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第27話 命と比べれば安いもの

ヴェノムコブラ、ポイズンスネークの素材の殆どをエリオたちに押し付けたギール。


しかし、それならばと夕食は絶対に奢ると迫られる。


(まぁ、それが妥当か)


助けられた恩は、飯を奢って返す。

冒険者らしい恩の返し方であればと了承。


「強敵との戦いと、救世主に、乾杯」


「「「乾杯!!!!」」」


「……」


乾杯の音頭内容に恥ずかしさを感じ、何とも言えない表情を浮かべる。


「どうした、救世主」


「おい、エリオ。お前絶対にからかってるだろ」


始めの頃と比べれば、仲良くなった証とも言える。

それはギールも解っているが……イラっとくるのは仕方ない。


「ところで、いつまでこの街に居るんだ?」


「……そろそろ別の街に行こうかと考えてる」


「そうか」


アミラたち三人は驚きの表情を浮かべるが、エリオはいたって普段通りの表情で受け止める。


「えっ、あの……もう、別の街に移るんですか?」


「あぁ、その予定だ。元々そこまで長居はするつもりなかったからな」


かつての師、先輩に出会えて偶に稽古を付けてもらえたのは幸運だった。

練度の高い腕力強化、剣技……そして人が基本的に習得出来ないスキル、毒液を手に入れられたのは大きな収穫。


(色々と準備を進めていかないとな……となると、新しい武器の素材が欲しいな)


剣技と斧技のスキルを手に入れたギールにとって、その二つを十全に活かせる武器は、是非とも欲しい。


「また無茶をしにいくのか?」


「なんで無茶するって決まってるんだよ」


「あんな事をしておいて、この街に来てから無茶してないって言うつもりか?」


「どの事を言って……あぁ~、あれか。そうだな……次の街では気を付けて行動するよ」


トライボアの突進を受け止める……一般的に考えて、そんな事をするのはバカしかいない。

ギールのかつての仲間であるテオンのようなタンクが行うのであればまだしも、タンクが本職ではない者が実行するのは……バカの極みとしか言いようがない。


さすがのギールも無傷とはいかなかったが、口から血を少々吐き出すだけで、目だった傷は見えず……体内に受けたダメージも、時間経過によって完全回復。


(最初はあまり無茶をせず安全マージンを取って冒険する奴かと思っていたが、意外と普段から無茶をするタイプ……変に関わったからか、こいつの未来がやや心配だ)


普段は他人に興味を持たないエリオだが、少なくとも数回は一緒に狩りを行った仲であり、自分に世界の広さを教えてくれた人物。


「その言葉を裏切らないのを祈るばかりだな」


裏切るか否かは……ギールの目標次第としか言えない。


その後も冒険者らしい話をしながら料理を食べ、安酒を呑み続け……アミラたち三人は完全に酔い潰れた。


「わざわざ俺のペースに合わせる必要ねぇのに」


「ギール、お前……もしやまだ吞めるのか?」


「そうだなぁ……美味いカクテルなら、まだまだ入るな」


「お前はドワーフか」


三人をそれぞれの宿に届け終えた後、ギールは念の為エリオを自宅まで送っていた。


「エリオだってあれだけ呑んだに、顔が赤いだけで済んでるじゃないか」


「バカが、今から戦闘が始まれば、間違いなく俺は吐く」


エルフ、ハーフエルフとしては晒したくない醜態だが、現在頬が赤いどころか、若干千鳥足状態。


さすがに呑み過ぎたとやや後悔している。


「ギール君じゃないか、って……エリオ、大丈夫かい?」


「……無理だ。今日はもう寝る」


意識が落ちる前に自力でベッドへ向かい、寝間着に着替えることなく倒れ込んだ。


エリオを自宅へ送り届け、自身の宿に戻ろうとしたが、ゴライに呼び留められる。


「秘蔵のワインをご馳走するよ」


ギールもやや寝たい気分ではあったが、秘蔵のワインをご馳走になれるのであれば、断る訳にはいかない。


(間違いなく、秘蔵のワインと言える美味さだ)


秘蔵のワインを吞みながら、元先輩に尋ねられたことについて話し……流れで本日の一件についても話した。


「そんな事があったんだね。息子を助けてくれてありがとう」


「偶々運良く悲鳴が聞こえただけですよ。それに……エリオなら、逃げようと思えば逃げることは出来た筈です」


三つの手札を持ち、森を駆け回れる健脚に優れた聴覚。


たとえ相手がCランクモンスターであっても、逃げることに全力を費やせば退避は不可能ではない。


(まっ、なんだかんだでそこら辺を割り切れるメンタルは持ってないだろうけどな)


逃げるにしても、毒を食らった足手纏いがいる状態では、さすがのエリオでも退避は不可能。


同業者を見捨てでも一人で逃げるか……そもそも起こるか分からない奇跡に懸けるか。

冒険者として活動していれば、いずれかは判断を迫られる時が訪れる。


「一人で逃げるなら、ね。あの子は他人への興味が薄いけど、まだそこまで冷静に判断できない……うん、やっぱりお礼を用意しないとね」


既に秘蔵のワインを貰っているから大丈夫、と言う前にゴライは自身の装備品を置いている倉庫へと向かった。


そして数分後、一つの指輪を持って戻ってきた。


「息子の命を救ってくれてありがとう」


そう言いながら机に置いたマジックアイテムは、疾風の指輪。

かつての仲間である狼人族のリリーが身に付けていたため、鑑定を使わずとも効果は解る。


(っ!? 礼の品としては、ちょっと…………いや、ありがたく貰っておくか)


仲間を失い、泣き崩れる同業者を今まで何人も見てきた。

中には、自分の命以外全てを差し出しても良いから、仲間が生き返ってほしいと口にした者もいる。


そういった思いを考えれば、疾風の指輪ぐらいは妥当なお礼、と言えなくもない。


「ありがたく貰います」


秘蔵のワインが空になったぐらいのタイミングで、ゴライとの呑みも終了。


「……なぁ、ギール君」


「なんですか?」


「やっぱり、君は昔僕やネイと会ったことがあるかい」


「……ふふ、何を言ってるんですか。訓練場で会ったのが初対面ですよ」


正体をバラしてみたい。

そんないたずら小僧の様な思いがなくもなかったが、やはり詳細は話せなかった。


「そうか」


それ以上は追及せず、ゴライは自宅へ戻り、ギールも宿へと戻った。


そして……二日後には準備を整え、次の街へ歩を進める。


(……四人か)


しかし順風満帆とはいかず、自身を狙う四つの気配に対し、自然とため息をついてしまう。

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