第88話 戦争は続く
Side:看護兵
私は看護兵で20歳女性です。
戦場で兵士の治療の手助けをするのが仕事になります。
ある日、上官に呼び出された。
「転属してもらう。勤め先は軍の研究所だ」
「了解しました」
「秘密の任務なので、誰にも言わないように」
「はい」
研究所で秘密任務。
人体実験されるのではないですよね。
一抹の恐怖心を抱えながら軍の研究所に赴きました。
そこで引き合わされたのは、鎖でベッドに縛り付けられた男性。
「さあ、綺麗に体を拭いてさしあげます」
「うがぁ、うー、がぁ」
男性からはどす黒い魔力が立ち上ります。
彼が暴れますが、吸硬メタルの鎖はびくともしません。
負の魔力の使い過ぎですね。
こうなると末期なので、後は死んで不浄の者になるしかないのです。
「食事です。野菜ジュースですよ」
口を開いた瞬間に鉄のパイプを差し込み、パイプからジュースが流し込まれます。
私は零れた野菜ジュースを拭いてあげます。
この方は貴族なのかな。
平民なら処分されているはず。
私の介護のおかげなのか、男性の精神力なのか。
男性は命を取り留めました。
私は今日も体を拭きます。
「うがぁ、俺は……うがぁ」
男性が言葉を喋りました。
「私が分かる」
「世話をありが……がぁ。うー」
そして、何週間か経ち。
たまにおかしくなるものの、男性とは話が出来るようになりました。
男性の名前はカモガミ・ユウゴというのだそうです。
「ユウゴの育った所は、どんな所?」
「平和でつまらない所さ。どいつもうつむいているそんな所さ……ぐがぁ」
「今日は沢山お喋りしたわね。もう休みましょう」
次の日彼が、青い綺麗な羽を差し出しました。
「これ、どうしたの」
「窓の外に怪我をした鳥が……居たんだ。魔法でそっと室内に運んで……治してやった……そしたら羽を一枚落とした」
「そうなの。魔法が上手なのね」
彼は優しい一面も持っているのね。
「おかしいんだ。負の魔力は良い力のはずなのに治療に使えない……ぐっ。がぁ。ぐるっ。うー」
彼は騙されたのね。
負の魔力が良い力だと信じ込まされた。
清浄な魔力が良い力なのに。
そして、彼は出撃する事になった。
「私は彼の出撃には反対です」
「上の方で決まった事だ。決定に異は唱えられない」
「そうですか。残念です」
「君はどうする。長期休暇を取っても良いんだぞ」
「私は彼の最後を見守りたいと思います」
「そうか、彼の隊に転属できるように取り計らおう」
「ありがとうございます」
私は前線に出る事になった。
Side:戦車兵
「おい、新型戦車がやられたそうだぞ」
「そうか。吸硬メタルの装甲でも駄目だったか」
「噂では毒が使われたという話だ。今、解毒の魔道具を開発している」
「なら、出撃も近いな。考えたんだが。馬が引っ張るのではなく魔道具が引っ張る戦車が出来ないだろうか」
「お前、賢いな。改善提案として報告書を書いてみたらいいんじゃないか」
報告書を上げて3日後。
上司に呼び出された。
「研究所に転属だ」
「了解しました」
俺は敬礼してそう答えました。
研究所に行くと、研究員が大騒ぎしている。
「見たか」
「おお、見たよ。敵ながら柔軟な発想だ」
「そうだな。エアクッションの魔法でソリを浮かすとはな」
「じゃ、ウインドハンマーで戦車を打ち出したら凄い勢いで走るんじゃないか」
思わず俺は口を挟んだ。
「よし、その方向で戦車を改良してみるか」
次の日、この研究の中止が通達された。
理由は、エアクッションのソリはデンチを使っているから、敵国に物資を止められたら動かなくなるそうだ。
なるほど、魔力の多い搭乗員を増やしたらどうだろうか。
この案も却下された。
理由は負の魔力を使い過ぎると兵士の消耗が激しいので認められないとの事だった。
だが、ウインドハンマーで戦車を動かすという俺のアイデアは採用された。
戦車は重いので動かすのに負の魔力が沢山要る。
今はデンチを使うらしい。
なぜだ。
ちぐはぐだ。
上司と飲みに行きその理由が分かった。
「戦車はね。車輪が弱点なんだよ。敵がこれを攻めない限り、エアークッションの方法は採用されない」
「なんでですか」
「貴族に力を持たせたくないからさ。車輪の弱点が解消されると、貴族が反乱を起こしたら対処できない」
「そんな。前線で戦う兵士に、最新装備を渡してやれないなんて」
「新型戦車だが。あれをやったのは毒ではないらしい。痕跡がないそうだ。上が頭を抱えている」
「じゃあ、水責めかな。水で戦車を包んでしまえば溺れてしまう」
「ほう、鋭いね。君ならどう対処する」
「煙突みたいな通気口からウインドコントロールの魔法では、駄目ですね。通気口が塞がれます。転移ですね。それしかない」
「重さの無い空気なら転移も容易いか。それでも魔力が、かなり要るな」
「ええ、長い時間は持たないでしょう。でも、その僅かな時間で脱出できれば」
「よし、上に打診してみよう」




