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第38話 スイッチはこっちも入ってる

「ナリッシュ、ちょっとだけ模擬戦に付き合ってくれないか」


「ッ……ヤダ」


偶々良い実験台と遭遇したギールは、目立つことなどお構いなしに、ナリッシュを模擬戦に誘った。


当然、先日の吞み比べで負けたこともあり、ナリッシュはその要求を拒否。

ただ……こういったやり取りに関しては、ギールの方が明らかに数枚上手。


「あっそ。まっ、あれぐらいで潰れるようじゃレオルさんと呑むことも出来ないだろうし、戦闘も呑みも中途半端ってことか」


「はっ!!??」


あっさりとギールの狙い通り、素通りすることなく乗ってきた。


「レオルさんって好みの女性のタイプに、確か吞める人って項目があったと思うけど……どちらにしろ、ナリッシュの想いは色々とその程度ってことだよな。すまんすまん」


「ちょっと待ちなさい」


「なんだよ……受けてくれるのか?」


肩を掴まれた方向に目を向けると、そこに鬼を錯覚させる形相のナリッシュ。


「良いわ、ボッコボコのギタギタにしてあげる」


「そうこなくっちゃな」


「面白い話をしてるね。それなら、私が審判をしようかな」


ガルネが現れ、その発言通り二人の模擬戦の審判を務めることになる。


二人がギルドの訓練場に向かおうとする中、ギールは全く別方向を指さし、歩を進める。


「もしかして森の中で戦うつもり?」


「あぁ、そうだ。なんだ、ビビってるのか」


「ビビってる訳ないでしょ!!!」


「だろうな。っと、先に言っとくが、使う武器は刃引きなしだ」


ギールの言葉に、二人の瞳が揺れる。


冒険者同士で模擬戦を行う場合、基本的に刃を潰した武器。

もしくは木製の武器で戦う。


両者の実力が大きく離れている場合は、実力が低い側だけが真剣で戦うこともあるが、現時点で二人の実力は……スキルを含めない場合、そこまで大きな戦力差があるとは言えない。


だからこそ……真剣で模擬戦を行えば、十分死ぬ可能性がある。


「……これだけ挑発してきたんだから、死んでも文句はないんでしょうね」


「おいおい、殺気漏れすぎだっての。そうだな……ポーションで治る傷、腕か脚一本がギリギリラインだな。ガルネ、そこら辺頼んだ」


「全く、無茶を言うね~。しっかり見極めるけども」


街から出て少し歩き、周囲に誰もいない場所へ到着。


お互いに相棒と呼べる武器は使わない。

勿論、ギールも竜戦斧ではなく、一般的な頑丈さが売りの戦斧二振りを取り出す。


「? 何それ」


「何それって……見ての通り戦斧だ」


「それは解ってる。だから、嘗めてんのってかって訊いてんの」


ギールが所有している武器スキルは、おそらく剣技。

それがナリッシュたちの予想であるが、決して間違ってはいない。


ただ……武器スキルは合計で三つ。

そのうちの一つが剣技なだけなのだが、それをわざわざ教える必要はない。


「安心しろ。嘗めてはない」


「あっそ……魔法、スキルの使用はなし良いのよね」


「魔力とかスキルを使ったら、どう考えても殺し合いだからな」


ハードメタルリザード戦、MVPは間違いなくギールだった。


しかし、ナリッシュもCランクの前衛としてきっちり仕事を果たしていた。

戦闘力はCランクの中位だが……所有スキルを加味すれば、上位に食い込まないこともない。


「二人とも、あまりエキサイトし過ぎないように……それじゃ、始め!!!!」


「ッ!!??」


スタートダッシュはほぼ同時。


ただ、ナリッシュのロングソードとギールの戦斧が勢い良く激突するが……ナリッシュはそのまま押し切ることが出来ず、二つ目の刃が迫る。


(こっちは、両手なのよ!!!!)


両手と片手で武器を振るう場合、当然両手の方が重さが増す。


「はっ!!!!!」


「おらおらおらっ!!!!!」


単純な話ではあるが、一つの武器と二つの武器を扱う場合、二つの武器を扱う者の方が、手数が多い。

手数の多さはそれだけで一つの武器であり、タイマン勝負に限れば常に攻め続けられる強力な武器。


決してパワーがないとは思っていなかった。

何かしらのカラクリがあるにせよ、ハードメタルリザードの爪撃を数秒は止めた男。

だが……今、ナリッシュは完全にパワーで押されていた。


(ふざけんじゃ、ないわよ!!!!!!)


パワーに自信、プライドがある訳ではない。

それでも、スピード寄りでヒットアンドアウェイが得意なスタイルだと思っていた相手に、その他の面で負けるわけにはいかない。


私情を抜きにして、純粋に負けたくないという思いが溢れ出す。


(っ! ……なるべく、早めに見極めた方が良さそうだね)


もう数年は一緒に活動しているからこそ、スイッチが入ったか否かが直ぐに解かる。


今のナリッシュにギールを殺すつもりはなく、その瞳に殺意はない。

ないのだが……何がなんでも倒し潰すという強い意志が宿っている。


(でも、今のギールには完全にスイッチが入ったナリッシュさえ、容易に対応出来る……深み? がある)


ナリッシュが完全にスイッチが入った。

それはギールもある程度理解しており、やりたい事や確かめたい事などの実験を無事に終えたため、行動を変更。


「あっ!!」


「ふぅ~~~。俺の勝ちで良いよな」


「ッ~~~~~~~~~!! ……クソッ!!!!!!!!」


怒りに身を任せ、左拳を近くの木に叩きつけ……バキリと折ってしまう。

それだけでナリッシュのパワーがどれだけ高いか伺えるのだが、ギールはその一歩先を進んでいた。


「おいおい、あんまり女子が大きな声でクソとか言うなよ」


「うっさい」


途中から斬撃を躱すのではなく、戦斧にぶつけてガード。

攻撃を行う場合はギリギリガード出来るであろうスピードで振り下ろし、武器破壊を実行。


結果、見事ロングソードをボッキリと折ることに成功し、模擬戦を制した。


「てか、なんでそんなに戦斧を上手く使えるのよ!」


「んなの……知らん」


「ちょ、ちゃんと答えなさいよ!!!!」


冒険者としてのマナーを色々と無視してるが、本人は怒りのボルテージが上がり過ぎて、すっかり忘れていた。


「はいはい、そこまでだよナリッシュ。誰にも言いたくない秘密や切り札はあるものでしょ。私も気になるけど、それ相応の対価を払わないとって話になる」


「うっ……それは面倒ね」


「んだよ、諦めが早いな。まっ、また吞み比べで勝ったら教えてやっても良いぞ」


どう考えてもナリッシュが勝てない内容を吹っ掛けるが、まんまと挑発に乗ってしまう。


「良いわ! やってやろうじゃない!! 今度こそ私が吞み勝つ!!!」


「言っとくが、負けた方が勝った方の代金を奢るんだぞ」


「上等! 財布の中空っぽにしてやるわよ!!!」


(ナリッシュ……どうなっても知らないよ)


夕食頃に他二人と合流し、夕食を食べ終えた五人は再びバーへ向かい……数時間後、先日のリプレイが行わることになった。


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