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第37話 一流の証

吞み比べでナリッシュを良い潰し、勝利の美酒を吞んだ翌日、ギールはタレン時代の知人である鍛冶師の元を訪れた……が、そこには知らない三十代のおっさんがいた。


「工房主は親父から俺に変わったんだよ」


「ッ!!!???」


衝撃の事実に、膝から崩れ落ちそうになる。

現工房主に失礼だと解っているため、なんとかギリギリで堪えるが、それでもギールが二振りの戦斧を造ってもらおうと思っていたのが先代の工房主。


決して目の前のおっさんがしょうもない腕しかないとは思わないが、それでも肩透かしを食らった気分。


「おい、坊主。俺の腕が信じられねぇってのか。あぁああっ!!!」


「い、いや。別にそういう訳じゃないんですけど」


あからさまにがっかり感が顔に出過ぎたため、工房主のおっさんが機嫌を悪くしてしまうのも無理はない。


「何を騒いでんだ」


「お、親父」


そこで運良く、ギールにとっての救世主が登場。

その機を逃すまいと、亜空間から素材を取り出す。


「あの、これらの素材を使って、二振りの戦斧を造ってほしいんです!!!!」


「ほぅ……ブロンズゴーレムとシルバーゴーレムの鉱石。しかも、こいつはハードメタルリザードの素材じゃねぇか」


先代主の男は既に年齢が五十を越えているが、ディランやボールドに負けない屈強な

肉体の持ち主。


(そういや、どっかの冒険者たちがハードメタルリザードを倒したって聞いたような……こいつが、そのうちの一人って事か)


腕が鈍らぬよう、今でも鎚は振るっている。

しかし、息子に工房主を譲ってからは、客からの依頼を直接受けようとしなかった。


(……こいつは、ちっと手に余るだろうな)


息子の面子を潰したい訳ではない。

プライドを粉々のスクラップにしたい訳でもない。


だが……鍛冶師としての本能が、自分が造るべきだと叫ぶ。


「解かった。戦斧二振りだな」


「親父っ!!!!!」


「騒ぐな。この素材はお前の手に余る。それとも……お前は、これらの素材の持ち味を殺すことなく活かせるのか」


「ぐっ……それは」


「今回は俺にやらせろ」


まだまだ親父、先代に鍛冶の腕では及ばないと頭も心も理解している。


客を相手にすることを止めた筈の父親が珍しくやる気になっているということもあり、現工房主のおっさんは大人しく引き下がった。


「三日後、まだここに来い」


「あ、ありがとうございます!!!!」


九十度に腰を折って感謝の気持ちを伝え、退出。


(なんで戦斧二振りを頼んできたのかは知らんが……まぁ、振り回せるだけの力はあるみてぇだな)


腰に短剣を装備してることから、短剣技のスキルを有していると思われてもおかしくない。

だが、依頼主の青年が頼んできた武器の製作は二振りの戦斧。

何故という疑問が浮かぶが、先代工房主はギールが置いていった素材に視線を向け……眼を光らせる。


提供された素材は、どれも簡単に手に入れられる素材ではない。

それだけで鍛冶師の血が滾るというもの。



「よぅ、いったいどんな武器を造ってもらうんだ?」


「内緒に決まってんだろ」


「良いじゃねぇか、教えろよ~」


商談が無事終わって出てきたところを、偶然ナディアと遭遇し、現在絡まれている状態が継続中。


ギールとしては、もうハードメタルリザードの討伐も終わったため、必要以上に関わりたくない連中である。


しかし、ナディアからすれば、ギールは今まで出会ってきた歳が近い連中の中で、骨があると感じた気に入った存在。


「手の内は簡単に教えるもんじゃねぇだろ。てか、あいつの介護は良いのかよ」


「ナリッシュか? 完全に二日酔い状態で、今はファナが面倒見てくれてるから問題無いぜ」


ほぼ潰れかけてた状態でアースクエイクを一気飲みし、撃沈したナリッシュ。

当然、翌日からいつも通り動けるわけがなく、ファリエはギールと同じく本日は休息日。


「んで、何を造ってくれって頼んだのかぐらい教えてくれても良いだろ。あれか、やっぱり短剣か? でも……そういえばお前、ロングソードを装備してたよな。てことは、もしかしてロングソードか?」


「……それ以外の武器だよ」


これ以上絡まれても面倒なため、それだけを教えた。


「……ふ~~~~ん。まっ、うちとしてはギールには俺と同じ棍棒か、大斧とかそういう武器を使う方が合ってるように思うけどな」


「なんでだ? 別に俺はゴリゴリのマッチョじゃねぇぞ」


「壁を越えた回数によってそんなの見た目じゃ解らねぇだろ。ただ、俺の直感つ~か……まっ、とりあえずギールにはそういう重量武器があってる筈だ」


魔砲剣をぶん投げようとした際のギールから、ハードメタルリザード以上の恐ろしい何かを感じた。


たったそれだけではあるが、ナディアにはギールがスピード寄りのアタッカーではなく、パワー寄りのアタッカーだと確信。


「そりゃどうも」


適当に流せばつまらなくなって離れるだろう。

そんな甘いギールの考えを打ち崩すがごとく、結局は昼飯まで一緒に食べるはめになり、すれ違う者たちから時折鋭い視線を食らうことになった。



「おう、来たか。注文の品、出来てるぞ」


「っ……ありがとう、ございます」


視なくても解る。

テーブルの上に置かれている二振りの戦斧が、どれだけ高品質なのか。


「名前は竜戦斧。素材にはお前が置いてった物以外にも、ミスリルを使った」


「えっ!!!!????」


オーバーリアクション……と、本人は思わない。


ミスリル鉱石が使われた武器は、冒険者にとって喉から手が出るほど欲しい……一流の証。

誰しもが欲しいと思う武器ではあるが、当然の様に値段が高い。


少年がトランペットを眺める感覚に近く、どれだけ頑張っても容易に変える一流の証ではない。


「安心しろ。二振りで金貨七十枚だ」


「い、良いんですか?」


「構わん。素材の殆どはお前さんが持ち込んだものだからな」


武器のランクは一から一応十まであり、竜戦斧のランクは五。

それはBランク……Aランクの冒険者が持っていてもおかしくない、まさにプロが持つ一流の武器。


付与されえた効果は腕力強化、竜殺し(小)、魔法反射の三つ。


予想以上の出来上がりに、支払金額に金貨十枚を上乗せした。

本人がどういった性格なのかを知っているギールは返答を聞く前に礼を言いながら退室。


満面の笑みを浮かべながら、その切れ味を試すために森の中へと向かった。



現在ギールの所有スキル。

短剣技、剣技、斧技、身体強化、嗅覚強化、脚力強化、気配察知、突進、ブレス、毒液、硬化、蟲甲殻、土魔法、鋼魔法

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