表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/68

第39話 やはり回避できなかった

「よし、行くか」


ナリッシュと二回目の吞み比べで勝利した翌日、ギーラスは次の目的地へ出発。


着実にスキルを獲得して戦力を強化し、強力な武器もゲット。

そして次の目的は……休息。


目的を達成する為には、なるべく早く強くならなければならない。

そんな事は百も承知の事実ではあるが、常に頑張り続けることは出来ない。

今までの冒険者人生からそれを理解しているため、ギールは次の目的地を……料理が盛んな街、ミディック。


(あの街ではあまり長居出来なかったからな……今は金もあるし、二十日ぐらいのんびり飯食って休もう)


今まで手に入れた素材の中には持っていても仕方ない物があり、フレイムドラゴンやハードメタルリザードの血などは殆ど錬金術師などへ売却しているため、懐は非常に潤っている。


そしていつもの如く一人で街から街へ移動し、数日後にはミディックへと到着。


(やっべ~~~~、そこら中から良い匂いが漂ってきやがる)


店で昼飯を食べようと予定していたが、出店の料理を食べ回っていると、あっという間に腹が一杯になってしまった。


(冒険者を引退したら、この街で余生を過ごすのもありかもな)


まだまだ先にことを考えながらも、翌日には冒険者らしく適当な依頼を受け、周辺の森へ向かう。


休息がメインとはいえ、体を鈍らせていてはいざという時に動けなくなってしまう。

受けた依頼が昼前に終われば、森の中で素振りなどを行い、昼過ぎには街に戻って食べ歩き。


そんな日々を数時間ほど続けていたある日、ギールは森の中で一人の少年を発見。


(……随分と根性というか、勇気があるな。助けた方が良い気がしなくもないが……表情的に自分から挑んだんだよ、な?)


発見した青年が挑んでいる敵は、二体のオーク。


青年が扱う武器は双剣。

敵が二体という戦況を考えれば悪くない武器ではあるが、オークが相手ではやや火力不足。


(あの青年……死ぬ気で戦うことに慣れてるな)


生まれ変わる以前、戦闘の最前線に挑むには完全に実力不足となってしまったギール(タレン)だが、それでも何度か修羅場を……死線を乗り越えてきた。


そういった戦いを経験していれば、死ぬ気で戦うという言葉を表現する戦い方が、いったいどういった戦い方なのかを理解できる。

そんなギールから視て、オーク二体を相手に奮闘する青年の戦い方は、非常に死ぬ気で戦うことに慣れているように思えた。


「ハッ!!!!」


「ギバっ!?」


遂に一体のオークを戦闘不能に追い込み、一対一の状況になり……こうなってしまえば、もう後は時間の問題。


二対一であったからこそ青年は死ぬ気で戦わなければならず、一対一の戦闘であればそこまで討伐難易度は高くない。


「ふんっ!!!!」


「ッ!? ブ、ッ……」


見事、ソロでオーク二体の討伐を成し遂げた。


「よぅ、カッコ良かったぞ」


戦闘が終わったのを確認し、ギールはそれなりに傷が多い青年にポーションを渡した。


「はぁ、はぁ……あんた、誰だ?」


「さっきまであんたの戦いを観てた同じ冒険者だ。これはその観戦代だな」


「……そう、か。なら、ありがたく貰っとくよ」


悪い人ではない。

青年……グロンは一目でなんとなくという曖昧な感覚ではあるが、ポーションを観戦代と言ってくれた青年のことを信用した。


それから二人は互いに自己紹介を済ませ、日が暮れるまで一緒に行動。

夕食も酒場で飯を食べた。


「ギールは、なんでこの街に来たんだ?」


「休暇……というか、この街の料理を食べて英気を養うため、かな」


「はっはっは! なるほどな。その考えは解らなくもないな」


(……こいつ、良く見りゃそれなりにモテそうな面してるな)


少々ぼさぼさの黒髪ショートヘアと、髪には無頓着ではあるが、身長はギールと同じく百七十後半と、決して低くない。

顔も割と整っており、腕から見える筋肉から一目で鍛えていることが解かる。


「そういうグロンはどうしてこの街で……というより、なんでソロで行動してるんだ」


己が言うセリフではないと理解はしている。

しかし、ムートの時とは状況が違う。

ランクDでその街を拠点としていないのにDランクというのは非常に珍しい。


「……目標があるんだ」


「目標って言うと……もっと上のランクを目指すことか? それなら、ソロで活動するのは少し効率が悪い気がするんだが」


ソロで強敵を倒せば、ギルドはパーティー倒した者たちよりもその冒険者を高く評価する。

だが、ソロでモンスターを倒すという事は、それだけ死ぬ可能性が高まる。


長い目で見れば、効率の悪さは一目瞭然。


「ふふ、それはそうだろうな。自分でもそれは理解してるよ。でも……俺は少しでも早く、強くなりたいんだ。だから、元居たパーティーを抜けたんだ」


「…………なるほど。だから、あれだけ死ぬ気で戦うことに慣れてたんだな」


死ぬ可能性は確かに高まる。

しかし……ソロで活動することによって、確実に壁を越えるチャンスは増える。


「その理由ってのは……訊いても良い感じか?」


「そうだね……それじゃあ、ちょっと場所を変えようか」


二人とも既にアルコールは入っているが、更にアルコールが入る店へと移動。


「ふぅ~~~。切っ掛けは、本当に些細なことだった。その人が離れたところで戦うところを見て……まぁ、あれだよ。一目惚れしたんだ」


酒の力を借りても、少し恥ずかしさを持ちながらソロで活動する理由を口にした。


そんなグロンを……ギールが茶化すことはなかった。


「年齢は、少し離れてて……最近知った情報だと、その人は出会った時よりも更に上のステージに行ってた。だから、俺は少しでも早く強くなって、隣に立ちたいんだ」


「なるほど。一応我儘な理由だからこそ、仲間に迷惑をかけない様にパーティーを抜けたってことか……それで、その惚れた人ってのは誰なんだ?」


せっかく隠れ家的なバーへ移動し、まだ時間がやや早いこともあり、周囲に他の客はいない。


「……シュバリエってパーティーは知ってる、よな?」


「ん? お、おぅ。勿論知ってるぞ」


所属していたため、知らない訳がない。

そして……頭にもしかしたらという考えが直ぐに浮かんだ。


「シュバリエの……クリスタという女性冒険者に一目惚れしたんだ」


「ゲホ、ゴホッ!?」


もしかしたらと構えていても、咳き込むことは回避できなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ