでに戦闘力に関しても一回り以上は上である。
「……オリビアよ」
そしてエルフのクール美女であるオリビアは、ギール(タレン)のかつての仲間であるミレイユに負けず劣らずの胸を持っている。
「ギールだ、よろしく」
「グ、グロンです。よろしくお願いします!!」
ギールは一応色気のある部分から目を逸らして挨拶をし、グロンは殆ど面識はないが、完全に先輩である二人を前に少々緊張していた。
(いや~、エルフの方の先輩には嫌われちゃったな~~)
自分にだけ少々痛い視線が飛んできている。
理由としては、性欲に満ちた視線を向けてしまったから、という単純明快が浮かび、特に抗議をする気は起きない。
「あぁ、二人ともよろしく。二人の話は良く聞いてるよ」
ヴェーラは鬼人族らしくムキムキな体型をしている割には、一時的にパーティーを組む相手などの情報収集は欠かさないところがある。
(二人ともまだDランク。けど、どっちもルーキーとしては上等。足手纏いにはならない……絶対にヴァイスサーペルスと遭遇する訳じゃないし、大丈夫そうね)
ここ数年はミディックで活動してることもあり、グロンに関してはある程度知っていた。
本当にまだ若い年頃の男の子であるにも関わらず、目標の為に毎日毎日がむしゃらに走り続け、つい先日には三つ目の壁を乗り越え、実力だけであればCランクである自分たちと殆ど変わらない。
そしてもう一人の若い冒険者に関しては、ここ半年以内に冒険者になったばかりの、正真正銘のルーキーであるにも関わらず、圧倒的な速度でDランクに昇格。
噂の真偽はまだ正確に確かめられていないものの、Cランクパーティーの冒険者たちと組んでBランクモンスター、ハードメタルリザードを討伐したという話がある。
実際に顔を合わせた結果、噂話が全て誇張され過ぎている……とは思えなかった。
「ヴェーラ、本当にこの二人と組まなければならないの?」
「内容が内容だからしょうがないじゃない。もしヴァイスサーペルスと遭遇したら、さすがに二人でどうにかできる可能性は低いってことぐらい解るでしょ」
二人とも、本当のところはやや自分に不満がある。
それを理解したギールは一応自身の手札を公開するという誠意を示した。
「一応、こういう武器は持ってる」
「わぉ!! 良い武器じゃない!!!」
「…………そうね、優れた武器なのは間違いないわね」
アイテムバッグから取り出した武器は、二振りの竜戦斧。
名斧を持っているからといって、本人が強くなければ話にならない。
しかし、冒険者が優れた武器を持っていれば……それだけで稼ぐ力を持っている証明にもなる。
「グロンに関しては、この前の戦闘で闘気を習得しました」
自身の実力を証明する為、グロンは右拳に闘気を纏わせる。
その光景に当然二人は驚きが表情に現れた……それと同時に、何故かグロンは寒気を感じた。
(本当に凄いわね……確かまだ十七歳、よね? そんな若さで闘気を習得出来るなんて……今回の依頼が終わったら、誘ってみようかしら)
(っ!!!!???? な、なんだろう……まだ寒い季節じゃ、ないよね?)
闘気を習得している男性は……一部の獣人や鬼人族、竜人族の女性から雄として好かれやすく、そういった特徴を知っているギール(タレン)は心の中で羨ましいと思いつつも……友人に心の中から合掌を送った。




