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第12話 簡単な内容こそが真実

「なぁ、ギール……その、俺たちにもアドバイスをくれねぇか」


約一か月の間、ムートが己の壁を一つ乗り越えて強くなったことに焦りを感じた同世代のルーキーたちが、おそらく師と思われる人物……ギールにアドバイスを求めてきた。


タダで教えてもらおうとはせず、まずは一回夕食を奢ると彼らは決めていた。


(あんまり興味がない連中ではあるが……まぁ、ムートに教えた事と同じことは教えてやっても良いか)


彼らの目には、確かに強くなりたいという意志が宿っている。

その意欲に応え、教えられることは教えた。


そしてギールから伝えられたアドバイスを聞いたルーキーたちは……えっ、そんな簡単な内容なの? と疑問符を浮かべる者が何人かいた。


「言っておくが、しっかりと敵に威力の乗った攻撃を型通りに当てられる。その基礎が出来てねぇと、俺が教えた事を実践しても失敗する可能性が高いからな」


「うっ……うっす」


どれだけ基礎を積んできたかが重要。


その点を突かれたルーキーたちの表情に、焦りが加わった。


(まだ先は長いんだから、焦る必要はない……って言葉は言うだけ無駄だよな)


身に覚えがあり過ぎるため、ゆっくり着実に進めば良いとは言えない。


「……まっ、最初の内は目潰しを起点に戦うのはありだな」


「め、目潰しって……」


「おいおい、確かに同じ人同士の模擬戦とかなら卑怯と思うかもしれないが、相手がモンスター……実戦であれば、卑怯もクソもないって話だ。まっ、簡単な目潰しが通じるのは低ランクのモンスターのみだけどな」


命が懸かった戦いは何度か経験したことがあるため、ルーキーたちの思考から目潰しは卑怯だという考えが徐々に薄れ始める。


「普段の戦闘にも言えることだが、壁を越えるかもしれない戦いの時は……ただがむしゃらに攻めない方が良い」


「しっかりと策を用意して戦うべき、ということですね」


火魔法のスキルを習得しているメイジの言葉に、ギールは小さく頷く。


「考えた策が全部上手くいくなんてことはあり得ねぇが……とりあえずそう言うのを考えとかねぇと、格上の相手に勝てる可能性は殆どない」


ギールは敢えて、無我夢中で戦っても勝てる場合があるとは口にしなかった。


そういうタイプは、ある意味天才に部類される。

それが解からない程ルーキーたちが馬鹿だとは思えない。


「強くなって上を目指すなら、努力の積み重ね。後は、どれだけ考えられるかが重要だ」


これはギールが考えた独自の考えではなく、かつて先輩から教えられた内容。


まだ十代半ばであったギールは努力の積み重ねこそ解るが、どれだけ考えられるかが重要というのは……ギールがあまり考えられる頭を持っていなかったこともあり、理解出来なかった。


(こいつらが今、この言葉の重要性を理解出来るかは知らねぇけど……今誰かがここで言っとかねぇとな)


自身の才能には限界がある。

それを身をもって知っているギール。


故に、この場にいるルーキー全員が大成しないことなど解っている。


ただ……今ギールが彼らに伝えないと大成出来ないのも、また事実だった。


(……またらしくない事を語ったな)


後輩に対し、熱心に忠告やアドバイスをするなど、ギールの……タレンのガラではない。

それは本人も自覚しているが、それでも今夜は確かに少々熱く語った。


(俺の中で、少なからず余裕が生まれたから……なのか?)


もしかしたら、自分は人間的にも成長出来ているのかもしれない。

そう思い、調子に乗ったギールは既にエールを数杯吞んでいるにもかかわらず、宿に戻らずバーへ向かい、強めのカクテルを遠慮なく呷る。


「……駄目だ、見事な二日酔いだ」


翌日、幸いにも宿へ帰る途中に吐いてしまうことはなかったが、しっかりと二日酔いに見舞われていた。


(そういえば、状態異常耐性のスキルを持つ奴は、酔わずに済むんだっけ? 酔えないのはどうかと思うが……それは成長次第でなんとかなるだろうし、こうならないのはやっぱり羨ましいな)


何はともあれ、本日は依頼を受ける気が起きないギール。


とはいえ、長年の習慣からか……一先ず冒険者ギルドへと足を向ける。

ギルドに到着すると、ギールに向けられる視線は主に二つ。


好意的な視線か、妬ましい感情がメインである負の視線。


一方は淡々とソロ、もしくはタッグで依頼を達成していくギールの強さに憧れを持つルーキーや、その実力を認めるベテランたち。


もう一方は、その逆。

冒険者になったばかりであるにも関わらず、順調に階段を上っているギールを妬む者たち。


しかし、本当の意味でルーキーではないギールにとって、シュバリエ時代に既に体験している状況であるため、いちいちおどおどすることはない。


「ギールさん、まだ依頼を受けていなかったんですか?」


「ムート、まぁな。何となくギルドに来たは良いが、ちょっと二日酔いでな」


「そうなんですね……良かったら、僕と模擬戦してくれませんか」


「模擬戦か……分かった。でも、二日酔いだから手加減してくれよ」


特に予定はいないため、ムートの頼みを了承。


ギールは二日酔いだから手加減してくれとムートに伝えたが、頭痛は残れど酔いは消えている。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。本当に、二日酔い、なんですか?」


「当たり前だろ。昨日調子乗って呑み過ぎたからな」


二日酔いは事実。

しかし、ギールは頭痛を読みでカバーし、全ての攻撃に対し、的確に対応。


そして模擬戦終了後、二人は今夜一緒に夕食を食べようと約束してから一度解散。


その間、ギールは手紙を送ってきた人物、ディランの元へ向かい、とある武器を受け取る。

時間になるまでぶらぶらと街を散策しながら時間を潰し、予定の時間五分前に集合場所へ到着。


「……こねぇな」


時間になっても、ムートが来ない。

彼の性格からして集合時間に遅れるとは考えにくい。


何かあったのでは? まさかの事態を想像しながら地面に目を向けると……そこに、薄っすら刃や何かの棒先で削られた文字が乱雑に書かれていた。

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