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第74話 電卓

Side:サバル国の文官


 ピピデから不思議な道具が入ってきた。

 デンタクというらしい。

 金貨10枚もするがこれは素晴らしい発明だ。

 もう使い始めてから一週間も経つが、手放せない日々が続いている。

 裏にシゲル神と書いてある。

 それと『茂』の印がある。

 シゲル神、なんて素晴らしい神だ。

 まさしく発明の神。


「先輩、私も買いましたよ。デ、ン、タ、ク。これで昇進できそうです」

「お前は情報が遅すぎだ。俺達の部署ではほとんど持っているぞ。かくいう俺も一週間前からだが」

「ええー。そんな」

「だが、仕事が早く終わるのは良い事だ」


 俺は浮かれていた。

 三日後。


「お前達は転勤だ。嫌なら首だ」


 俺達は上役から呼び出されてそう告げられた。


「何故なんです!? 先輩も黙ってないで声を上げないと」

「理由なら分かってる。デンタクのせいだ。俺達は仕事をやり過ぎたんだよ」


「その通りだ。仕事が半分の人数で回るようになった。お前達は軍の会計課に転属だ」

「しょうがないですね」

「先輩、諦めが早すぎですよ」


「どうにもならん。それに軍なら食いっぱぐれもないだろう」


 俺は達は軍に行った。

 山と積まれた書類の山。

 以前なら絶望してたんだろうが、今はデンタクがある。


 新しい職場でもデンタクは流行った。

 軍ではどこも電卓を使っている。


 俺はある日、シゲル神の秘密を知ってしまった。

 デンタクを落としたら、裏蓋が外れて円筒な物が転がり落ちた。

 壊れたのか。

 俺の頭の中は真っ白になった。


 デンタクのキーを叩くが反応しない。

 俺は慌てて買った所に持ち込んだ。


「大変だ。デンタクが壊れた。新しいのを売ってくれ」

「どれです。壊れたのは持ってきてますか」


 壊れたのを見せると、てきぱきと元通りにした。


「ふふっ、そんなに心配そうな目で見ないでも平気ですよ。ほら」


 おお、デンタクが復活した。

 あの円筒はなんだったんだろう。

 もしかしてあれがシゲル神なのか。


「あの円筒はシゲル神なのか」

「そうですね。言い得て妙ですね。シゲル神の分身かもしれません」

「なにっ、道理でこんな小さい機械で、計算が出来るなんておかしいと思ったよ。神の分身が操縦してたんだな。何時も働いてくれるシゲル神に感謝を。部署の人間にも教えてやらないと」


 一時は少しデンタクを恨んだが。

 今では崇めて使っている。



Side:サバル国の鍋屋


 ああ、いよいよ俺も終わりか。

 景気の良かったのは終わり、ピピデからの鍋の注文はすっかりなくなった。


「あんた、言われてこのフライパンを使ってみたけど。これじゃ、うちは工房を閉めないと」


 女房が深刻な顔をして言って来た。


「高性能なのか」

「焦げ付かないんだよ。夢のフライパンだね」

「嘘だ。焦げ付かないフライパンなんて作れるものか。作れるとしたら神の御業だ」

「そうなんじゃない。フライパンの取っ手にシゲル神って刻んであるよ」


「本当だ。神の御業なのか。くそう、ぐうの音も出ない」

「あんた、どうする」

「職業を変えよう。この夢のフライパンを売るんだ。なに、調理器具の目利きなら負けない自信がある。上手くいくさ」


 フライパンを売っている商店に行って驚いた。


「蓋がガラスで出来てやがる。こんなの鍋屋の仕事じゃねぇ。ピピデの鍋屋はガラスも扱うってのか」

「どのような御用でしょうか」

「悪い。柄にもなく興奮しちまった」

「そうでしょう。このガラス蓋はいいでしょう」

「悔しいが、これに勝てる製品はないんじゃないか」

「そうですね。当店自慢の品です」


「まとめて商品を仕入れたい。安くしてほしいがどうなんだ」

「そういうことですか。転売はお勧めできませんよ」

「なぜだ」

「うちの店より安く売れないでしょう」

「なら俺はあなたの店がない所で販売する」


「よろしい。あなたを販売代理店として認めます」

「いいのか。こんな簡単にお墨付きをくれて」

「ええ、転売する人には同じ事言うように言われてます。サバル全土に食器の一大販売網を築くのだとか。ただし、販売する場所は代理店がいない所にしてもらいます」


「早い者勝ちという訳だな」


 俺は中規模の街の販売代理店になれた。

 まず、大量に仕入れたのはスプーンとフォーク。

 何だよこれ。

 錆びないだって。

 うわっ、商売替えして良かった。

 この金属に勝てる自信がない。

 やはり、スプーンとフォークにはシゲル神の文字が彫ってある。

 神の力には勝てん。

 俺はいつしかシゲル神に祈りを奉げるようになった。


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