第99話 怪しい工場
Side:エリーズ国民
「聞いたか。戦争だってよ」
俺はある工場の工員だ。
今日は勤め先が変わって初日だ。
「またかよ。税が重くなりそうだ」
俺と話しているのは近所の幼馴染。
仕事を変える時に誘ったのだ。
「物価の高騰もな」
「所でこの工場やけに厳重だな」
俺もそれを言おうとした。
塀が三重にあって扉は鉄だ。
物凄く物々しい。
だが、警備体制はお粗末だ。
門番が二人だけ。
何だか中の物を外に出さないようにしているみたいだ。
「しっ、聞かれたら俺達消されるかもな」
「やけに金が良いと思ったら訳ありか」
建物の中に入り驚いた。
魔法陣の上に怪物が座っている。
必死で声が漏れるのを防ぐ。
「新入りか。ついて来い」
連れて行かれたのは倉庫で、石の板が沢山ある。
「お前達の仕事は、魔法陣の脇に石の板を置いて、時間が経ったら取り換える事だ」
砂時計を見て石の板を取り換える。
なんか息苦しい気がする。
空気に色が付いている気がしてきた。
あの怪物は何だろう。
見た目は腐った死体に見える。
だが、大きさが人の5倍ほどある。
暴れ出さないか冷や冷や物だ。
「おい、あれは何だと思う。俺は不浄の者じゃないかなと」
幼馴染がそう言って来た。
「同感だが、大きさが大きすぎる」
「この魔法陣はなんだろうな」
「分からない。でも嫌な感じがしない。たぶんあれを閉じ込めておくのに必要なのだろう」
突然、怪物と目が合った。
やばい。
第六感が警鐘を鳴らす。
怪物は手を伸ばすと幼馴染を掴むと一飲みにした。
「ひっ」
銅鑼が鳴らされ兵士が駆け付ける。
「テラスリープ」
怪物は再び大人しくなった。
「何だよ。あれは。俺の友達を返せ」
「仕方ない。お前も用済みだな」
俺は殴られ気を失った。
気がついたら魔法陣のそばにいて、口に猿ぐつわをされて、縄を掛けられ転がされていた。
怪物は眠っている。
「光栄に思うが良い。生贄になれるのだからな。何か言いたそうだが、あまり大きい声を出されるとあいつが起きるのでな」
俺は身をよじった。
「大体聞きたい事は分かる。あいつは何かとか。魔法陣は何かとかだろう。答えてやろう。あいつは王級の不浄の者だ。そして魔法陣は、召喚陣を改良した負の魔力吸い取り装置だ。ではさらばだ」
魔法陣が怪しく光り、俺の力は抜けて行った。
気がつくと幽霊になっていた。
そして、石板に吸い込まれた。
Side:エリーズ国の兵士
「さあ、今日も不浄の者を捕まえるぞ」
「はい、隊長」
俺達、平兵士は声を揃えた。
今日も仕事は不浄の者を捕まえる事だ。
最近の仕事は何時もこれ。
不浄の者に聖水を染み込ませたロープで縄を掛ける。
弱い奴はすぐに捕まるから、楽な仕事と言えばそうなんだが。
捕まえた不浄の者は、塔に閉じ込める。
閉じ込めるぐらいなら討伐した方が早いのに。
ある日、いつもの様に不浄の者を閉じ込めようと塔の扉を開けたら、ぬっと巨大な手が出てきた。
何だ。
何が起こった。
塔は頑丈で巨大な不浄の者は出て来られないようだ。
騎士が来て魔法を掛けて不浄の者を眠らせる。
「屋根を取り外すぞ。クレーンを組め」
工兵がクレーンを組んで塔の屋根を外す。
続いて、巨大な不浄の者が運び出された。
「あの、不浄の者はどこに行くんですか」
「王都と聞いている」
俺の問いに隊長が答えた。
たぶん、実験に使うのか、兵器として使うのだろう。
不浄な者を戦力に使うなんて。
こんな事をして許されるのか。
何かを冒涜しているような気がしてならない。
「納得がいかないような顔だな。安心しろ。力を搾り取って使うだけだ」
「その力は安全なんですか?」
「市中でも使っていると聞いている」
「えっ、実用化されているのですね」
「ああ、何ヶ月か経ったが不具合は起きてないそうだ」
なら、安心して良いのかな。
上のやる事だから、間違いはないと思う。
どんな製品なんだろうか。
便利だったら、任務が終わったら買って帰ろう。




