第20話 所詮は劣化
模擬戦では魔力の使用はあり。
だが、スキルの技の使用はなし。
(あれ? そういえばエリオ君の所有スキルは精霊魔法、風魔法、弓技、なんだよな?)
エリオが選んだ武器は、木製の短剣。
ゴライから聞いた話通りであれば、短剣技のスキルは有していない。
(ゴライさんにそう思われてるから木剣を使うしかないけど、これって大きなハンデにならないか?)
今からでも使用武器を素手に変えようかと考えたが、どう考えてもエリオがキレる未来が浮かぶ。
喧嘩したい訳ではないので、一先ず使用武器はそのまま。
「あまり暴走し過ぎないように。それでは、始め」
「「っ!!!」」
スタートダッシュから攻めようと決めていたエリオ。
大して、始めはガードや回避に専念しようと考えていたギール。
二人の考え、行動はある意味マッチ。
(これ、で! スキルを有して、ないのか! 本当に、どうなってんだ!?)
ゴライがギールに伝えた通り、エリオの所有スキルは三つ。
エリオの歳で四つも身に付けていれば、歴史の中でも数えられる程の大天才と言える。
(こいつ、思ったよりも動けるな)
本当に短剣技のスキルを有してないのかと疑いたくなるギールに対し、エリオは父親が連れてきたルーキーの評価を改める。
全力ではない。
全力を出していないが……それでも全ての斬撃が防がれ、躱される。
直線的な攻撃だけではなくフェイントも加えてみるが、引っ掛からない。
(スキルを有していないなど、関係無い!!!!)
もうスキルは習得出来ないと諦めかけている。
それでも、憧れの父がメインに扱う武器である短剣を使ってのバトル。
エリオにとって、たった今軽く流せるバトルではなくなった。
(っ!!! 全力できやがった!!!!)
全身に魔力を纏ってフルスロットル、マックスギア状態。
瞬時に変化を察したギールも、魔力を纏った身体強化を行う。
そのまま……エリオは攻撃を続け、ギールは回避と防御に専念。
この状況が約五分ほど続いた。
(何故……何故だ、どういうことだ!!!!)
焦りでやや剣筋が単調になり始める。
壁を越えた回数による身体能力の差……だけではなく、そもそもギールのメインウェポンが短剣だった故に、エリオの短剣を使った動きを読むのはそう難しくなかった。
自分が一刺しで敵を殺せる力がないと解っていたからこそ、どういうフェイントをかけるのかも必死で考えていたため、フェイントに引っ掛かることもない。
なにより……ゴライはギールにとって、タレンにとって短剣技の師。
その太刀筋は今でも思い出せる。
そして息子であるエリオの太刀筋には、もろ父親の影響が出ていた。
「ふっ!!」
「っ!?」
「そこまで!!」
刺突を冷静に木剣で弾き、体勢を崩したところに流れる様な動きで首筋に木剣を添えた。
完全決着。
お互いに色々と出してない力はあれど、それでも今回の勝負の勝者ギールだった。
「っ…………ッ~~~~~~~~~!!!!!」
歯を食いしばる。拳から血が流れそうなほどの力で握りしめる。
泣いている? そう思わせるほど体が小刻みに震える。
眼は見えない。見えないが……見なくても解ってしまう。
(多分、多分だけど今エリオ君のファンがこいつの瞳を見れば、尻餅付いてちびりそうだな)
一瞬、ほんの一瞬ではあるが、その雰囲気に気圧されたギール。
その事実に……恥だとは感じず、そこまで純粋に悔しがれる熱さを羨ましく感じた。
「ほらね、っていう言い方は良くないね。いや~、予想以上に強かったよ。うん、本当に強かった。あと……あれだね、短剣への対処が上手いね」
「ありがとうございます」
理由は話さない。
何故と問われない限り、自分から話さない。
(確かに上手かった。短剣技のスキルを有していないのが不思議と思うぐらいの腕だった。でも……言い方は良くないけど、上手くてもゴライさんの劣化だ)
勿論、今思った感想も口には出さない。
「一応、何回壁を越えたのかを聞いても良いかな」
「三回です」
「ッ!!!???」
驚愕の表情を浮かべながらギールの方に顔を向けるエリオ。
エリオが壁を越えた回数は二回であるため、そもそも身体能力に差がある状態。
普段のエリオであれば先程の結果に渋々納得し、諦めがつく……が、今回は何とも言えない表情へと変化。
「はっはっは! 強いとは思っていたけど、本当に強いね」
「ゴライの言う通りだ。歳はまだ十七なんだろう?」
「はい、一応十七です」
「うちの息子はあの時のルーキーに負けてないと思ったけど……やっぱり、森に閉じこもってちゃ色々と分からないものね」
先輩二人に褒められ、またしても盛大に頬が緩みそうになるが、敗者が直ぐ傍に居る手前、グッと堪えるしかない。
「すぅーーー、はぁ~~~~、すぅーーー、はぁ~~~~…………」
ようやく悔しさによる震えが止まり、張っていた力を抜き……顔を上げた。
先程の勝負、エリオにとってギールの方が壁を越えた回数が一つ多いのだから、自分は負けて当然、と受け入れられるものではない。
自身と殆ど歳が変わらない(訳あり)者が、自分よりも先のステージに辿り着いていた。
この事実に関して……認めなければ、腐ってしまう。
故に、渋々といった感情を表に出しながらも、右手を前に出した。
「先程は見下して悪かった」
「あ、うん。気にしてないから」
特に思うところはないと伝え、差し出された手を握って握手。
一先ずが、これから数回臨時でパーティーを組む同期と、悪くない関係を築けた……筈。
夕食と顔合わせ、そして力確認の模擬戦を終え、三人と別れて宿に戻る。
(……普通に考えて、ヤバいよな)
道中、改めて短剣技の腕を思い出し、思わず体が震える。
(スキルを有してない短剣の扱いがあれ……ってなると、スキルを有してる弓技とかの腕前はどうなるんだ?)
なんだかんだで、自分がエリオとパーティーを組む意味はないのでは?
そんな考えが浮かんでしまった翌日……その予想は現実になった。
「解体は俺がやるよ」
「分かった」
特に依頼は受けず、街を出て過ごし離れた場所で合流。
そこから二人で行動するのだが……あっさりとエリオが弓矢でモンスターを討伐してしまうため、中々ギールの出番が来ない状況が続いた。




