第45話 少し正論を混ぜる
連れてこれらた場所に、謎に上から目線の嫉妬ボーイたち以外はいない。
(どうやらCランク冒険者はいないな。最近もう良いかと思い始めてきたとはいえ、避けられるなら避けるに越したことはない)
Cランクと正式な模擬戦や決闘ではないとはいえ、勝利してその話が広まれば……一気に注目度が上がる。
「それで、いったい俺たちに何の用なんだよ」
「てめぇ……アリアさんに手を出しただろ」
「アリアさん? アリアさんって……あぁ、あの可愛い受付嬢の」
数日前、ホーネッツビーの蜂蜜を交換条件に、ギールは彼女とその夜……そのまま一夜を過ごした。
(可愛い顔に低身長、そこに超巨乳ってギャップ付き……あの夜も良い夜だったな~)
その夜の出来事を思い出し、無意識に顔がだらしなくなる。
当然……そんな表情を目の前で浮かべられては、嫉妬ボーイの怒りが爆発するというもの。
「お前、アリアさんだけじゃなくてルリナさんにも手を出しただろ!!!!」
「ルリナさんって言うと……あの槍使いの前衛の女性冒険者か」
腹筋バキバキのランサーである女性であるため、女性らしさを求める男性からは敬遠されがだが、ギールとしては付き合う云々の関係でなければ大歓迎。
同じくホーネッツビーの蜂蜜を交換条件に、お互いに溜まった性欲を発散した。
「二人だけじゃなくて!!!」
その後も二人を囲む少年青年たちは、次々にギールに怒りと恐れの感情を持ちならが真実を問い詰め……ギールはあっさりとその事実を認めるというやり取りが何度も行われた。
(す、凄いな……でも、ギールらしいと言えば、ギールらしい……のかな?)
ソロで活動するようになってから、そういった事情にやや疎くなったグロンではあるが、男性冒険者たちから好意を寄せられている主な女性冒険者、受付嬢たちぐらいはなんとなく覚えている。
そんな男性の憧れである異性たちと、夜を共に過ごした……歳は変わらない(嘘)のに、本当に色々と凄い人物なのだと、改めて解かった。
それと同時に……何故、自分は今ここにいるのだろうという疑問も生まれた。
「て、てめぇ……何ヘラヘラと笑ってんだ!!!」
「いや、別に笑ってはいないんだけどな。それで、それらを確認して……お前たちは何をしたいんだ? というか、それだけならグロンは関係無いだろ」
「お前と一緒にいるそいつだって、どうせお前のおこぼれを貰ってんだろ!!!!」
(……風評被害も甚だし過ぎないか?)
九割方はギールのせいではあるが、それでも心の中でツッコまずにはいられなかった。
「グロンはまだピュアピュアボーイだっての。つか、そんなに羨ましいならお前らも頑張ってホーネッツビーの巣を見つけて、頑張って倒せば良いだろ。数を揃えってしっかり毒対策をして挑めば、絶対に無理って話じゃないだろ」
「ぐっ!!」
かなり無茶な事を言っている自覚は本人もある。
しかし、ホーネッツビーはDランクの中でも防御力に難があるモンスター。
放たれる毒針と宙を不規則に飛び回る動きは厄介だが、攻撃力が優れている者であれば、Eランクの冒険者でもその防御力を打ち破るのは難しくない。
つまり、現在二人を囲っている嫉妬ボーイズが本当に力を合わせてホーネッツビーの巣を潰そうとすれば、無事に蜂蜜をゲットできる可能性は……決してゼロではない。
それどころか、事前に細かい打ち合わせ、本当に入念な準備をしていれば、勝率は五割以上まで上がる。
「……そ、そんな準備をするのに、どれだけ金がかかると思ってんだ!!!」
「お前たちだって見た感じ、全く貯金がないわけではないだろ」
パッと見で、殆どの冒険者がDランクであると解かる。
高価なマジックアイテムの武器や防具、アクセサリーは買えずとも、悪くない品質の装備は購入出来る。
彼らの個人財産や、パーティーの財産を考慮すれば……ギールの言う無茶を実行できなくもない。
「破産しちまうだろ!!」
「バカ野郎!!! お前らのその想い人、憧れの人に対する想いはその程度なのか!!!!!!」
「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」
突然大声で返され、隣にいるグロンも含めてルーキーたちは震えた。
「全財産を失ってもその人の為に……ってぐらいの想いでハートを掴もうとしなきゃ、お前らが想う高嶺の花に手が届くと思ってんのか!! お前らの想いは、なんだかんだで無茶を越えられない程しょべぇのかっ!!!!」
何故か嫉妬ボーイズがギールを攻めていた筈なのに、ギールが嫉妬ボーイズたちに「お前らの根性はその程度なのか!!!」と説教を始めた。
「中々話しかけられない、誘えない、手を出せないからお前らにとっては高嶺の花なんだろうな……だったら尚更無茶しねぇと届く筈ねぇだろ!!! 色々言い訳してその無茶から逃げてんなら、そのしょうもない憧れなんざ捨てちまえ!!!!!」
さすがに言われっぱなしではいられず、嫉妬ボーイズたちも説教されて終わるのではなく反論しようとするが、先にギールの鋭い攻撃が放たれる。
「ここに、その無茶を実行してる同期がにいるってのに……お前らのその軟弱精神はなんだ!!! お前らちゃんとチ〇コと金〇付いてんのか!!!!!」
「っ!!!???」
いきなり自分のことを話しに盛り込まれ、グロンはどうしたら良いのやらと、あわあわと取り乱す。
だが、嫉妬ボーイズたちからすれば……改めて自分たちが出来ない無茶を実行してる同期がいるのだと思い知らされ……膝を付くほどの大ダメージを受けた。
「俺の交渉に文句を付けんのも、グロンの活躍に嫉妬すんのも……せめて無茶の一つや二つ乗り越えてからほざけ!!!!!」
地面に膝を付く嫉妬ボーイズたちにそう吐き捨て、ギールはグロンを連れて街に戻る。
「や、やっぱり凄いね」
「何がだ?」
「なんだかんだで喧嘩になると思ってたんだけど、拳じゃなくて言葉で黙らせるなんて……いや、本当に凄いよ」
力ではなく言葉で敵対する相手を黙らせ、圧倒する。
喧嘩という場であれば、まさに圧倒的な……真の勝利と言える。
とはいえ、ギールはまだまだ世の中を深く知らない若造には、それらしい言葉で熱く語って若干正論を混ぜれば意外と効くということを知っていたため、特に褒められることではない……というのは解っているが、正直面白かったという感想が強かった。




