第109話 敗北
「デュラ国、対策会議を始める」
ランドルフが議長役となり会議は始まった。
「俺が飛んでいってやっつけるのは不味いのか」
「嫌な予感は去ってませんの」
「大将が蹴散らすというのは、まともな戦いではないな。兵士のぶつかり合いで、なんとかするべきだろう」
「うーん、戦力増強か。戦車の砲弾も役に立たなかったんだよな」
「そうだ。循環術は魔法に生身で対抗できる。戦車の砲では分が悪い」
「新兵器が必要だな」
何かあるだろうか。
空からの爆撃も戦車砲に耐えるような奴らには効かないだろう。
こっちの勝っているものは、清浄な魔力だな。
これの補給ならかなり大量に出来る。
デンチを使った魔法の一手だな。
これしかない。
「デンチを兵器に転用しよう」
「それなら、エリーズの奴らを使ったらどうだ。大型黒デンチがあっただろう。あれを白デンチに応用したらどうだ」
「清浄な魔力を圧縮するのか」
なるほどな。
それなら弊害も少なそうだし、後々は平和利用も出来そうだ。
「そうだ。それで、決まりだな」
「清浄な魔力がこもった木材ならいくらでも出せる。好きにやってくれ」
デュラ国の陣が出来上がる頃、大型白デンチと電撃砲が出来上がった。
戦闘は始まり、戦況は五分になった。
だが、電撃砲の雷がそらされる事象が発生した。
幹部が出て来たのだな。
「俺の出番のようだ」
「行かないでほしいですの」
「やらないといけない気がするんだ。でないと平和なこの場所が奪われそうな気がするんだ」
「分かりました。もう、止めないですの」
空から戦場を見渡す。
電撃砲がそらされる所を目撃。
俺は降り立った。
「ピピデ王シゲル、待っていたぞ。マーティン・デュラである。一騎打ちを所望」
「受けてやるよ。テラファイヤーアロー」
「柳風魔衣。こんな物か」
炎の魔法はそらされた。
「今度はこちらから行く。神速循環術」
マーティンがワープするほど早く動き。
手に持っていた盾で俺を打ちのめした。
真っ暗になる視界。
負けたのか俺は負けたのか。
「今は眠るんですの」
そう、エーヴリン声を聞いた気がした。
激痛で飛び起きる。
目に映ったのは粗末な小屋の天井だった。
戦争はどうなった。
「誰かいないか」
「おや、起きたようだね」
部屋に入ってきたのは見知らぬ男だった。
「戦争はどうなった?」
「負けさ。デュラ国の王にコテンパンさ。主だったピピデの幹部は逃げたよ」
「大精霊は?」
「姿を見せないそうだ」
「こうしちゃいられない。ぐはっ」
俺は血を吐いた。
「ほらほら言わんこっちゃない。あんた運がいいよ。運び込まれた時は全身ぐちぐちゃでさ。生きているのが不思議なぐらいだった。運び込んだ女性の話では精霊の力があるから生き延びると。あんた良い人なんだろう。精霊様から力を授かるなんて」
「他には何か?」
「人間の部分がダメージを受けているから、一週間は絶対安静だって。運び込まれてから今日で4日だから、後3日だな」
懇願力を武器に使わないという甘さが負けを招いたのか。
それとも人間だからと侮っていたのか。
「匿ってくれて、ありがとう」
「いいんだよ。俺は移民でさ。元の国ではそりゃ酷い扱いを受けてた。人間らしい生活が出来る様になったのは、ここに来てからだ」
「俺が誰だか知ってるのか」
「いいや、ピピデの民には見えないから、客将の一人だろう」
「俺はシゲルだ。神でもない。農夫のシゲルさ」
「そうか。俺も畑をやっている。あんたよっぽど美味い野菜を作ったんだな。精霊様に気に入られるなんて羨ましい」
「世話になった。この一件が片付いたら野菜を持ってくるよ」
「まだ動いたらいけない」
「男にはやらなくちゃいけない時があるんだ」
「そうか、あんたの野菜を食える日を待っているよ」
俺は小屋を出て飛び立った。




