第23話 屑が考えた方法
二回目の臨時パーティーでの行動。
今日も今日とて、全体的な強さ……速さがない相手はエリオが瞬殺。
殆どギールが戦闘で仕事することはなく、時間が過ぎていく。
その現状に対し、エリオは全く不満を持っていない。
今日までの戦闘光景から、仮にスキルを込みで戦ったとしても、明確にギールに勝てるビジョンが浮かばない。
故に、少しでも多くの実戦を積みたい。
(……これで、良いのか?)
ただ……どれだけモンスターを倒しても、昨日の自分より積み重ねられている気がしない。
そして本来は熟練者である自身の両親に聞くのがベストであろう質問を、現在共に行動しているパーティーメンバーのギールになげかけた。
「なぁ、どうすれば、今よりも強くなれる」
「……あれだよね。壁を乗り越える以外の方法、だよね?」
「そうだ。こう……日々積み重ねることが出来る方法だ」
「…………」
上司の息子からの問いに、さっと気の利いた答えが出てこない。
今でこそソロでCランクモンスターを倒せる実力を有し、原料が逆ギレではあるが、前を向いて進んでいる。
しかし、それまでは強くなることを完全に諦め、甘い汁を吸うことだけを生き甲斐としていた屑。
強くなる為の努力方法など、もう何年も考えていなかった。
「課題、じゃないですかね」
「?」
「今まで何度も倒してきたことがあるモンスターが相手であっても、フィニッシュの攻撃方法を決めたり、その過程でどんな技を入れ込む……そういう課題を決めてモンスターと戦ってクリアすれば、クリアする前より一つ強くなったと言えるんじゃないですか」
「……課題、か」
ギールが振り絞って伝えた方法は、意外にもエリオの頭に残り、本人は真剣に課題について考え始めた。
「ッ!! ギール、オークの群れだ!」
真剣に考え込んではいれど、自身の役割を忘れてはおらず、迫りくる敵の気配を察知。
(七体、か……ちょっと多いな)
オークの群れとしては、やや数が多い。
しかし、戦力は間違いなく二人の方が上。
ただ……群れの意識が二人ではなく、ギールに集中していた。
(ん? もしかしなくても、俺を狙ってる感じ、か?)
もしかしなくても、その通り。
先日ギールが殺したオークが群れの一体だったため、匂いから群れのオークたちは自分たちの仲間が目の前の人間に殺されたことを把握。
多くの殺意を自分だけに向けられた現状に驚くも、今回の戦闘は早く終わると予想。
(俺だけにそこまで集中したら、駄目だろ)
数日前に戦ったトライボアの防御力と痛みに対する耐性と比べれば、オークなど格好の的。
「ブバっ!!??」
「俺を嘗めるなよ」
放たれた矢が、あっさりと太い喉を貫く。
一瞬にして仲間の一人がやられたことで、ようやく意識しなければならない敵がもう一人いると把握。
「ふんっ!!!」
「ッ!? ァ……」
生物の反射、仕方がない反応。
警戒しなければならない敵がいる……それを全員が認識し、少しでも揃って意識を向けてしまえば、もう一人の敵が牙をむく。
(昨日のトライボアじゃなくて、これぐらいの方が丁度良い相手かもと思ったが、考える頭がないことには、俺だけじゃなくてエリオにとってもあまり経験値にならないな)
まだ拙いながらも、剣技の腕は素人の域を超えている。
武器を持っていたとしても……オークの身体能力と技量では、やや力不足。
五分もかからず豚の怪物は豚肉の塊へと変わった。
(会って共に戦う度に謎が深まるばかりだな、この男は)
今まで何度か同じルーキーと一時的にパーティーを組み、モンスターと戦ったことはあった。
先天性のスキルを持ち、冒険者になる前には両親による素晴らしい教育と本人の努力により、弓技を習得。
実戦にも物怖じないメンタルも兼ね備えている。
そんなエリオからして、同年代のルーキーたちは……あまりにも頼りなかった。
パーティーを組む理由は、足りない部分を補うため。
であれば、何故自分よりも接近戦技術がない者と組まなければならない? という疑問が生まれる。
遠距離戦は言わずもがな、接近戦と索敵も可能。
それらの理由から同期とパーティーを組もうという気が、一切湧かなかった。
過去に一度だけ渋々臨時で組んだパーティーの前衛が亡くなったが……自分と同程度の実力を持っていなかったから死んだ。
そう思いこみ、特に心が痛むこともなかった。
しかし……現在臨時パーティーを組んでいる男は、今までエリオに近寄ってきたルーキーとは違った。
ほぼ同年代でありながら一歩自分の先を行っており、無茶が出来る勇気と確かな土台を持っている。
「ふぅ、骨が折れるな」
「……なぁ、お前はどんな理由で一人で行動してるんだ」
「突然だな……よくありがちな内容だけど、成し遂げたい目標……目的があるんだよ」
「倒したいモンスターでもいるのか?」
「そんなところかな。色々と理由があって、一人の方が動きやすいんだ」
レオルの聖剣技を奪う。
その目的がどれだけ身勝手で屑な内容なのか、理解している。
ただ、理屈でお抑えられない感情というのは確かに存在する。
単純な例ではあるが、ルーキーを弄る、または虐めるベテランに近い。
まさに屑の思考ではあるが、もう決めてしまったこと。
だからこそ……最後の良心が働き、自分の目的のために誰かを巻き込もうとは思わない。
「そうか」
言葉は強くなく、圧もない。
なのに、何故か意志の強さを感じた。
(……復讐か何かは知らないが、俺に出来ることはないな)
元々ドライなこともあり、珍しく芽生えた考えにそっと蓋を閉じた。
その日はオークの群れ以上の強敵と出会うことはなく、終了。
「あの、少し良いですか」
「?」
それから数日後、ギールは一人の女性冒険者から声をかけられた。
赤髪、ショートカット。身長は百六十半ば。
程良く肉のある体に、凹凸がハッキリしたライン。
(これは……まさか、あれか!! 噂の、逆ナン!!!!)
生まれ変わる前と比べて、異性受けが良くなった自身の顔面は既に確認済みなため、突然声をかけてきた同業者による逆ナンの可能性を即座に否定することはなく……寧ろ七割ほど確信を持った。
「この前、エリオ君と一緒に行動してましたよね!」
「……はい、そうですね」
あっさりと残り三割の絶望がが七割の希望を覆いつくし、マッハの勢いで目からハイライトが消えた。




