第47話 切れかけたその瞬間
「グロン! 今たす「来るなっ!!!!」っ!!?? えっ、ちょ…………はぁ~~~、そういうことか」
今助けにいく!!!! と口にしようとした瞬間、思いっきり救援を断られた。
普通なら「なんだその態度は!!!」とブチ切れてもおかしくない。
グロンをそれなりに知っているギールとしては、怒声を上げて救援を断られたことに対して……ブチ切れることはなく、ただただ心底驚いた。
そして直ぐに、何故グロンが自分の救援を断ったのか理解した。
(あの顔は……見覚えがある)
過去に、元パーティーメンバーであるレオルやリリー、テオンなどが時偶浮かべていた好奇心丸出しの……人によっては狂っていると思うような笑み。
目の前の強敵を相手に、どうにかして自分の手で倒すという決意も交じっている。
それらの思いを直ぐに把握したギールは……一先ず、フレイムドラゴンの素材によって造られた短剣を取り出し、いつでも投げられるようにスタンバイ。
(あぁいう時、体に今なら何でも出来るっていう全能感が溢れ出てるもんだが……それでも、本当に殺れるのか?)
グロンは死ぬ気で戦うことに関して、非常に慣れている。
それは重々解ってはいるのだが……それでも、相手は並ではない攻撃力と防御力を持つオーガの上位種。
(やあっぱりウォーリアーなだけあって、ちゃんと剣技を習得してやがる。練度も最近覚えたてとか……そういうレベルじゃねぇ)
一般的なオーガであれば攻撃力は高くとも、それなりに動きが大雑把になるもの。
オーガウォーリアーでも素手による戦闘になれば動きは大雑把になるが、剣を持ったとなれば非常に動きに技術が加わる。
技術面でグロンが負けている訳ではないが、暴力に技術が加わってしまうと……中々手が付けられない。
(グロンが身体強化のスキルを習得してるのが幸いなところだが……ハラハラする場面が多過ぎる)
身体強化と魔力を体に纏うことによる二重の強化。
今までの経験から必要な瞬間だけに魔力を纏うという、魔力節約の技術も身に付けている為、まだ魔力切れの心配はない。
攻撃はオーガウォーリアーの筋肉に弾かれることはなく、一応斬り裂けてはいるが……中々筋肉より奥に刃を斬り込めない。
逆にオーガウォーリアーの攻撃がグロンに当たれば……間違いなく、ぶった斬られてしまう。
(剣じゃなくて棍棒とかならって話じゃないんだよな。当たれば確実にアウト。掠るにしても……斬り込み具合によっては、出血でアウトまでの時間が一気に縮まる)
既にグロンの体にはいくつもの切傷が刻まれている。
全能感からくる影響で、普段よりも相手の動きを正確に捉える力が向上している。
しかし……その力が向上しても、自身の身体能力が爆上がりすることはなく、オーガウォーリアーの身体能力が激下がりすることもない。
いつ、戦況が悪い方向に傾いてもおかしくない……そんな状況がもう、何分も続いている。
(あのオーガウォーリアー……筋肉に力を入れれば、出血を抑えられるって理解してる……のか? それはそれで大量出血で追い詰められなくなるが……今のグロンなら、それはある意味チャンスに変わる、か)
既にオーガウォーリアーの体には、グロン以上に多くの切傷が刻まれている。
確かに切傷であれば筋肉の収縮によって失血を防ぐことが出来る。
切傷が一つだけであれば、その一点だけを意識すればそこまで戦闘に支障は現れないのだが……グロンは見事オーガウォーリアーに予測されない様に、まばらに全身を斬り裂いている。
つまり、オーガウォーリアーは今、全身に力を入れながらちょこまかと動き回る人間を相手に剣を振るっている。
力は、要所要所で込めなければベストな動きは出来ない、
(マジか…………マジで、グロンが追い詰めてる、のか?)
オーガウォーリアーの動きの質は確かに下がっていた。
しかし、グロンのスタミナや集中力も無限ではない。
全能感がまだ途切れていないからこそ、自身の疲れに気付けないこともある。
ギール(タレン)の標的であるレオルも、その落とし穴に気付けず痛い目を見たことがある。
「っ!!!!!」
そんな事を考えていたタイミングで、グロンのスタミナが切れ……エンジンがストップ。
「グゥゥゥウアアアアアアアッ!!!!」
ウォーリアー……戦士はその決定的な隙を見逃さず、剛剣を全力で振るった。
当然、ギールは右手に握っていた短剣に火を纏い、ぶん投げようとしたが……次の瞬間、グロンはその場から消えた……と思える程の速さで移動。
「ッ!!?? グ、ゥ……ァ」
「……おいおい、それはちょっと……凄過ぎるんじゃ、ないか?」
ガソリン切れで失速したと思われたグロンは急発進し、見事オーガウォーリアーのミスを誘いだした。
そして今回の戦いの中で一番の速さで移動し、背後から首を斬り裂いた。
(竜人や鬼人、獣人たちはそれなりに習得出来る者がいるとは聞いてたが……はは、まさに覚醒したって感じだな)
スキル、身体強化を極めていけば、闘気という独自の力を扱えるようになる。
それは魔力と同じく体に纏えば身体能力が強化され、魔力以上に防御力に優れた力。
故に、身体強化のスキルは前衛の戦士や剣士、斥候だけではなく魔法職などの後衛たちの中にも欲する者が多い。
「……ッ!!??」
極限まで集中力を高めていてたグロンはオーガウォーリアーの首を切断する時に声を張り上げることはなく、倒し終えた後も雄叫びを上げることはなかった。
そして極限の集中力が切れた瞬間、糸が切れた人形の様に地面に倒れ込んだ。
「よぅ、お疲れ。無茶苦茶見応えがあったっつーか、色んな意味でドキドキした戦いだったな」
「ギー、ル…………あっ! その、さっきはごめん」
先程、自分を助けようとしてくれた友人に対し、怒鳴り声で拒否したことを思い出し、深々と頭を下げる。
「はっはっは!! 別に良いって、ちょっとびっくりしただけだし…………怒鳴って拒否するほど、良い感じに集中出来てたんだろ」
「う、うん……なんだか、今までにない高揚感だった……と思う」
その高揚感は一旦収まったが、今度は別の高揚感がグロンの中に生まれていた。
「本当に良い戦いだった。それと、おめでとう。三つ目の壁を乗り越えたな」
「な、なんで解るの?」
「解って当然だろ。戦闘のことをあまり解ってないずぶ素人でも、今お前が一つ上のステージに登ったことは、解ると思うぞ」
ソロでのオーガウォーリアーを討伐。
グロンは見事偉業を達成し、高い高い壁を乗り越えた。




