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第41話 魅せたギャップ、に気付かない本人

「てめぇ、さっさとそこどかねぇか!!!!」


「うっせ!!!! 今俺がニーナちゃんを口説いてんだからちょっと黙ってろ!!! つか、どうせお前もそのつもりなんだろうが!!!!」


(うっ、わぁ~~~~……クソ迷惑)


喧騒の先にいた人物は、二人の冒険者。


出店の看板娘を狙う二人は若干殺気立っており、今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気を出している。


(……ちっ! そんだけ強いんだったら金持ってるだろ。店でも行きゃ良いものを)


本当にお金を払ってくれるからこそ良くしてくれる店に行け!!! とは思っていない。

男性冒険者はそういったお店の女性や、女性冒険者以外の者に恋愛を求める。


多くの男性冒険者は、同業の女性が恋愛対象に見えないと口にする。

大人のお店で働くお姉さんたちに関しては……大概が腹黒なため、本当に自分が本命なのか常に疑ってしまう。


(周りには……いねぇみたいだな。クソったれ)


ここで見逃してしまえば、周囲に迷惑がかかる。

そんなキャラではないギールだが……冒険者の評判が下がり、その影響が自身に及ぶことは勘弁してほしい。


「おい、お二人さん。喧嘩するならギルドの訓練場とかにした方が良いんじゃないですか」


「いきなり何の用だガキ、が……」


ギールは自身の力を証明する為、両者の腕をガッチリ掴んだ。


流れとして、二人ともその掴みを振り払うところだが……動かせない。

魔力は使用しておらず、スキルも使用してない。

全力でも本気でもないが、明らかに自分より歳下の同業者に掴まれたのに、動かせない。


それだけで二人はいきなり現れた青年にまで喧嘩を売るのは違うと判断。


「そっちのお姉さん」


「は、はい!」


「お姉さんは、ムキムキで稼いでる人も好きだけど、ある程度マナーを守れる人の方が好きですよね」


「そ、そうです、ね……はい。その方が、好きです」


「「ッ!!」」


ギールの口からではなく、娘本人が口にしたことで、効果は抜群。


「っしゃ!!!! ダッシュでギルドに行くぞ!!!!」


「上等じゃねぇか!!! 速攻でぶちのめしてやるぜ!!! ニーナちゃん、ちょっとだけ待っててくれよ!!!!」


モテモテ娘、ニーナが返事をする前に二人は走り去ってしまった。


「出来るなら、最初からやれっての……大丈夫ですか?」


「は、はい! 大丈夫です!!」


モテモテ娘の無事を確認し、ギールは串焼き三本を買い、また別の出店へと向かう。


しかしこの時、ギールは重要なことに気付いていなかった。

今のギールはタレンだった頃と比べて、本当に顔面偏差値が上がった。

正統派イケメン風の顔ではないが、それでも決して女性受けは悪くない。


寧ろいたずら小僧風のイケメンが、見た目によらない丁寧かつ、暴力的ではない方法で殴り合いに発展しそうだった問題を……一応解決。

それが確かなギャップを生み……その時限定かもしれないが、モテモテ娘のニーナはギールに惚れていた。


声をかければワンナイトあったかもしれないイベントを、ギールは惜しくも逃してしまった。


「あいよ、冷えた果実水だ」


「ッ~~~、美味い!!」


少々お高い金を払い、マジックアイテムによって冷えた果実水を飲み、喉を潤す。


(そういえばグロンのやつ、今日は休むって言ってたけど、全然見ねぇな……もしや、そういう事なのか?)


数秒悩んだ結果、ギールは出店のおっちゃんにもう一杯果実水を頼み、なるべく零れない様に速足で冒険者ギルドへと向かった。


「……やっぱりか」


そこには一人で幻影と汗をダラダラと流しながら戦うグロンがいた。


「おい、休むことも強くなるには必要な事だぞ」


「ギール、か」


「ほれ、飲め」


「ありが、とう……ッ、これは」


「良いから良いから、気にせず飲め」


飲めば普通の水ではないと直ぐ気付く。

グロンは直ぐに金を考えたが、ギールは先回りして防いだ。


「ったく、水分が抜けちまったら体の強さだけじゃどうにもなんねぇんだ。ガッツリ訓練するにしても、水分だけはしっかり取れよ」


「そう、だな……ちょっと、調子が良かったら、気付かなかった」


「調子が良いって、昨日ぶっ潰れてたくせに……まっ、そういう時はもっと動きたいって気持ちは少し解るが、ほどほどにしとけよ」


「あぁ、そうするよ…………なぁ、こんな事をギールに聞くのはおかしいかもしれないが、格上の敵を倒すには、何を手に入れれば良い?」


歳が同じ者に聞く内容ではない。

場合によっては恥を晒すことになる。


頭が疲れでややボ~っとしているが、それが解からないほど焼き切れてはいない。

それでも、ギールには言葉に表せない安心感があった。


「……相手に嫌がらせを出来る武器、だな」


過去の自分はそれを手にしても、メインウェポンが弱い故に、上に登ることは出来なかった。


しかし、そのギール(タレン)から見て、グロンの双剣技は十分強力な武器という認識。


(属性魔法のスキルとか手に入れられたら、ぐっと格上の相手とも戦りやすくなると思うんだが、そう簡単に手に入るスキルじゃないからな)


先日の探索で土魔法と鋼鉄魔法を手に入れたギールだが、元々は一ミリも……ゴミカスほどの魔法に関する才能はなかった。

生まれ変われていなければ、仮に奇跡が重なったところで、自由自在に操ることは不可能に近い。


「投げナイフとか、投げ縄とかってことか?」


「投げ縄はちっと扱いがむずいが、そこら辺だな。マジックアイテムもありなんだが……グロンは格上を倒したいってよりは、壁を越えたいんだよな」


「うん、そうだね」


「そうなってくると、あんまりマジックアイテムでの強化ってのはよろしくないんだよな~」


これはギール(タレン)の経験に基づく感想ではなく、冒険者や騎士たち戦闘職全員を通して同じ感想を持っている。


「後は、敵に二刀流で戦うイメージが染みついた終盤に片方をぶん投げて、のけ反った瞬間を狙うってのも奇襲としてはありだろうな」


「な、なるほど…………なんか、ごめんね。俺ばかり色々と教わって」


ギールはグロンにとって一応先輩ではなく、同期に当たる同じ冒険者は。

そんな本来は切磋琢磨していく相手から貰ってばかりで良いのかと、そんな思いが零れる。


「気にすんな。気に入った相手じゃなきゃ、こうして色々話したりしないからよ」


別の決断をし、茨の道を進んだ自分。

そんなもしもを重ねてしまったからこそ……グロンには多くのこんなが待ち構えているが、目標を叶えてほしいという思いがあった。


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