第14話 それだけは勝っていた
無事にムートをチンピラ冒険者、ワステとシュトラの暴行から救出。
ムートと面識がある娘は眠らされただけで、暴行されてはいなかった。
二人に受けた傷もギールが渡したポーションのお陰で完治。
めでたしめでたし……とはいかない。
オルディ・パイプライブの効果により、知らぬ間にメインスキル奪われた二人。
それだけで十分冒険者としては致命的だが……絶命とまではいかない。
(あいつらの壁を越えた分の経験値? 的な物も奪えたら良かったんだが……それはちょっと欲張り過ぎか。出来たとしても、縛りがとんでもないことになりそうだな)
というわけで、二人は夕食に向かう前に、一旦ギルドへ向かう。
受付嬢に一先ず伝えようとしたところで、偶々まだ働いていたボールドを発見。
「ボールドさん! ちょっといいっすか!」
「ん? おぉ、お前か。少し待ってろ」
ささっと書類整理を終わらせ、二人の元へ訪れる。
「どうした、何の用だ」
「実は……」
ギールは一応、周囲の者たちに聞こえない程度の声量で、先程起こった件について軽く説明。
「……晩飯は後で俺が奢ってやる。だから、もう少し詳しく教えろ」
基本的に冒険者は入れない奥の空間に入り、防音設備が整っている部屋で、主にムートがメインとなって先程の一件について話し始めた。
「ちっ! あのバカ共が」
机を拳で叩きつけてはおらず、怒声を上げた訳でもない。
ただただ、低い声でムートへ暴行を行った二人に対して、苛立ちの声を呟いた。
(お、おっかねぇ~)
生まれ変わって強さはバリバリ成長中のギールであっても、体から溢れ出るオーラに触れ、身震いを起こす。
「お前たちには迷惑をかけたな」
「ボールドさんが謝ることじゃないですよ。悪いのあの二人ですから」
「そう簡単に割り捨てるわけにはいかないんだよ……あいつらは、俺の後輩でもある」
「ボールドさん……」
ムートはボールドの表情を見て……それ以上は何も言えなかった。
まだ……まだ、冒険者としてスタートしたばかりの自分に分らない悩みを背負っている。
それだけは察することができ、重く口を閉じた。
「誰もかれもが、あのシュバリエみたいになるとは限らねぇからな」
ボールドの口から零れた言葉に、ムートの肩が微かに震えた。
「シュバリエって、ボールドさん……あのシュバリエと会ったことがあるんですか!?」
「おぅ、長い期間ではなかったが、面倒を見たと言っても過言ではないと思う」
その言葉に、ギールは心の中で深く頷いた。
それと同時に……ボールドの口から零れるシュバリエについての内容に、怖さを感じ始める。
「つっても、俺が面倒見たときはまだ三人の……創設メンバーだったな。三人ともとにかくやる気に満ち溢れていた」
懐かしく…今となっては、苦い記憶が蘇る。
「ルーキーたちは誰しも、お前らの様にやる気に満ち溢れてたが、あいつらは……どこか違った。思わず、呑みの場でお前らは上にいけると口にしてしまった」
同じく、その時の記憶が明確に蘇る。
覚えている……その時の光景を、ボールドから「お前たちは上を目指せる」と言われた時の高揚感は、今でも頭が……体が覚えていた。
「もう直ぐパーティーランクがAランクに昇格出来るって噂もありますよね」
「あぁ、そうだな……まぁ、あいつらみたいに全員が全員、情熱を燃やして強くなろうとしても、上がれない者はいるんだ。残酷だがな」
幸運にも、生まれ変わることが出来た。
ただ……その幸運を手に入れるまでは、ギールは……タレンは、その枠に入っていた。
(ボールドさんは優しいから、特に過去の俺については、何も話そうとしないんだろうな)
その辺りで報告と昔話は終了。
二人はボールドに連れられ、お値段少々高めの酒場へと連れて行ってもらった。
「ギール……お前、本当に良い吞みっぷりだな」
「はは、酒はちょっと強いんで」
シュバリエの中で一番の酒豪であるドワーフのテオンと、唯一対抗出来たのがタレン。
タレンがレオルに唯一跳び抜けて勝っている部分であった。
「んで、ムート。厳しいなら、そんなに無理して吞まなくて良いんだぞ」
「だ、大丈夫です。有名な冒険者たちは、皆酒豪って聞きますし!」
アルハラを好まないボールドは無理しない様にと伝えるが、ムートは何を勘違いしてるのか、ギールを真似て一気にエールを飲み干す。
確かにBランク以上の名の知れた冒険者、英雄と呼ばれるような一部の者たちは酒豪が多い。
中には先天的な酒豪もいるが……半分ぐらいはルーキーの頃に呑みに吞まされ、アルコール耐性が付いた故に酒豪となった後天的なケース。
(……帰り道は、こいつの宿まで送ってってやらねぇとな)
ボールドの奢りであるため、呑むのは止めはしなかった。
「ところで、ギール。お前の目標はなんなんだ?」
「……答える前に、なんで俺だけに聞くのか尋ねてもいいですか」
「簡単だ。他のルーキーたちは上を目指す……つっても色々と種類はあるが、行き着く到達点はおそらく同じだ。だが、お前だけは見てる場所が違う様に見えてな」
伊達に年は取っておらず、色んな意味でギールが普通ではない事を見抜いていた。
「そうっすね……なんか、今は色んな意味で上を目指すってよりも、強くなる……それに意識が殆ど向いてるって感じですね」
思いっきり言葉を濁した。
強くなりたいということに意識が向いているのは確かに間違ってはいない。
しかし、俗物らしい考えも脳みその三割から四割ほどは埋め尽くしていた。
「ふむ……納得できる程の強さを手に入れて、成し遂げたい事があるのだ」
(いや、そこまで言ってないだろ。お見通し過ぎないか?)
かつての教師の観察眼に恐れを感じながら、アルコールを再度注文。
「まっ、そんな感じっすね。だから、そろそろ別の街に行こうと思ってます」
「えっ!? も、もう別の街に行くんですか!」
「おぅ、元々ペープルに長く居るつもりはなかったからな」
モンスターが所有するスキルは、同じスキルでもランクが高いモンスターが持っているスキルの方が、練度が詰まっている。
加えて、壁を乗り越えることによって得られる根本的な自身の強化を行うことに関しても、ペープルでは成し遂げられる環境ではない。
まさかの宣言にムートはチワワの様な寂しげな目をギールに向けるが、本人の意思は既に固まっていた。




