第28話 誰だっけ?
(明らかに木、モンスターとは違う匂い……そういうことだろうな)
一人で街から街へ移動するギールは、山賊たちからすれば格好の獲物。
たとえ獲物が男であっても、奴隷を売る奴隷商人へ秘密裏に売れば金になる。
「おぅ、兄ちゃん。ちょっと止まれや」
(……奇襲を仕掛けないあたり、数の力に酔ってるな)
過去に冒険者として七年ほど活動してきた中で、盗賊との戦闘は何度もあった。
初戦ではなんとか殺せても、直後にゲロを吐いた。
同じ人を殺すのは、決して良い気持ちではないと知っている。
それでも……こちらが殺らなければ、殺られるという至極当然の事実は……嫌というほど解かっている。
「お前ら、山賊だな」
「おい、俺は今止まれつったんだぞ」
山賊の言葉を無視し、オルディ・パイプライブを発動。
対象は山賊四人全員であり、縛りはスキルと魔力の使用禁止に加えて、脚による攻撃の禁止。
(なんというか、やっぱりって感じだな)
奇襲と数の有利を活かして獲物を狩る集団、それが盗賊。
故に……冒険者や騎士と違って、壁を越えるための困難に立ち向かう機会が滅多にない。
(どうせなら戦斧で戦ってみようかと思ってたんだけど、仕方ないな)
山賊たちの言葉を無視し、ギールは縛り通り両腕だけで殲滅を始める。
捕らえて犯罪奴隷として小銭稼ぎをすることも出来るが、今のギールには楽々と運ぶ手段がない。
そのため、全員瞬殺すると即決。
山賊たちが反応出来ない速度で動き、首の骨を折る。
身体能力の大きな開きがあってこその、圧倒的な瞬殺劇。
「短剣技、剣技、斧技が二つか……武器はあんまり整備されてないっぽいし、いらねぇな」
負った首を切断し、それより下は掘った穴へと放り込む。
切断したな生首はアイテムバッグの中へ放り込み、なるべくダッシュで近場の街へと向かう。
アイテムバッグに生首を放り込んだところで、他の収納物に血が付着したりすることはないが……多くの冒険者にとって、そういった事実は関係無い。
ただただ嫌な感覚が消えないため、さっさと中から取り出して放り投げたい。
「道中で山賊に襲われたんですよ」
その山賊たちを倒した証拠があると門兵に伝え、鑑定スキルを持つ者が確認。
確認が取れたことで、ギールには少しばかりの金が入り、更に冒険者ギルドに今回の件が報告された。
冒険者にとって、盗賊との戦闘は避けては通れない一つの壁。
種類は違うが、場合によっては同業者同士で命懸けの戦いをすることもあり、同じ人間を殺せるというメンタルは、上に登るためには必須。
そのため、ルーキーがEランクからDランクに上がる際の昇格試験として、盗賊狩りがよく行われる。
(多分、これで自動的にDランクへ上がれるだろうな)
難易度が高くないとはいえ、ギールはこれまで何度もソロで採集依頼や討伐依頼を達成してきた。
それはギルドも把握しているため、試験を免除する条件はほぼ整っている。
「ふぅ、ようやく着いたな」
ハコスタを離れて数日後、走りに走って移動した甲斐あり、圧倒的に短い期間で目的の街でありドーバングヘ到着。
ドーバングにはアルブ鉱山という、まだまだ鉱石が枯渇する様子ゼロの鉱山がある。
そこでギールはブロンズゴーレムやシルバーゴーレムといったゴーレム系のモンスターを狩り、新しい武器の素材を手に入れたいと考えている。
「とりあえずは……ギルドだな」
ペープルやハコスタと同じく一度訪れたことがある街であるため、迷うことなく冒険者ギルドへ足を運ぶ。
「ギールという者なんですけど」
「ギールさん、ですか……あぁ、なるほど。少々お待ちください」
道中の街で盗賊を倒したという事実を、ドーバングの冒険者ギルドへ伝えてほしいと頼んでいた。
その根回しの甲斐あって、ギールは周囲の者たちに怪しまれることなく、受付嬢の気遣いもあってEランクからDランクへと昇格した。
(生まれ変わってからまだ半年も経ってないのにDランクか……過去の俺が知れば、相手が俺なのに思いっきり嫉妬するだろうな)
ギール……タレンどころか、レオルやクリスタも嫉妬するレベルの昇進スピード。
目的が済み、今夜から泊る宿を探そうと思い、ギルドから出ようとすると……入れ違いで一つのパーティーとすれ違う。
(……どこかで見たことある気がするけど、気のせいか?)
すれ違ったパーティーの構成は人族、鬼人族、鳥人族、ハーフドワーフの女性冒険者。
その中の戦闘を歩く女性冒険者に既視感を感じた。
しかし、自分の勘違いと言う可能性もあり、ナンパするような真似はせず、宿探しへ向かう。
(つーか、さっきのパーティー……女だけの構成だったけど、結構強かったな)
ギールの感覚通り、先程すれ違った女性冒険者たちの実力は、確実に中堅レベルに届いている。
本人としてはまあり認めたくないところだが、過去の……タレンだった頃であれば、全員がタレンより上の実力を有している。
(視た感じ、前衛過多な気がしなくもないけど……そこら辺の男だけのパーティーよりも攻撃力はあるな)
人族はロングソード、鬼人族は鉄製の棍棒、ハーフドワーフは大盾と戦斧を携帯。
フクロウの鳥人族である女性だけが杖を携帯しており、明らかに後衛が一人で後三人は前衛という攻撃型パーティー……ぱっと見、そうとしか見えないパーティー構成。
ハコスタで出会ったエリオと同じ匂いがしたため、ギールはなるべく彼女たちに近づかない様にしようと決めた。
(……今から店を変えるのもあれだな)
夕食時、宿の店員から教えてもらった酒場へ向かうと、そこには先程すれ違った四人組の女性だけのパーティーが宴会を開いていた。
(ん~~~……やっぱり、どこかで見たことがある気がするんだよな)
視線を向け過ぎればバレる可能性があると解っているが、気になるモヤモヤを解消しようと視線がそちらへ向けてしまう。
すると、一つの男性冒険者集団が彼女たちに絡み、ちょっとした言い合いが始まった。
(……ありゃやられるな)
鑑定を使わずとも解る。
だからこそ、ギールの変な正義感が湧くことはなく、数秒後には拳と顔面の激突音、床の板が割れる音が酒場に響いた。




