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第48話 バカ、脳筋ばかりではない

オーガウォーリアーの死体の解体後、それなりの時間だったこともあり、二人でミディックに帰還……する前に、軽い調整の為に模擬戦を行った二人。


竜魂の実を食べた影響もあって、同じ壁を三回越えた者同士とはいえ、身体能力ではそれなりの差が……実のところなかった。


「グロンは……あれだな。この先強くなっていく過程で得られるスキルはもう二つ……もしくは一つかもしれないけど、その代わり壁を越えた時に得られる身体能力の上昇幅が高いな」


「そうかな? あんまり自分では実感がないけど」


「いや、断言する。今のグロンは同じ壁を三回乗り越えた戦闘者と比べて、身体能力は間違いなく一回り上回ってる」


総合的な戦闘力はギールの方が上ではある。

ただ、実際に壁を乗り越えたグロンと手合わせをしたギールは……間違いなく、ナリッシュより身体能力が上だと感じた。


(偶にいるんだよな~。習得出来るスキルの数が多くない代わりに、スキルの練度が高まるのが速い奴……まっ、言い換えればスキルに対しての理解が深いって話なんだろうけど)


ギールの考えはあながち間違ってはおらず、一人で毎日毎日無茶をするために、グロンは自身が習得したスキル……双剣技と身体強化をどれだけ上手く使うか、などについてよく考えていた。


「まっ、とりあえず今日は呑むぞ! 勿論俺の奢りだ!!!」


その宣言通り、オーガウォーリアーの素材などの売却後、ちょっとお高い料理店に向かい……本当に腹一杯になるまで料理を堪能し、ギールが全て払った。


そして壁を乗り越えた祝いがそれでだけで終わることはなく、バーへそのまま向かい……ここでの代金もギールが全て懐から出した。


「ご、ごめん……ギー、ル」


「良いって良いって、気にすんな」


普段とあまり変わらない様子を見せていたが、内心では壁を越えられたことに大きな喜びを感じていた。


それ故に少々はしゃぎたい気持ちが大きくなり……いつも以上にカクテルを呑んでしまい、現在は完全にぶっ潰れていた。


そうなるまで呑んだカクテル代もギールが支払ったのだが……それなりに良い額になったが、ギールは全く気にしてない。

寧ろ最後の方はグロンのテンションがそれなりに上がっていたため、楽しい限りだった。


年齢が同じという理由で、壁を乗り越えた回数が追い付かれたという事実に対し……意外にも、そこまで悔しいという思いはなかった。

寧ろあんなに命懸けが詰まった極限の激闘を間近で観れたことに、感謝しかない。



(やっぱり装備品の強化がメイン、かな……一応剣技も使えるんだから、上等なロングソードを一本ぐらい買っても損はないよな)


友が壁を乗り越えてからの数日間、ギールは次の目的地について悩み続けていた。


その数日間で変わったことと言えば……ギールが同世代のルーキーたちから、兄貴と呼ばれるようになった。


冒険者が己の壁を乗り越えれば、基本的にギルドに報告しなければならない。

ギルドが用意した冒険者との模擬戦を行い、その冒険者と戦闘に対しての観察眼が優れている受付嬢の話し合いによって、正式に記録される。


三回目の壁越えを果たしたグロンは、既にCランクへの昇格条件を手に入れたも同然。

現在ミディックで活動しているルーキーたちの中でも、圧倒的な速さの出世。

同世代のルーキーたちは、もはや嫉妬しかしないしょうもない感情が消え……尊敬の眼差しを向けるようになり、敬意を持ってグロンを兄貴と呼ぶようになった。


「僕は止めてほしいんだけどね」


「はっはっは! 良いじゃねぇか、兄貴」


「ギールまでからかわないでよ」


「すまんすまん。でも……あいつらは本当にグロンの凄さに気付いて、慕い始めたからこそ、兄貴って呼び始めたんだと思うぞ」


同世代の冒険者であっても、敬意を持って兄貴と呼びたくなる。

その気持ちが多少なりとも理解出来るギール。


(たま~にだけど、カリスマ性があったり背中が大きく見える奴がいるんだよな。まぁ、グロンの場合はそういうのじゃなくて……努力の結晶、大きな足跡を見せたからこそ敬意を持つようになったのかもな)


依然として友人という立場は変わらないが、ギールも彼らと同じくグロンの根っこの強さに敬意を抱いている。


「それに、一緒に依頼を受けてほしいって声をかけられる様になったんだろ」


「そう、だね……以前と比べて凄い増えた気がする。嬉しいんだけど、これからも目標の為に追い込んだ勝負をし続けるつもりだから……うん、申し訳ないけど一緒に冒険は出来ないんだよね」


「ん~~~……お前のそういう相変わらず無茶を続けるっていう方針は否定しないけど、適度にそいつらの相手をしといた方が後々の面倒は回避できると思うぞ」


意外にもギールはグロンの判断に待ったをかけた。


曲がりなりにも七年、冒険者として活動し続けてきたからこそ、アドバイス出来る内容である。


「後々の面倒、か……人付き合いからは逃げちゃダメ、っていうこと?」


「簡単に言うとそういう事だな。全ての誘いを受ける必要はないけど、少しぐらいは周囲からの誘いに乗っておいた方が良いと思う……まっ、誘ってくる人物によっては完全に断った方が良い場合もあるだろうけど」


冒険者は基本的にバカで脳筋野郎が多い。

しかし、過酷な世界で生き抜くためにはずる賢さも必要になる。


それを極めた者ほど……本当に世間知らずのルーキーを騙すのが上手い。


グロンの戦闘力は完全にルーキーの域を抜けているが、そういった面ではまださほどルーキーと変わらない経験値しかない。



「是非とも、お二人に受けて頂きたい依頼があるのですが」


場所は変わり、冒険者ギルド内で二人は一人の受付嬢に声をかけられる。


可愛らしい受付嬢が是非とも二人に受けてほしいという依頼の内容は……ホリートの泉の水の汲んできてほしいというもの。


その泉の水は錬金術だけではなく、料理にも使用できる超高性能な水。

泉から水を汲むだけの依頼など、楽勝過ぎる……という訳ではないからこそ、受付嬢は若手の中でも特に有望な二人に声をかけた。


「ホリートの泉……確か、ヴァイスサーペルスがよく訪れると噂の」


「ヴァ、ヴァイスサーペルスか……なるほど、俺らで一応最低限って訳だな」


Bランクモンスターの白蛇。

見る者によっては神秘的な白い鱗を持つ蛇なのだが……吐き出す毒の強さは以前、ギールが戦った毒蛇、ヴェノムコブラよりも上。


それなりのリスクがある依頼だが……二人に断るといった選択肢はなかった。



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