第29話 尖り過ぎなバラ
「お前らと酒なんて吞んだら不味くなるって言ってんだろ!!!」
その怒号と共に、豪快な拳がナンパ男の顔面を貫き、地面に叩きつける。
(うっ、わぁ~~……綺麗なバラには棘があるって言うが、ありゃちょっと尖り過ぎじゃねぇか?)
酒場に居る客全員の視線が一点に集中。
中にはしつこいナンパ男を殴り倒した女性冒険者に拍手を送る者もいた。
「て、てめぇ! 何すんだ!!!」
殴り倒された男の仲間が武器に手をかけようとした瞬間、鬼人族とハーフドワーフの女性冒険者が立ち上がる。
「おい、そっから先はシャレになんねぇぞ」
「ナディアの言う通り。今なら、床の修理代を置いていけば見逃すよ」
女性冒険者……と言うには、彼女たちの肉体はかなりがっしりとしている。
男たちは完全に彼女たちの圧に屈し、金貨数枚を置いて店から出て行った。
「ったく、強くないのに変に絡むんじゃないっての」
「ナリッシュの言う通りだぜ。強い男なら歓迎しなくもねぇけどな」
ナリッシュ……鬼人族の女性冒険者が口にした言葉が、先程までのモヤモヤを徐々に晴らしていく。
(ナリッシュ、ナリッシュ……ナリッシュって、もしかしてあの小娘か!!??)
再度ナンパ男を豪快に殴り倒した女性冒険者へと目を向ける。
名前を聞き、ようやく何故見覚えがあるのかを思い出した。
(あの時、レオルが助けた女の子か……はぁ~~~、あの時の小娘がまぁ~実ったな)
先程のナンパ男と同じ、下心満載の感情が目に宿りそうになった瞬間、ギールは即座に視線をテーブルに移す。
元冒険者歴の七年間。
途中から強くなることは諦めたが、それでも学習はしてきた。
女性は男性が思っている以上に男のやらしい視線に敏感であり、冒険者などの戦闘職に就いている女性であれば、たとえ距離があってもやらしい視線を向けられている事に気付く。
(あっぶねぇ~。気付かれてない、よな?)
一旦食べることに集中しながらも、時折彼女たちの方へ視線を向けていた。
(レオルの奴に憧れて冒険者になったってところか。にしても、随分と質の良い仲間を集めたもんだな)
鑑定を使えばバレそうなため、習得しているスキルの内容や数は分からない。
だが、そこら辺の男性冒険者では敵わない実力を持ってることだけは解かる。
(……まっ、憧れるだけ憧れてりゃ良いよ)
彼女たちの才に僅かな嫉妬を感じ、ささっと残りを食べ、大浴場へと汗を流しに向かった。
「ブロンズゴーレム……もしくは、シルバーゴーレムだな」
まだフレイムドラゴンの素材は残っているため、ギールとしては追加でモンスターの素材ではなく、質の高い鉱石が欲しい。
鉱石であれば採掘して手に入れるのが一番だが、ライバルが多い。
そのため、Cランクモンスターと戦える戦闘力があるため、狙う方法は採掘ではなく討伐。
朝早くからダッシュでアルブ鉱山へと向かい、同業者たちからチラチラと視線を向けられるが、全て無視して入場。
(見つからなかったら、鉱山の中で一泊か……生まれ変わる前なら、半泣きだな)
鉱山内は当たり前の様に周囲はごつごつしている。
優れた寝袋でなければ、地面の堅さが原因で中々疲れが取れない。
「っと、コボルトか」
しかし、多くの意味で生まれ変わったギールであれば、大した問題ではなくなった。
「「「ガァアアアッ!!!」」」
鉱山の中でも身軽に駆け回り、侵入者を殺そうと血気盛んに襲い掛かる。
携帯している戦斧を手に取り、一刀両断。
仲間が一瞬で殺されて戸惑う隙を見逃さず、二撃三撃目を叩きこむ。
(やっぱり今の体には、こういう感じの武器がしっくりくるな)
倒し終えたコボルトから魔石だけを回収し、即座に移動。
さすがに鉱山内の道を全て覚えてはいないが、それでも必死で記憶を掘り返しながら進む。
「あれはロックスライムか……よし、やってみるか」
まだ経験が浅かった頃、ギールはロックスライムを侮り、蹴り飛ばそうとした。
だが……全力で蹴ったにも関わらず、ダメージを食らったのはギール。
幸いにもお怪我にはならなかったが、たかがスライムと侮り、痛い目に合ったのは事実。
「おっ、らっ!!!!」
自身に転がりながら突っ込んで来たロックスライムに向かって、脚に魔力を纏いながら全力で蹴りをぶち込んだ。
結果……ロックスライムはピンボールの様に跳ねることはなく、その場で爆散。
(……しまった、魔石まで蹴り砕いちまった)
何はともあれ、リベンジ達成。
そしてリベンジ達成後から数時間後、昼飯を挟んだ後に……ようやくお目当てのモンスターと遭遇。
「ブロンズゴーレム……まだ、こっちには気付いてないみたいだな」
すかさずオルディ・パイプライブを発動。
縛りはブレス、打撃系の攻撃の禁止。得られるスキルは硬化。
ブロンズゴーレムを相手にブレス、打撃系の攻撃を行えないのは厳しいシチュエーションではあるが、ギールは契約を破棄することなく奇襲を仕掛ける。
「ッ!!?? ッ!!」
「ちっ!! やっぱり切断は無理か」
頭部を切り裂いてしまえば、著しく機能を低下することが出来る。
そこから四肢を全て切断してしまえば、魔石を引き抜かずとも討伐が可能。
(魔力を纏っても無理とか、やっぱりゴーレム系のモンスターは相手するのが面倒だな!!)
決してノーダメージではないが、動きを阻害するほどのダメージはない。
(というか、今考えるとこういう系のゴーレムを素手で潰してたテオンって、やっぱり凄かったんだな)
かつての仲間のバカげた戦闘光景が脳裏に浮かぶも、自分は違うと言い聞かせ、決定的な隙を生みだすまで斬撃と脚の速さでやり過ごす。
(多分、あそこだな)
数分間に及ぶ攻防の中で、ブロンズゴーレムがやけに反応する部位があった。
その反応を見逃さず、懐に潜り込み、酸性の毒をぶちまける。
「ッ!!!???」
ヴェノムコブラが使っていた毒ということもあり、浴びせられた部分はみるみる溶けていき……ほんの少し、橙色とは違う紫の輝きが零れる。
(もういっちょ!!!)
今度は火属性の短剣を握りしめ、突貫。
火を纏った刺突は見事魔石を破壊し、ブロンズゴーレムを機能停止にまで追い込んだ。
「ふぅ~~~~……自分を追い込みたい訳じゃないけど、オーガより条件が緩かったか?」
もしかしたら、思った以上に自分が成長しているのかもしれない。
なんてことを考えながらブロンズゴーレムを解体。
数時間後にはアルブ鉱山を出て、ドーバングへ帰還。
(全部は使わないし……後で、どっかの鍛冶師に売りに行くか)
売却は明日にしようと決め、先日とは違う酒場へ向かい、注文を頼む。
(げっ、なんでお前らもこの店を選ぶんだよ)
ギールが注文を頼み終えてから数分後、先日しつこいナンパ男を殴り倒したナリッシュたちが酒場に訪れた。




