第56話 トイレの神様
「あー、暇ですわ。乳母が優秀すぎてやる事がないですわね」
彼女はミカンの大精霊のミリアルマ。
とても暇そうにしている。
「じゃあ、何か物を作ったらいいんじゃないか。物づくりは楽しいぞ。きっと気に入るよ」
「旦那様が考えてくれないかしら」
「そうだな。ミリアルマの魔法は香り魔法。匂い袋なんて物を作ったらどうだ」
「良いですわね」
「まずは匂い袋だ。中身は草の実を乾燥させた物を入れて、それに匂い魔法を掛けたら良い」
「やってみます」
端切れを貰って来てちくちくと袋を作る。
「痛っ」
「針を刺したのか。どれどれ」
俺はミリアルマの指を咥えた。
「あっ、駄目。くぅん」
色っぽい声を出すじゃないか、奥さん。
賢者モードをオフにしてやってしまった。
紆余曲折したが、そんなこんなで袋は完成した。
ランドルフに草の種をもらい。
さっそく魔法をかけることにした。
「フレイグランス、ミントの香りよ、お付きなさい」
ミリアルマの匂い袋が出来上がった。
うーん、付加価値がこのままだとないな。
高く売れた方がやる気も上がるというものだ。
何かいい案がないかな。
心を落ち着かせる効果なんてどうだろうか。
「懇願力よ。匂い袋に心を落ち着かせる効果を与えよ」
一円分の懇願力をこめた。
どうだ、上手くいったか。
ミリアルマが匂い袋を手に取り微笑みを浮かべた。
「ほわっとしますわ。とっても落ち着きます」
「よし、もっと作ろう」
沢山の匂い袋が出来、俺はピピデの民に配って歩いた。
「ほぎぁ、ほぎぁ」
「よしよし、神様が作った匂い袋だよ」
ある、女の人が赤ん坊に匂い袋を嗅がせた。
ぴたっと泣き止む赤ん坊。
「きゃきゃきゃ」
「ご機嫌だねぇ」
これだ。
泣く子も笑う匂い袋。
俺は商人に売りに行った。
大した値段はつかなかったが匂い袋は売れた。
数か月後。
「あの、匂い袋を下さい。金貨何枚でも払います」
商人がそう言いながら俺に詰め寄った。
何があったんだろう。
「そんなに好評なのか」
「物凄い評判です。夜泣きがぴたっと収まるし、熱を出さなくなりました。神が作ったと評判です」
ここの何日か前に物凄い勢いで懇願力が上がったから、何事かと思ったらそういう事か。
使う懇願力も一円だし、量産しよう。
袋はピピデの民に頼むとして、後は匂いのサンプルだな。
ホームセンターで買えるサンプルの匂いは無いかな。
化粧品はないな。
この世界トイレに芳香剤は置かない。
植物が貴重だから、そんな贅沢をしている家はない。
じゃ、匂い袋の匂いはトイレの芳香剤でいいんじゃないか。
9種類のトイレの芳香剤を買って、ミリアルマに嗅がせる。
「記憶しましたわ。これなら作れそうですわ」
もしかして、トイレの芳香剤が売れるかも。
素焼きの瓶に草の種を入れる。
「ミリアルマ、匂いを付けてくれ」
「フレイグランス、石鹸の香りよ、お付きなさい」
効果は何にしよう。
そうだ。
女性に多いあの悩み。
「懇願力よ。お通じを良くする効果を与えよ」
これで便秘の人は解消されると良いな。
俺はトイレの芳香剤を商人に売った。
そして、数か月後。
「トイレの神様を下さい。いくらでも払います」
あのトイレの芳香剤は名前をトイレの神様にした。
日本はトイレにも神様を祀っていたらしいから、不敬ではない。
俺にもそういう意識はない。
ちなみに、赤ん坊の匂い袋は神様の抱擁にした。
「よし、一つ金貨10枚で売った」
「よろしいですとも」
なんか、俺の懇願力の増加がとどまる事を知らない。
懇願力が集まり過ぎて死んだりしないよね。
よし、循環させよう。
物をバンバン作って循環させるんだ。
懇願力ってお金だから、循環させるのが正しい使い方だと思う。
そうだよね、女神様。




