第42話 油断は禁物
ギールにしては珍しく同業者に対して真面目にアドバイスをしながら、その日は結局休憩以降……グロンの訓練に付き合うことになった。
「……二日連続でバーに行くのは、どうかと思うんだけど」
そう言いながらもカクテルを口にするグロン。
「まぁまぁ、金は持ってるんだろ? 昨日みたいに吞み過ぎずセーブすれば大丈夫だって」
「それもそう、か……」
「金があるなら、アイテムバッグ……もしくはリングとか、新しいのを買っても良いんじゃないか?」
目標の為にソロ活動を始めたグロンは、当然討伐依頼なども一人で受けており、手に入れたモンスターの素材や魔石の買い取り額も、独り占め。
故に、同じDランクの冒険者よりも圧倒的に稼いでいる。
「優れた武器を買うのは壁を越えるのに役に立たないっつーか、あまり適してないみたいなこと言ったけど、そういうのを買っても損はねぇと思うぞ」
「万が一のことを考えて準備する、か……そうだね、考えとくよ。ところで、ギールはミディックで休息を取った後、どの街に行こうとか考えてるの?」
特に決まっていない。
決まっていないが……休息期間が終われば、またレオルにタイマン勝負で勝つために、戦力を上げることをメインに活動しなければならない。
「……決まってないな。ただ、いずれはダンジョンに挑もうとは考えてる」
「ッ、冒険者たちの墓場……ふふ、僕も興味はあるよ」
「ばか、墓場なんて物騒な名前で呼ぶなよ。まぁ……あそこで何人もの同業者たちが死んでるのは間違いない事実だろうけど」
ギール(タレン)は知っている。
その入り口の先には人を墜とす絶望と、人を満たす欲が眠っていることを。
(墓場って言うか戦場に近い場所……いや、戦場イコール墓場か)
ダンジョンという迷宮に潜む敵は、無数に出現するモンスターだけではないと知っているからこそ、ギールはダンジョンを墓場ではなく戦場と考えていた。
「今よりも強くなる為には、いずれそこに挑む必要がある。俺の……目標を果たす為には、な」
「ッ!!!」
ゆっくりと口にした言葉に戦意や殺気など、他者を脅かす気迫はない。
それでも……隣で同じくカクテルを呑むグロンには、眼の奥に……揺るがない、明確な意思を感じ取った。
「その目標は……やっぱり、とてつもなく難しいのかい?」
「……多分な。まっ、グロンの目標と同じぐらい難しいんじゃないか」
「はは、それは確かに難しいね……でも、諦めるつもりは欠片もない……そうだよね」
「おぅ、そのつもりだ」
二人は最後にジントニックを呑み干し、翌日もまた自身の目標に向かって一歩踏み出す。
「ちっ! 運が悪かったな!!」
「ガルルゥアアアッ!!!」
翌日、冒険者ギルドで料理に使用出来る木の実、ハリグの実の採集依頼を受けた。
ギールとしては遭遇しても、Dランクのモンスターとしか遭遇しないだろうと油断していた。
しかし、ハリグの実が実る木の前まで到着した瞬間、同時にフォレストパンサーも到着。
(確かこいつの好物は、ハリグの実だったか。完全に俺を獲物を横取りしようとする敵って認識してやがる……間違ってねぇんだけどさ!!!)
Cランクモンスターであるフォレストパンサーであれば使う価値ありと判断し、オルディ・パイプライブを発動。
(縛りはスキルの使用は二つまで、か……まっ、無理ではないか)
迷うことなく一つ目のスキルは身体強化を選択。
そして……抜いた武器は、二振りの竜戦斧。
(技術力を試すには、悪くない相手だ……冷静に、見極めろ!!!)
ギールとしては脚力強化も使用したい相手だが、縛りの内容的にそれは不可能。
そんなことは重々承知しているが、久しぶりにフォレストパンサーと対峙したギールは……戦闘開始から十秒と経たずに縛り内容に不満を持った。
(やっぱり、こいつを相手にがっつり戦うのは、無理か!!!)
Cランクの中でも機動力に特化したモンスター。
その機動力、速さに関してはギールが先日戦った強敵、ハードメタルリザードよりもほんの少し上。
(まっ、それでも直線的なのは、有難いな!!!!)
攻撃が何処にとんでくるのかさえ把握出来れば、竜戦斧で防ぐことが可能。
フォレストパンサーは当然の様に魔力を纏って襲い掛かるが、今回は魔力の使用を禁止されてない。
竜戦斧の耐久力が高いこともあり、ぱっと見戦況は防戦一方の様に思えるが……精神的に追い詰められているのはフォレストパンサーの方だった。
「ガァアアアアアアッ!!!!」
「雑いッ!!!!!」
痺れを切らし、狙い重視から威力重視に攻撃が変化。
狙いから威力重視に変わったことで、行動に雑味が生まれ……ギールはその瞬間を見逃さず、全力でカウンターを叩きこんだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……クソ、このクラスの奴が相手だと、まだまだ慣れねぇな」
結果として、見事に首チョンパを決めたギール。
しかし、頬には僅かな切り傷ができていた。
(テオンやレオルみたいな無茶が出来る体を手に入れたとはいえ、この辺りは本当に慣れだよな……はぁ~~~、やっぱりそういう面……勇気とかは、グロンが上だな)
どれだけ強くなっても、まだまだと感じる。
とはいえ、無事にフォレストパンサーの討伐に成功。
他のモンスターが寄ってくる前にハリグの実を必要な分回収し、死体を別の場所で解体。
「こちらが報酬額になります」
「どうも」
報酬を受け取り、ギルドを出たギールはまだ時間的に早いこともあり、フォレストパンサーの素材などを捌きに職人街へ向かった。
「へぇ~、兄ちゃん……若いのに大した強さだな」
「どうも」
「革職人に伝手があるが、良ければ皮の方の代金も渡すが……どうする」
提示された金額に納得し、骨だけではなく毛皮もその場で売却。
(結構金が溜まってきたし……人に言うだけじゃなくて、俺ももっと質の良いアイテムリングを買うか)
CランクやBランクモンスターの素材を職人たちに売りさばいてきた懐は……シュバリエに在籍してた頃と比べて負けず劣らずどころか、かなり勝っていた。
(ん? あいつら……何を話してるんだ)
そ~っと動き、ギールは友人の名前が聞こえた会話に耳を傾けた。




