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第15話 可能性を考慮

「じゃあな、ムート」


「……うっす!!!!」


ペープルから別の街へ向かう日の朝、ムートはわざわざギールを見送りに来ていた。


本当は薄っすらと涙が零れそうだが、ぐっと堪えて無理矢理笑みを浮かべる。


(……これだけ慕ってくれる奴がいるってのは、やっぱり嬉しいものがあるな)


タレンだったころ、彼を先輩として……一応慕う後輩たちはいた。

始めの頃こそ、自分にも先輩冒険者という風格が身に付いてきたのかもしれないと、テンションが上がったのを覚えている。


だが、これまた少し経てば何故彼らが自分という存在を慕うのか解ってしまう。

本当の目的は、少しでもレオルとの繋がりを持とうとするため。


レオルは気さくな性格をしているが、ケツの殻が取れる頃には、やや良い意味での近寄りがたさが身に付き始めていた。


とはいえ、勇気ある……または社交性が高い後輩たちは、彼に少しでも近づき……良き先輩後輩という関係を築く。

レオルこそ、本当の意味で先輩の冒険者として尊敬されていた。


「俺たちは冒険者だ。旅をしていれば、またいつかどこかで会える」


「っ! それまでに、もっともっと強くなってます!!!」


「そうか。なら、俺も負けじと強くならねぇとな」


お世辞ではなく、心の底から呟いた言葉。

約一か月間、それなりに交流してきたからこそ、タレンのままであれば絶対に敵わない強さを秘めている事に気付いていた。


(もっともっと……奪っていかないとな)


ムートと別れの挨拶を済ませ、ギールは一人……ハコスタという名の街へ向かった。


たった一日やそこらで辿り着く街ではない。

馬車に乗っていないため、到着するまで膨大な体力を消費する。


そもそも数日以上かけて移動する距離を、一人で移動しようとするのは非常識が過ぎる。


ペープルからハコスタまで一応整備された道があるとはいえ、人の気配……匂いを嗅ぎ取ったモンスターが襲い掛かることは珍しくない。

加えて、そういった道中では山賊に狙われることも珍しくなく、基本的に複数で行動する山賊を相手に一人で対応するのは……やはり無謀。


そんな事は元ベテランであるギールも理解している。

ただ……龍魂の実を食べて生まれ変わった体は、少々特殊な状態に変化していた。


人族という種族よりも多い持久力を手に入れ、眠ろうと思えば寝れて当然睡眠欲もあるのだが……それを抑えて強行出来る。


つまり、二日や三日ほどであれば、眠らずに行動出来る力が、今のギールにはある。


(アホなことしてる自覚はあるが、手に入れた力は有効活用しないとな)


体力を温存して歩くどころか、軽いランニングのペースで移動。


(……改めて凄さを感じるな。もしかしたら、持久力だけならリリーの奴に勝ってるか?)


ギールの元パーティーメンバーであり、斥候担当の狼人族、リリー。

嗅覚や感知力だけではなく、獣人族らしい優れた身体能力を活かした接近戦も行える。

加えて、シュバリエではレオルや健脚の持ち主であるエルフのミレイユよりも高い持久力を持っている。


現在数時間以上軽いランニングのペースで走り続けられている現状を考えれば、ギールがそう思うのも無理はなかった。


(というか、レオルだけじゃなくて、リリーやミレイユ、テオンにも勝てる力を身に付けとかないとな)


現在の目標は、レオルが剣技から進化させたスキル……聖剣技をオルディ・パイプライブで奪うこと。


しかし、よっぽど馬鹿でない限り、自身のスキルが消えたことに気付く。


ムートをリンチしたワステとシュトラも、その事実に気付き、絶望の淵に叩き落とされていた。


(レオルだけじゃなくて、リリーやミレイユも才能とセンスの塊だからな~。テオンは……あれ以上力が強くなられると、龍魂の実を食べて生まれ変わったパワーでもあっさり返り討ちにされそうだな)


シュバリエはレオルだけが替えの利かない人材ではない。


リリー、ミレイユ、テオン、クリスタ……全員がいてこそ、シュバリエである。

替えの利く人材は、タレンだけだった。


因みに、かつて本気で好意を抱いていた相手であるクリスタとは万が一の状況でも戦うつもりはないため、一切彼女との戦闘は想定していない。


(……出来れば、魔法という遠距離攻撃が欲しいところだな)


ペープルに滞在中、モンスターからスキルを奪っていたギールだが、魔法スキルを持つ個体とは一度も遭遇していなかった。


(火は……ブレスがあるから必要ないか。そうなると、水か風……土は、俺の戦闘スタイルには合わないか)


必要ないと考えつつも、魔法スキルに関しては火や土でも本当は欲しいと思っている。

そんな中……レオルやシュバリエの面々、かつての仲間と遭遇するまでに戦うかもしれない強敵とのバトルを考慮すると、一番雷の魔法スキルが欲しかった。


(魔法スキルを持つ個体はいるにはいるが……そこは運だな)


運に身を任せるしかないと思いつつ、ギールは一切ペースを落とすことなく走り続ける。


夕食時にはアイテムバッグに入れてあるフレイムドラゴンの肉を無駄にする前に食べつくし、仮眠を取る。


「グルルゥゥ……」


ギールとしては、運良く夜明けまで寝ることが出来ればラッキー程度。


仮眠中、モンスターが自身を襲ってくることは想定済。


(ブラウンウルフ、か)


ランクはE。

今のギールであれば、固まった状態の体でも問題無く対応可能な相手。


即座にオルディ・パイプライブを発動。

縛り内容は……攻撃方法は脚のみ。

獲得スキルは、脚力強化。


幸いにも数は一体であったため、カウンターを頭部に叩きこみ、確殺。


「……素材はいっか」


若干寝ぼけながら死体となったブラウンウルフを掴み、森の奥へと放り投げた。

危機が去ったところで、また仮眠に移る。


ソロ旅の最中、こうしてモンスターに襲われることはあったが、山賊に襲われることはなく……無事に目的の街、ハコスタへと到着。


「ん? Eランクか……一人で活動するには、少し厳しい街だぞ」


「ありがとうございます。ただ、一応伝手があるんでなんとかやれると思います」


検問を担当する門兵の忠告に、それらしい嘘を付いて笑顔で対応。


「そうか、まぁ無茶するなよ」


ペープルでそれなりに依頼達成を積み重ねたお陰で、FからEに昇格済。


しかし、門兵の言う通りEランクの冒険者がハコスタで活動するには、少々……どころではなく、かなり厳しいのは事実であった。

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