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第17話 無意識に浮かぶ影

「はぁ、はぁ、はぁ……クソ、本能で読みを覆してくるなよな」


魔力回復のポーションをあおりながら、息絶えた死体に文句を吐く。

伊達に才能ある仲間たちとの戦闘に付いてきてはおらず、読みの力であればベテランたちにも劣っていなかった。


(まぁ、本来はパーティーで倒すモンスターだ。こうして一人で倒せただけでも上出来、か)


上出来も上出来ではあるが、何度も命の危機を感じた。


リスクに見合う対価は手に入れたが……冷や汗が止まらない戦闘に、もう勘弁してくれという思いが湧き上がる。


(……っ! 何を考えてんだ俺は。あいつを倒して、奪うんだろ)


疲れ果て、地面に腰を下ろそうとした己に激を飛ばす。

Cランクモンスター程度に、オーガ程度にこのざまでは縛りがあったにせよ、レオルという怪物を倒すのは夢のまた夢。


「とりあえず、さっさと解体しちまおう」


解体後、その場で食べられるだけの肉を焼いて食べ、己の血肉に変える。


「……戦力をは増えた。実戦的な訓練を重ねるか」


モンスターと遭遇しては、オルディ・パイプライブを使用せず、自ら攻撃内容や縛りを考えてEランクやDランクモンスターとの戦闘を行う。


いくら戦ったところで壁を越えることはないが、それでも考えながら実戦を行うという訓練は、僅かではあるがギール自身の血肉と変わる。


(さて、ロングソードと戦斧を買っとかないとな)


ハコスタに戻り、依頼達成を報告して金を受け取り後、酒場で夕食を取らずに武器屋へ直行。


記憶を振り返り、過去に世話になった鍛冶場へと向かう。


(確かこっち……だったよな?)


大通りから外れた裏路地へ向かい、いつ不審者に襲われてもおかしくない空気の中進み……少々迷いながらも到着。


因みに、到着するまでチンピラが一人絡みに行ったが、あっさり腹パンからの両足粉砕でジ・エンド。

何も喧嘩慣れしてるのはチンピラだけではない。


「いらっしゃい」


中へ入ると、やや若めの店員が来客を歓迎。


(そういえば、修行中の息子がいると言ってたような言ってなかったような……まっ、関係無いか)


必要な物は手頃なロングソードと戦斧。


フレイムドラゴンの素材を使用されて造られたディラン作の様な、立派過ぎる物は必要ない。


(ロングソードは昔使っていたけど、数年もせずに諦めたし……うん、やっぱり戦斧と同じで適当な物で十分だな)


今の自分の力量を正確に把握し、サブも含めて四つの武器を購入。


(ロングソードと戦斧……種類が違う二つの武器を購入、か。変な客だな)


鍛冶師兼店員である男としては、複数の武器を購入してくれた若い冒険者年齢など関係無く、金払いが良い悪くない客。


ただ、冒険者や騎士などの戦闘者が複数の武器スキルを所持することは、基本的にない。

そもそもスキルを手に入れられる程の才能があるのかも一つの問題だが、一番の問題は……二つの武器を極めようとすれば、なんやかんやで中途半端になってしまう。


世の中には天から一つどころか二つや三つも手に入れる「お前前世でどれだけ徳詰んだんだよ!!!!」と叫びたくなるザ、才能マンもいる。


それでもギールが目の敵にするレオルでさえ、あまり他の武器に触れることはない。


だからこそ、男は同レベルの質である違う武器を二つずつ購入した若い冒険者に、小さな疑問を抱いた。


「休暇も含めて、今日は訓練場で過ごすか」


一般人が聞けば休暇とは? という質問をしたくなる言葉を口にするギール。


確かに訓練をしていれば、まはやそれは休暇ではないのではと本人も思わなくはないが、倒すべき存在がまだまだ強くなっていることもあり……止まっていられない衝動に駆られる。


(絡まれないってのは、良いことだ)


強くなることが目的であって、目立つことが目的ではない。

絡まれば口を上手く使って回避したいところだが、それなりのプライドは持っているため、相手の言葉や口が過ぎれば……ついつい拳が飛び出してしまう。


「まずは……思い出せる方からやるか」


亜空間からロングソードを取り出し、過去に習った素振りを行う。


(っ! ……これが、スキルを得るという意味か)


既に身体強化やブレス、脚力強化などのオルディ・パイプライブによって奪ったスキルを実戦で使用しており、有難味は理解している。


しかし、剣技は過去に臨んで鍛錬を行い、手に入れようとしたスキル。

決して手に入らなかった時の感覚と、現在シュトラから奪って剣技を手に入れた状態で行った一振り……その差に、感動とはまた違う衝撃を受けつつも、素振りを再開。


カウンターを含めた素振りを終え後は、目の前に敵がいると仮定したトレーニング。

実際にはいないので鍔迫り合うことなどは出来ないが、強くなる為には大事なトレーニングである。


(もっと、こう……軽く)


無意識の内に思い浮かべ、追いかけるイメージは……一番近くでずっと見てきた過去の親友、レオルの影。


あいつならもっと、あいつならもっと速く軽やかで。

そういった考えが無意識に浮かび、その動きに追い付こうと体を動かす。


そして約五分後、さすがに無意識で目の敵である男の影を追っていたことに気付き、動きを止めた。


(……クソが! なんで俺が……いや、でも)


強くなるという目標を考えれば、何もおかしい思考ではない。


ただ……このまま続けるには、まずギールの葛藤をどうにかしなければならない。

そこでギールは、生まれ変わった自分の長所について考え始めた。


(龍魂の実を食べたお陰で、身体能力や魔力量が全体的に強化された。それは間違いない。それでも……やっぱり、あれが一番伸びたか)


レオルが扱う剣の種類は軽剣、柔剣が主。

ギールがそれを追うのも悪くはない。悪くはないが、いざ戦うとなれば……やはり一朝一夕の差が現れる。


そこでギールが目を付けたのは、逆の重剣、剛剣の類。


今まで一番身近にいた剣士が扱う武器とは真逆の剣だが、これまでの冒険でそれらの剣を扱う戦闘者と出会わなかった訳ではない。


「むんっ!!!!!」


過去の記憶を鮮明に思い浮かべ、トレース。


(悪くない……気がするけど、まだまだだよな)


流れる汗の量など気にせず、もう一度素振りからやり直し。


「はぁ、はぁ、はぁ……ヤバい、水飲まないと」


考え、思い浮かべて剣を振り下ろす。

この流れを何度も何度も繰り返して数時間……半端ではない汗を流していた。


そんな汗ダラダラ男に、一人の人物が声をかける。

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