第49話 強者の孤独
Side:騎士の国の王
「報告したまえ」
私は騎士の国、デュラ国の王。
騎士の国の王は騎士の中から人気のある者が選ばれる。
かく言う私も5年前に選ばれた。
出身は平民だ。
親はパン屋を今も営んでいる。
平民の人口が多いのだから、平民から選ばれるのは道理である。
「報告させて頂きます。ドラゴンは村を8つ破壊した後に大荒野向かいました」
「では、あの噂が本当だと」
「ええ、ピピデの民にドラゴンスレイヤーが生まれたのは間違いないようです」
「そういう事もあり得るか。時に人は思いもよらぬ勇気を発揮する物だ。ああ、破壊された村の手当は厚くな」
「承知いたしました」
「もうよい下がれ」
報告に来た騎士が下がって行く。
「どういたしましょう」
大臣が問いかけてきた。
「ピピデの国のドラゴンスレイヤーと試合などやりたいものよ」
「応じないでしょう」
「勇者なら応じる」
「ドラゴンスレイヤーは勇者だと睨んでいる訳ですね」
「神器を持っているのは確実だな」
「そうでございましょう。ドラゴンと対峙できるのはその通りかと」
血がたぎる。
まだ見ぬ強者を思うと剣が振りたくなる。
だが、私の楽しみも程々にしとかねば。
国内に山積した問題は多い。
「食料の生産はどうなっている」
「清浄な魔力を含んだ食べ物は十分行き渡っております。魔法禁止令が効果を発揮しているものかと」
「そうか、よろしい。やはり戦闘は魔法などという邪道ではなく己の肉体を使わなければな」
「循環術はよろしいので」
「あれは体内の魔力を循環しているにすぎん。負の魔力で汚染する事もない」
「魔法の放出の時に負の念を引き寄せるなど中々思いつきません」
「パンをこねると周囲の粉を段々と引き込んでいく。同じ事よ。こねるのではなく発酵させれば良い」
「なるほど」
「もっとも、美味いパンを食べるには、こねるのと発酵の両方が大事だ。今は我慢して不味いパンを食うしかあるまい」
「慧眼、恐れ入ります」
軍事力を増すには魔法を使うのが手っ取り早い。
しかしだ。
自国を荒廃させて、他の国の領土を切り取った所でなんとする。
パンの生地をくっつけて増やしたら、元からあった生地が傷みましたなど、目も当てられん。
今は発酵の時だ。
我慢して自力を蓄えるのだ。
焼きに入るのはそれからで良い。
「少し鍛錬をしてくる」
「お気をつけて」
神器の盾を手に修練場にでる。
盾から負の魔力が立ち上ってくる。
こんな物が神器だとはな。
笑わせてくれる。
邪器でも言い足りない。
こんなのはゴミ器だ。
雑菌が繁殖しまくった腐ったパン種など捨ててしまえば良いものを。
訓練している騎士が手を止めてお辞儀をする。
「誰か相手をしてくれ」
「では私が」
騎士隊長が相手をしてくれるようだ。
お互い盾と剣を構える。
「始め」
始めの合図と共に魔力を循環させて攻撃に備える。
清浄なる魔力の循環は実に気持ちがいい。
相手も循環術を使って剣を打ち込んで来た。
神器の盾で受け止める。
地面に足が数センチ食い込む。
私は剣で袈裟切りにした。
盾に止められる剣。
だが、相手の盾は真っ二つに割れた。
「参りました」
盾の性能が出たか。
つまらんな。
かと言って神器を放り出すなどできん。
野心ある者がこれを手にすると、とてつもない惨状が生まれるだろう。
鎧を着た丸太に向き合う。
息を整え横薙ぎに剣を振るう。
鎧は両断され丸太も輪切りになる。
「お見事です」
「隊長もこのぐらい容易いだろ」
「私では丸太を両断する事はできません」
「そうか。私は強くなり過ぎたのだな」
強者の孤独という奴か。
寂しい物を感じる。
かと言って魔獣退治に同行したいなどと無理は言えん。
ままならないものよ。
「世話になった。これで喉を潤してくれ」
隊長に金貨を手渡した。
「陛下がおごって下さるそうだ。気合を入れて訓練しろ。俺達の腕に民の安全が掛かっているのだからな」
「「「「おう」」」」
騎士達の活気ある声を背に修練場を後にした。
そうだ。
ドラゴンスレイヤーと文のやり取りをしてみよう。
私の孤独が埋まるかも知れん。
ドラゴンスレイヤー、どんな男だろう。
話が通じる奴なら良いのだが。




