第44話 あっちも生まれ変わってる
「~~~♪」
「……ギール、最近何か良いことがあったのかい? やけに楽しそうだけど」
珍しく一緒に森を探索する二人。
街を出る前から気になっていたことを、周囲に誰もいない今、尋ねた。
「はは、やっぱ顔に出てたか。実はな……」
「えっ……そ、そうなんだ」
Dランクモンスター、ホーネッツビーの群れを討伐し、素材や魔石だけではなく甘い甘い蜂蜜を手に入れた。
ギールは縛りありの状態でホーネッツビーを倒してしまったが、普通は背負うリスクを考えれば、そんなことは出来ない。
挑戦しようとも思えない毒地獄であるため、ホーネッツビーの蜂蜜は高値で取引される。
当然、カフェのメニューで蜂蜜が使われる料理の値段も、それなりにお高い。
女性は常に甘い物を求めている為……ギールが手に入れた蜂蜜は、砂漠のオアシスの如く喉から手が出るほど欲しい栄養。
まず、一人のそれなりに容姿とスタイルも整った女性冒険者が交渉をしかけた。
基本的にそういった交渉には金銭が使われるが、現在ギールは全くお金に困っていない。
なんなら大量に手に入れたホーネッツビーの毒針や魔石などを錬金術師に売って小金が手に入ったため、良い感じに暖かい。
そこでギールは変に回りくどくせず、ストレートに夜の相手をして欲しいと伝えた。
ギールの取引を持ち掛けてきた女性冒険者がギールよりも少し歳上だったこともあり、その対応に……やや驚く気はしたが、そう言われる可能性は頭にあった。
そしてギール(タレン)が割と悪くない顔だったこともあり、その女性冒険者は対価の内容を了承。
ギール(タレン)のギールは生まれ変わった影響をしっかり受けており、両者とも
非常に満足が行く結果に終わった。
当然、行為が終わった翌朝には約束通り、ホーネッツビーの蜂蜜を分け渡す。
しっかり約束を守るところと、夜の凄さが同時に伝わった結果……ギールは蜂蜜のお陰で女性冒険者だけではなく、受付嬢たちからモテモテとなった。
「僕はまだ経験がないからあれだけど……疲れないの?」
「疲れた分だけ気持ち良くなるって感じだな」
「そうなんだ……あのさ、一度体験すれば見える景色が変わるって先輩冒険者から教えてもらったことがあるんだけど、それって本当なのかな」
遠い目標に少しでも早く辿り着く為、猛ダッシュ中のグロンは今まで一度も女遊びなどしたことがなかったが。
しかし、久しぶりにそういった話題になり、思春期の青年らしく興味が蘇る。
「はは、まぁよく言われる言葉ではあるよな。男としての童貞を捨てたからって、強くなれるとは限らないし、見える景色が変わるってのは精神的な話で……正直、それが戦闘に関わってくることはあんまりないと思うぞ」
「そうなんだね。なら、単純に童貞を捨てたという事実にテンションが上がってるから、そう思うってだけなんだね」
「結果そんな感じだな……まっ、グロンにその気があるなら、二人で良い店にでも行こうぜ」
「……考えとくよ」
童貞はやはり好きな人、恋人との行為で捨てたい。
なんて青臭過ぎる考えは流石に持っていない。
逆にグロンは今の状態では、努力が実ってクリスタとそういう関係を持てたとしても、そこで重大なミスを犯してしまうのではという心配がある。
貯金はDランクとは思えないほど溜まっているので、上等な店に行く準備は出来ている。
「ギール、僕に戦らせてくれないか」
「勿論」
複数のゴブリン上位種と遭遇し、グロンはギールに頼ることなく周囲を警戒しながら観戦。
この戦いが終わってからもグロンがメインで戦うことが多いが、ギールはギールで双剣の戦闘光景を観察出来たため、メリットがゼロではなかった。
(もしかしたら、リリーの奴と戦うかもしれないしな……出来ることなら避けたいけど)
ギール(タレン)の目標は、レオルから聖剣技のスキルを奪うこと。
対戦して無事にスキルを奪い、速攻で離れたとしても……レオルが聖剣技の喪失に気付かない訳がなく、パーティーメンバーがそれを知れば、真っ先にギール(タレン)を疑う。
結果として、レオル以外のメンバーと可能性は無きにしも非ず。
「そろそろ帰るか」
「そう、だね」
いつもと違って傍に自分よりも強い友人が居たこともあり、グロンはより大胆に踏み込んで戦うことが出来た。
「ギール……あんまり聞き過ぎるのも良くないと思うんだけど、効率が良いお金の稼ぎかたってあるかな」
「おっ、ついに良い装備を買おうと決めたか」
「アイテムリングも新しいのを買おうと思って」
「そうかそうか。それなら……そうだな、冒険者としてって意味だよな」
効率の良い稼ぎ方と問われれば、屑寄りの人間であるギール(タレン)としての答えは、カジノでのギャンブル。
(あぶねぇあぶなねぇ。さすがにハマることはねぇと思うが、まだグロンには色々と早いよね)
しかし、冒険者としての効率の良い稼ぎ方は何かと問われても、パッとは浮かんでこない。
「……グロンは死ぬ気で戦うことに、異常に慣れてる。言い換えれば、相手の懐に入り込むのはマジでうめぇ。だから、その踏み込み、対処をパターン化したら一度戦ったことがある的は倒しやすくなって、一応稼ぐ額は増えていく……と思う」
本当に今思い付いた方法であるため、全く自信はない。
だが、グロンはギール(タレン)から伝えられた情報を真剣に考え始めた。
そしてあれこれ考えてる内にギルドへ到着。
依頼の品を納品し、素材の買取を行って終了……ではなく、ギルドから出ると二人はとある一団に絡まれた。
「おい、ちょっと面かしてもらうぞ」
(……どっかで見たことがある顔だな。あれか、謎に上から目線な態度でグロンは調子に乗ってるから、近々色々と解らせてやるってほざいてたルーキーか)
ギールとしては、特に嫉妬爆発ルーキーの誘いに乗る必要はない。
ただ……一団は自分だけではなく、隣のグロンにもやや敵意、嫉妬心などを向けているため、渋々といった表情でギールは連中に従い、再び街の外へと出た。
(冒険者ギルド内で仕掛けてこなかった辺り、多少頭は働くみたいだな。まぁ……それでも、集団リンチをしてこようが、大した問題ではなさそうだな)
とはいえ、万が一があってはならない。
嗅覚強化を使い、念のため安全を確認する。




