第106話 幸運の使者
Side:エリーズの村長補佐
俺はデニー。
しがない役人だったが、今は農村で村長の補佐をしている。
「作物の状況はどうかな?」
「それはもう。見違えるほどです」
俺達が王都を脱出して、農村で最初にやったのは就職活動だった、
何故か分からないが、俺達が脱出してから、農地の状況が改善した。
村長などは俺達が幸運の使者だと思っているようだ。
「体を壊さない程度に頑張って下さい」
「作物をみんな納めなくてもいいのかねぇ」
「ええ、税金なら上手く誤魔化しますよ。そういう事なら任せて下さい。法律は色々あるので理由ならいくらでもこじつけられます」
「貴族が攻めてこないか心配で堪らないんだ」
「やりすぎは駄目ですが。食っていくのに必要な作物は、手元に残しておかないといけません」
「そんなもんかねぇ」
「裁量なんてのはどうにでもなるんですよ。最悪は袖の下を少し使えば良い。こう見えて役人に知り合いは多いのです。コネは使わないと勿体ない。貴族の下にも役人はいますからね」
「お前さんが来てくれて助かったよ。今のままだったら、冬を越せたかどうか」
ふむ、なんで農地が復活したんだろう。
調べようにも農村は情報が入って来ない。
王の後継が誰に決まったのか、それも調べないと。
そうだ、あれがあった。
声が聴ける魔道具が研究所から持って来た物の中にある。
魔道具を起動することにした。
「ぱんぱかぱーん。シゲルラジオの時間です。先日、シゲル神は大型黒デンチをエリーズの王都に転移させました。王都は壊滅状態です。自分たちで作った兵器でやられちゃうなんて、実にお馬鹿さんです。エリーズの兵士さん聞いてますか。不浄の者を利用するからそういう事になるんです。野菜を育て大地を浄化しましょう」
分かっていたが、王都は壊滅か。
その原因が自分たちで作った兵器だったとはな。
魔法の研究は危ない橋を渡っているのを知っている。
人体実験もざらだし、禁忌に片足どころか首まで浸かっているからな。
それに石デンチからゴーストが湧いたという災害は起こったばかりだ。
あれの大型の物を作ったのか。
馬鹿だな。
小型の物でも手に負えないのに大型の物を作ってどうする。
なりふり構わずっていうのは大抵ろくな結果にならない。
「先日、シゲル神はエリーズの大地を浄化しました。シゲル神を讃えましょう」
なんだって。
収穫量が上がったのはシゲル神のおかげなのか。
俺達は何と戦っているんだ。
敵国の収穫量を増やす余裕のある存在か。
これは負けたな。
しばらく農村に身を隠しておくか。
たぶん、主要都市は陥落していくんだろうな。
Side:サバルの親方職人
うはぁ、笑いが止まらん。
カデンの売れ行きが好調すぎる。
忙し過ぎて死にそうだ。
「親方、一体どうなってるんでしょうね」
弟子が疲れの見えたもう休みたいという顔でそう言った。
「仕方ないだろ。カデンを使うとゴーストが寄って来ないんだから」
「そんな効果があるなら先に言っておいて欲しいですよ」
「エリーズの奴ら。みんな慌ててカデンを買い漁っている」
「そりゃ、王都から定期的にゴーストが飛んで来たら、そうなりますって」
「とにかく話す暇があったら、手を動かせ」
「動かしてますって」
「そうだな。こんなに激務だと話さないとやってられんというのも分かる」
「でしょ。いつまで続くんですかね」
「王都をシゲル神が浄化するまでだろうな」
「今がかき入れ時って事なんでしょうね」
忙しいのは結構だが、波があるのは歓迎できない。
今のままで行くと在庫の山になりそうだ。
「おい、シゲル神に手紙を書くぞ。生産の都合もあるから、エリーズの王都を浄化する時は前もって知らせてくれってな」
「親方、頭いいですね」
「だろ」
Side:ヒースレイの農家
俺はヒースレイで農家をやっている。
今日は実に気分が良い。
「わははっ」
「あんた気が狂ったのかい」
「笑いたくもなるよ。野菜の値段が3倍だ」
「そりゃ嬉しいね」
このジャガイモの山を見ろ。
全部売れば金貨10枚は下らない。
「エリーズの奴らゴーストにたかられて、野菜を食いまくっているらしい」
「エリーズとは戦争中だって聞いたよ」
「商人の行き来は活発らしい。何でも戦時は物が沢山売れるって」
「チャンスだよ。作付けを増やそう」
「よし、サバル製の管理機と草刈り機を購入するか」
「いいね」
「ピピデの干し草も買い込もう」
「あんなの買ってどうするんだい」
「ここだけの話だが、干し草のゴミを掃いて畑にすき込んだら、取れ高が違った」
「へえー、大精霊の加護でも宿っているじゃないかい」
「そうかもな」
農作物に高値がついて魔道具も買える。
良い事尽くしだ。
 




