第22話 意地で堪えた
胸部に痛みを感じながらも、なんとかトライボアの暴走突進を受け止めた。
完全に勢いを殺すことは出来ずに後ろへ押されるが……フル根性でなんとか打開。
「おらぁあああああッ!!!!!」
「ッ!?」
巨大な牙二つを掴み、全力で上空に放り投げた。
「エリオ!!!!」
「解っている!!」
先程よりも魔力を多く消費し、矢の貫通力を強化。
加えて、精霊の力を借り……矢を放つ間際に、追い風で加速。
「ビッ、ボ、ァ……」
空中に吹っ飛ばされては、自慢の脚でもどうこうすることは出来ず、大人しく渾身の風矢を食らうしかなかった。
「はは、流石だな」
放たれた矢は見事に頭部へ直撃。
貫通することはなかったが、それでも矢は脳まで到達。
どれだけ痛みに鈍いトライボアであっても、脳を深く傷つけられては……暴れ回ろうにも、意識が落ちてはもう何も出来ない。
「……ほっ、良かった」
完全にホッと一安心しながら、血の唾を吐くギール。
「おい、大丈夫か!」
「あぁ、大丈夫だよ。いや、正直かなりびっくりしたというか、アホなことしたとは思うけど、とりあえず大丈夫」
「そ、そうか……」
本人が大丈夫と言ったのであれば、これ以上心配しても意味はない。
そう判断しながら、今度は自分が解体すると口にし黙々と解体を行う。
(間違いなく、あいつはトライボアの突進を受け止めた。大盾を使ったのではなく、その身一つで受け止めた)
正確には突進も使用しているため、その身一つではない。
だが、ギールが真正面からトライボアの突進を受け止めたのは紛れもない事実だった。
(人族……ではないのか?)
一部の獣人族やドワーフ、竜人族に鬼人族などの力に優れた種族であれば、先程の光景にも納得出来る。
しかし、トライボアの突進を受け止めた人物は人族。
身体能力は壁を越えた経験が三回ということもあり、エリオより上。
それは本人も認めている……が、それでも先程の光景は直ぐに飲み込めない。
(細身でもとんでもない力を持つ人族がいるという話は聞いたことがあるが……まさかこいつが?)
エリオが噂で聞いた人間の話とは、内容は異なる。
ギールの場合は龍魂の実を食べたお陰で、条件が同じ人族よりも優れた身体能力と回復力を手に入れた。
龍魂の実についてエリオもある程度知っているが、存在自体は幻……伝説という言葉がしっくりくるため、そのまさかの可能性に考えが至ることはない。
「終わったか。よし、肉は今食べようか」
「ここでか?」
「全部持って帰るのは難しいだろ」
「むっ…………確かにそうだな」
ギールだけではなく、エリオも収納に優れたアイテムバッグを有しているが、持ち帰れる量には限界がある。
肉よりも骨や牙、内臓などの方が価値があるため、どうせならというギールの考えに少し悩みながらも賛成。
「……少し多くないか?」
「そうかな?」
目の前には大量の焼肉が並べられている。
正直……見てるだけでやや胃もたれする。
食べるのを躊躇するエリオだが、ギールが躊躇うことなく口に運び、非常に美味そうに食べるのを見て……同じく口に運んだ。
「味付けしてないのに、美味いな」
「だろ。どうせいっぱいあるんだ。腹一杯になるまで食べよう!」
どんどん口に放り込むギールを真似るように、エリオも次々に口へ放り込む。
普段はそこまで多く食べないが……ついついパーティーメンバーの食いっぷりに釣られ、本当に限界ギリギリまで食べ得てしまう。
「うっ……食い、過ぎた」
「はっはっは! 確かにちょっと食べ過ぎたかな。でも、丁度良い量まで減ったし、
万々歳だ」
ギールとエリオの表情は全く合っていなかった。
(美味かった。食べ過ぎないのは勿体ないと思えたが……限界まで食べるのは、良くないな)
エルフの血を継ぐ意地ゆえか、街に戻るまでの道中で吐くことはなく、無事に解散。
ギールはトライボアの牙、骨の一部だけを貰い、他は全てエリオに譲った。
「父さん、少し良いか」
「おっ、珍しいね。勿論良いよ」
夜中、夕食を食べ終えた父に声をかける。
ネイが用意した紅茶を飲みながら、息子は今日の出来事を話し始めた。
「ギールの奴は……一人でトライボアの突進を受け止め、上へ放り投げた」
「「ッ!?」」
まさかの内容に、戦闘経験豊富な二人も驚かずにはいられなかった。
「あいつは、人族なのか?」
「……ちょっと待ってね。いやぁ~、エリオと同じでルーキーらしくない実力を持ってるとは思ってたけど、それはちょっと……うん、予想外過ぎるね」
「何か事情があって、自身の種族を隠してるのかしら? でも、それらしいマジックアイテムは身に付けてなかったし……」
壁を越えた回数からして、所有しているスキルはおそらく二つから三つと予測出来る。
一つは間違いなく剣技。
そしてトライボアの突進を受け止めたという話を聞く限り、身体強化を持っているのは確実。
変装というスキルはあるが、そもそも冒険者たちの多くはそれらのスキルを習得する機会がない。
(角や鱗がない、種族の特徴が表に出ない鬼人族か竜人族? ん~~~……良く解らないけど、エリオと組ませてみるのは大正解だったみたいだな)
ギールの詳しい部分が気になるものの、息子の表情を見る限り、自身の考えが上手くいったのは間違いないと確信したゴライ。
「ふっ!!!!」
翌日、毎日という約束ではないため、ギールは一人で森の中は探索しながら戦斧を振るっていた。
先程まで数体のゴブリンという緑肌の小鬼と戦っていたが、あっという間に全滅。
(……短剣も狙うは一撃必殺。それが無理なら削って削って削りまくって倒すのが主な戦法だったが、こいつはがっつり一撃必殺だけを狙った方が良さそうだな)
元パーティーメンバーであるドワーフのテオンが使っていた重量武器がハンマーだったため、身近で戦斧を使っている者はいなかった。
とはいえ、それでも元Cランク冒険者。
過去の記憶を掘り返し、戦斧を使用していた知人たちの動きを思い出す。
結果、タイミングを推し量らって一撃で倒すのが一番という結論に至った。
(俺の身体能力なら、もう少し重さがある戦斧を扱っても速さに問題はない……また鍛冶師に素材を売ってもう少し良いやつを買うか)
あれこれ考えながら歩ていると、丁度良い相手を発見。
「オークか……良いね、試すにはうってつけの相手だな!!!」
オークのランクはD。
一対一の勝負であれば問題無いため、オルディ・パイプライブを発動。
(……嘗めてんのか!!!!)
縛りの内容はスキルの使用禁止、脚による攻撃の禁止。
中々に禁止事項が多いが、身体能力の差を考えれば、無理難題な試練ではない。
ただ……見事試練を突破したあかつきに奪えるスキルが……一撃妊娠。
速攻で条件は解約され、ギールは怒りに身を任せて全力でオークの首を刎ねた。




