第53話 緑の道
子供達と妻達に会ってから、ランドルフのテントにお邪魔した。
「かまして来たか」
「うん、なんとなくね」
俺は遠い目をした。
何なんだよ。
どいつもこいつも人を神様にしやがって。
俺は一般人だっつーの。
「なら良い。今後の事は任せておけ。悪いようにはしない」
「俺に考えがある。聖域を道の形にヒースレイ国まで延ばそう。緑の道だ」
「いいな、交易が楽になる」
「上から見て緑がまだらになっていて、そこで野営してたから、緑の道があったら助かるかなと」
「ああ、大助かりだ」
俺は手始めに聖域の端に行き荒野に向かって懇願力を行使した。
途中引っかかる感触があるので、清浄な魔力を飛ばす。
引っかかりが消え緑の道が出来始める。
「ふぁ、見て見て緑の道だぁ」
「シゲル名誉長老は遂に神様になられたのか」
「ありがたい事だ。神様のご加護を」
「神様のご加護を」
「神様のご加護をって何だよ」
「祈りの言葉だよ。名誉長老は何にもしらないなぁ」
言葉の意味が知りたかった訳じゃないんだがな。
神様扱いが嫌なだけだ。
ここでも、遂に神様か。
懇願力が膨れ上がるのを感じる。
この力は少し気持ち悪い。
あぶく銭を持った感覚に近い。
だって人が祈ると増えるんだぜ。
労働の対価とは言い難い。
誰かが勝手に給料を恵んでくれたような気分だ。
こうなったら、パーッと使いますか。
緑の道よ、ヒースレイ国まで伸びろ。
途中何度も負の魔力に引っかかる。
ところが近くにいた精霊が力を貸してくれた。
清浄な魔力が注ぎ込まれ引っ掛かりが解消。
緑の道が出来上がった。
ふぅ、良い仕事をした。
地平線まで伸びる真っ直ぐな緑の道を眺める
冷えたビールが飲みたいな。
まだ懇願力はそれくらい余っている。
たまには召喚してもいいよね。
地球からビールの一杯が消えたところで困った事にはならないはずだ。
「冷えたビール、サモン」
おっ、ジョッキに入った冷えたビールが現れたぞ。
ジョッキにビールメーカーのロゴが入っている。
懐かしいな。
きゅうりに塩振って、つまみにしよう。
ふぅー、労働の後の一杯っていうのは何でこんなに美味いのか。
おっ、急激に懇願力が増えて行く。
何でだよ。
気持ち悪いから給料を全て使い切ろうと思ったのに、何で増える。
「立派な道が出来たな。今頃、ヒースレイ国では大騒ぎだろうな」
ランドルフが緑の道を眺めて感慨深げにそう言った。
「もしかして神の仕業だと思われている」
「もしかしなくてもな」
「そんなつもりじゃなかったのに」
「これからは忙しくなるぞ。道に近い緑の飛び地を開拓していかないとな」
「良し、懇願力で肥料を祝福してやろう。負の魔力に負けずに緑の地が広がるだろう」
俺は懇願力で肥料を祝福した。
「神様のご加護を」
そこらかしこで拝む声が聞こえる。
「女神よ、人が俺を神様に祭り上げてます。助けて下さい」
くそう、無視かよ。
そう言えば最近、女神の声を聞いてない。
出張でもしてるのだろうか。
案外忙しいのか。
何か暇そうだったけれど。
ピピデの民が飛び地の畑に、肥料を撒き始めた。
ジャガイモの葉が青々と茂り始める。
「この肥料すごいです。作物がみるみる間に育ちます」
「そりゃ、給料の力が宿っているからな。それと祈りの力も」
ジャガイモを掘り始めたピピデの民が驚嘆の声を上げる。
「肥料撒いたら、ジャガイモが食べきれないほど出来ました」
一株に100個以上のジャガイモがなっている。
「おい、お前ら。苦難に喘いでいる同族にバンバン出荷するぞ。くず芋はヒースレイ国行きだ」
「はい」
しかし、何だな。
懇願力の威力は半端ないな。
緑の道はすぐに出来るし、芋はすぐに実るし。
精霊力より便利な力だ。
上位互換のような気もする。
俺は久しぶりにビニールハウスの教会に顔を出した。
そうしたら、ご神体が増えている。
ツナギを着て、鍬を持った男の像がある。
もしかして、これは俺か。
誰だこんな事をしたのは。
破壊したかったが、それも悪いような気がする。
像を隠したら、犯人捜しが始まるだろう。
一体どうしたら。
あー、像にお面を付けよう。
何故かそう思った。
自分の像だと思うから恥ずかしいんだ。
顔を隠せば薄れるかな。
紙で面を作って輪ゴムで留めてと。
外れないように懇願力を掛けてと。
よしこれで良いだろう。
その時、ピピデの民が一人礼拝に訪れた。
俺の像を拝む。
お面が光ってるよ。
くそう、逆効果か。
もういいや。
好きにして。




