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第30話 お前に、何が解る

(まぁ、この距離なら何かあっても関わることはないだろ)


ナリッシュたちが座った席と、ギールが座っている席は近くはないが、遠くもない。

必然的に……彼女たちの会話が耳に入ってしまう距離だった。


「それでね、あの時のレオル様はね~」


急ピッチで酒を入れたナリッシュは夕食開始早々酔い始め、もう何度も仲間に話した自身の思い出を話し始める。


仲間たちは「その話、もう何度も聞いたよ」と伝えたところで「何度でも聞いてよ~~~」と返されるのが解っているため、うんうんと適当に頷きながら聞き流す。


「そういえば、またシュバリエが一つ功績を積んだらしいじゃない」


「そう、そうなのよ!!!」


ハーフドワーフ……ガルネの言葉に、意識せず聞いていたギールは無意識に耳を意識的に傾ける。


「たった五人で三十体以上のオーガとオーガジェネラルを倒したの!! やっぱりシュバリエは本当に凄い!!!!」


「ッ!!!」


三十体以上のオーガと、トップであるオーガジェネラルの討伐。

多数のCランクモンスターとBランクモンスターという凶悪なモンスターをかつての仲間が討伐したと聞き、ここ最近はなかったレオルたちへの嫉妬心が再熱。


(……話を盛ってると思いたいけど、複数のオーガとオーガジェネラルを倒したって部分はマジだろうな)


シュバリエから追放されてからまだ半年も経っていないため、レオルたちの実力はまだよく覚えている。


故に、ナリッシュたちの話に尾ひれ背びれが付いていたとしても、概ね間違ってはいないと受け入れられる。


(レオルの聖剣技、リリーの俊敏さとミレイユの精霊魔法と弓技、テオンの堅牢な防御力にクリスタの攻撃魔法、回復力があれば三十体のオーガとオーガジェネラルも倒せる)


こう、思わずにはいられない。

今の自分が……彼らの仲間として傍に居ればと。


逆ギレ精神を持っているにもかかわらず、虫が良い話だというのは解っている。

だが……それでも、もしもというあり得ない世界線を考えずにはいられなかった。


「オーガジェネラルの大剣ごとぶった斬るレオル様の聖剣技……あぁ~~、その光景をお金払ってでも見たかった~」


「おいおい、そんな馬鹿なこと言ってたら愛しのレオル様に怒られるんじゃねぇのか?」


鬼人族のナディアが口にした言葉に……一瞬表情が固まる。


しかし、数秒後にはどういった妄想を浮かべたのか、アルコールの影響もあってだらしない顔になる。


「えへへ~。それはそれで……アリかも~」


「……ナリッシュの恋愛観は良く解りません」


「分からなくて良いと思うよ、ファナ。ナリッシュの場合はちょっと特殊だからね」


過去に助けられた白馬の王子様に恋をする。

あまり一般人が体験出来ない出会いではあるが、この世界ではそこまで珍しくはない。


白馬の王子に恋をする女の子がいれば、姫騎士に恋をする男の子もいる。


ただ……ナリッシュほど白馬の王子に少しでも近づくために、ガチで努力と実績を重ねられるケースは珍しい。


(レオルの奴も変な娘を助けたな。てか、あいつ今まで結構女の子を助けてきたよな……いや、勿論老若男女関係無しに人を助けてきたけど……もしかしたら、後ろから刺されるかもな)


過去のレオルが助けた女子の中で、恋に落ちなかった者はいない。

憧れるだけで十分と割り切る者もいたが、中には割り切れない者たちも多くいる。


(別にレオルの奴が刺される分には良いんだが……クリスタが狙われるかもしれない、よな……)


もう終わった恋なのは理解している。

自分が入り込む隙間など無いのは解っているが、それでも初恋である彼女の身は心配だった。


しかし、シュバリエには頼れる女性陣がいる。

それを思い出し、自分が心配する必要は一欠片もないと安心し、店員に空になったエールのおかわりを頼む。


「にしても、それだけの化け物たちと戦って誰も死ななかったってのは、やっぱりすげぇよな」


「確かに凄いの一言。私たちでもオーガ一体が相手なら誰も死なずに倒せる。でも、三十体以上とか絶対に無理」


「そういえば、シュバリエのメンバーが一人抜けた、って話も聞いたね」


ガルネの口から零れた言葉が耳に入った瞬間、血の気が引いたギール。

体が硬直し……何も悪い事をしてないに、何故か体が震える。


既にギール(タレン)がシュバリエから抜けて約三か月が経っている。

その話が冒険者の間に広まっていてもおかしくはない。


振り返れば、追放……優しさゆえの脱退を勧められたのも当然。

逆ギレ精神は消えていないが、それは本人も解っている。


「あぁ~~、あれだよね。私その人知ってるよ。私としてはねぇ~~……その人、抜けて良かったと思ってるよ。だって、あんまり強くなかったって言うか、レオル様たちに合ってなかったもん」


「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


毛が、皮膚が……肉や骨が、脳が血液が、細胞が……心が、己の全てが沸騰した。


お前に何が解るのだと。

あの時助けられるだけの存在だったお前が、どの口でほざいてるんだ。

お前如きに、俺の何が解る。何を知って、ふざけたことを口にしてるんだ。


あらん限り怒りを乗せ、怒鳴り散らしたい気持ちを必死で抑える。

今すぐにでも拳を振り下ろしたい。

テーブルが壊れることなんて構わない。

目標達成まであまり目立たない様に行動するという方針を崩し、今すぐにでもナリッシュに掴みかかり、ふざけた言葉を遠慮なく吐き出す口に拳骨をぶち込みたい。


(あんのクソ、餓鬼が……はぁ、はぁ、はぁ)


ここでも冒険者歴七年の経験が活かされる。

日常面、冒険中の面であっても、己の激情を隠さなければならない場面に必ず遭遇する。


それが出来るか否かで、冒険者としての寿命が延び、命が助かる場合もある。


(思い出せ。俺の目標はレオルの聖剣技を奪う。俺の目標はレオルの聖剣技を奪う。俺の目標はレオルの聖剣技を奪う。俺の目標は……)


何度も人生のこれからの最大目標を心の中で呟き、時間をかけて心を落ち着かせた。


(…………よし、さっさと出よう)


これ以上その場にいれば、殺人者になるかもしれない。

逆ギレ人生を送れど、やはり自由は失いたくなかった。


その日の夜、ギールはいつも以上に意識が落ちるまでに時間がかかった。


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