第39話 やはり回避できなかった
「よし、行くか」
ナリッシュと二回目の吞み比べで勝利した翌日、ギーラスは次の目的地へ出発。
着実にスキルを獲得して戦力を強化し、強力な武器もゲット。
そして次の目的は……休息。
目的を達成する為には、なるべく早く強くならなければならない。
そんな事は百も承知の事実ではあるが、常に頑張り続けることは出来ない。
今までの冒険者人生からそれを理解しているため、ギールは次の目的地を……料理が盛んな街、ミディック。
(あの街ではあまり長居出来なかったからな……今は金もあるし、二十日ぐらいのんびり飯食って休もう)
今まで手に入れた素材の中には持っていても仕方ない物があり、フレイムドラゴンやハードメタルリザードの血などは殆ど錬金術師などへ売却しているため、懐は非常に潤っている。
そしていつもの如く一人で街から街へ移動し、数日後にはミディックへと到着。
(やっべ~~~~、そこら中から良い匂いが漂ってきやがる)
店で昼飯を食べようと予定していたが、出店の料理を食べ回っていると、あっという間に腹が一杯になってしまった。
(冒険者を引退したら、この街で余生を過ごすのもありかもな)
まだまだ先にことを考えながらも、翌日には冒険者らしく適当な依頼を受け、周辺の森へ向かう。
休息がメインとはいえ、体を鈍らせていてはいざという時に動けなくなってしまう。
受けた依頼が昼前に終われば、森の中で素振りなどを行い、昼過ぎには街に戻って食べ歩き。
そんな日々を数時間ほど続けていたある日、ギールは森の中で一人の少年を発見。
(……随分と根性というか、勇気があるな。助けた方が良い気がしなくもないが……表情的に自分から挑んだんだよ、な?)
発見した青年が挑んでいる敵は、二体のオーク。
青年が扱う武器は双剣。
敵が二体という戦況を考えれば悪くない武器ではあるが、オークが相手ではやや火力不足。
(あの青年……死ぬ気で戦うことに慣れてるな)
生まれ変わる以前、戦闘の最前線に挑むには完全に実力不足となってしまったギール(タレン)だが、それでも何度か修羅場を……死線を乗り越えてきた。
そういった戦いを経験していれば、死ぬ気で戦うという言葉を表現する戦い方が、いったいどういった戦い方なのかを理解できる。
そんなギールから視て、オーク二体を相手に奮闘する青年の戦い方は、非常に死ぬ気で戦うことに慣れているように思えた。
「ハッ!!!!」
「ギバっ!?」
遂に一体のオークを戦闘不能に追い込み、一対一の状況になり……こうなってしまえば、もう後は時間の問題。
二対一であったからこそ青年は死ぬ気で戦わなければならず、一対一の戦闘であればそこまで討伐難易度は高くない。
「ふんっ!!!!」
「ッ!? ブ、ッ……」
見事、ソロでオーク二体の討伐を成し遂げた。
「よぅ、カッコ良かったぞ」
戦闘が終わったのを確認し、ギールはそれなりに傷が多い青年にポーションを渡した。
「はぁ、はぁ……あんた、誰だ?」
「さっきまであんたの戦いを観てた同じ冒険者だ。これはその観戦代だな」
「……そう、か。なら、ありがたく貰っとくよ」
悪い人ではない。
青年……グロンは一目でなんとなくという曖昧な感覚ではあるが、ポーションを観戦代と言ってくれた青年のことを信用した。
それから二人は互いに自己紹介を済ませ、日が暮れるまで一緒に行動。
夕食も酒場で飯を食べた。
「ギールは、なんでこの街に来たんだ?」
「休暇……というか、この街の料理を食べて英気を養うため、かな」
「はっはっは! なるほどな。その考えは解らなくもないな」
(……こいつ、良く見りゃそれなりにモテそうな面してるな)
少々ぼさぼさの黒髪ショートヘアと、髪には無頓着ではあるが、身長はギールと同じく百七十後半と、決して低くない。
顔も割と整っており、腕から見える筋肉から一目で鍛えていることが解かる。
「そういうグロンはどうしてこの街で……というより、なんでソロで行動してるんだ」
己が言うセリフではないと理解はしている。
しかし、ムートの時とは状況が違う。
ランクDでその街を拠点としていないのにDランクというのは非常に珍しい。
「……目標があるんだ」
「目標って言うと……もっと上のランクを目指すことか? それなら、ソロで活動するのは少し効率が悪い気がするんだが」
ソロで強敵を倒せば、ギルドはパーティー倒した者たちよりもその冒険者を高く評価する。
だが、ソロでモンスターを倒すという事は、それだけ死ぬ可能性が高まる。
長い目で見れば、効率の悪さは一目瞭然。
「ふふ、それはそうだろうな。自分でもそれは理解してるよ。でも……俺は少しでも早く、強くなりたいんだ。だから、元居たパーティーを抜けたんだ」
「…………なるほど。だから、あれだけ死ぬ気で戦うことに慣れてたんだな」
死ぬ可能性は確かに高まる。
しかし……ソロで活動することによって、確実に壁を越えるチャンスは増える。
「その理由ってのは……訊いても良い感じか?」
「そうだね……それじゃあ、ちょっと場所を変えようか」
二人とも既にアルコールは入っているが、更にアルコールが入る店へと移動。
「ふぅ~~~。切っ掛けは、本当に些細なことだった。その人が離れたところで戦うところを見て……まぁ、あれだよ。一目惚れしたんだ」
酒の力を借りても、少し恥ずかしさを持ちながらソロで活動する理由を口にした。
そんなグロンを……ギールが茶化すことはなかった。
「年齢は、少し離れてて……最近知った情報だと、その人は出会った時よりも更に上のステージに行ってた。だから、俺は少しでも早く強くなって、隣に立ちたいんだ」
「なるほど。一応我儘な理由だからこそ、仲間に迷惑をかけない様にパーティーを抜けたってことか……それで、その惚れた人ってのは誰なんだ?」
せっかく隠れ家的なバーへ移動し、まだ時間がやや早いこともあり、周囲に他の客はいない。
「……シュバリエってパーティーは知ってる、よな?」
「ん? お、おぅ。勿論知ってるぞ」
所属していたため、知らない訳がない。
そして……頭にもしかしたらという考えが直ぐに浮かんだ。
「シュバリエの……クリスタという女性冒険者に一目惚れしたんだ」
「ゲホ、ゴホッ!?」
もしかしたらと構えていても、咳き込むことは回避できなかった。




