第90話 戦争の終わり
サバル国の兵士の様子がおかしいとの情報を得たので、俺は上空から観察する事にした。
確かに、引き上げているように見えるな。
引き上げて行った兵士を上空から追跡する。
サバル国内で戦争が起こっているぞ。
ソリに大砲を載せた自走砲みたいなのが活躍している。
対する相手は戦車なんだが、機動力がソリの方が各段に優れている。
おっ、段差に差し掛かった自走砲がジャンプして乗り越えた。
浮かす力を一気に使えばジャンプはできるだろうが、なんだかイメージが違う。
ジャンプする自走砲を作るとはさすが異世界の発想だな。
対する戦車は段差を乗り越えられない。
塹壕みたいな所に突っ込んで右往左往する姿が見られた。
サバルの王都に行くと火の手が上がっていた。
召喚の魔法陣を潰すチャンスなんじゃないか。
俺は王城の庭に着陸した。
「お前は、貴族派か。国王派か。どっちだ?」
兵士が俺を見つけて誰何する。
「どっちでもないけど、王に文句を言いに来た」
「なんだ。農村の出か。なら、貴族派に近いな。良いだろう、俺について来い。王に文句を言う、その剛毅さが気に入った」
貴族派の兵士に連れられて玉座を目指す。
途中、国王派の兵士が出て来たので俺も魔法で援護した。
「お前、なかなかやるな。さては貴族の血を引いている庄屋の一族だろう」
「農民は従えている」
適当に話を合わせておく。
「やっぱりな」
玉座の間の入口は激戦になっていた。
飛びまくる魔法と血。
あーあ、負の魔力がこびりついてるな。
これを後で浄化するのは骨だな。
魔法で国王派の兵士を一掃した。
「お前、何者だ」
「そんな事より国王の顔を拝むのだろう」
「後で何者か教えろよ。絶対だぞ」
俺達は玉座の間になだれ込んだ。
「生憎だが、わしの首はやれん」
王がそう言うと背後の壁に入口が開いて王はそこに飛び込んだ。
貴族派の兵士が飛び込むと槍が突き出て串刺しにされる。
「罠があるぞ。工兵を呼べ」
穴は外に通じているのかな。
風はどす黒い負の魔力を運んで来る。
この先にあるのはろくでもない物だな。
工兵が罠を解除して、俺達は抜け穴を進んだ。
抜け穴の先は部屋いっぱいに魔法陣が書いてある召喚の間だった。
「ふははっ、こうなれば召喚してやる。召喚陣を書き換えて、この世界で一番強い生物が来る事になっているのだ。恐れおののくが良い」
王がそう言って召喚陣を作動させる。
現れたのは俺自身だった。
「へっ、俺? 俺が最強なの」
「こいつが最強か。従え」
王が手に持っていたスクロールを作動させる。
隷属の魔法が書かれているらしい。
「懇願力よ拒絶しろ」
「なにっ」
何が作用したのか王が干からびてミイラになっていく。
「そんな馬鹿な……」
「懇願力よ、召喚陣から懇願力を奪え。よし、後はウインドハンマー」
召喚陣は粉々になった。
「やった、王が倒れた。貴族派の勝利だ。公爵様に知らせて来い。公爵様を新たな王にするのだ」
「盛り上がっているところ悪いが、サバル国にはピピデの属国になってもらう」
「何を言っているのか、この狂人めが」
「納得しないと思うから証拠というか説得力を見せるよ」
「出来るならやってみろ」
「懇願力よサバル国の全ての兵器から魔力を奪いたまえ」
懇願力を戦いに使うのは嫌だと言ったが、これは内乱を停止する為の処置。
許してもらえると思う。
戦車なんかが止まれば戦闘は落ち着くだろう。
しばらくして。
「自走砲が動かなくなりました。敵の戦車もです。魔道具の兵器も動きません」
兵士が報告に来た。
「あなた、何者ですか」
「ちまたではシゲル神と呼ばれている」
うわー、自分で言ってて恥ずかしい。
「お前、神だったのか。俺、シゲル神の信者なんです。握手して下さい」
俺を案内してくれた兵士がそう言った。
俺が握手していると、偉そうな将校が寄って来て。
「あなたがシゲル神でしたか。公爵様と是非お会いして下さい」
俺は公爵の所に連れて行かれ、俺が神器を奪った事を告げると、まずは同盟国からと言われた。
王は公爵がなるらしい。
俺には関係ないが。
デンチの供給について聞かれたので、同盟国の間は供給しますと言っておいた。
我が家に帰って来て一息つく。
さあ、最後の仕上げだ。
槌の神器に手をかざす。
精霊力と懇願力で浄化した。
「神様、神器を返還します」
神器は消えて行った。
あれ、お礼もなしかよ。
二度目だからかな。




