7 【くず餅きな子のゲーム配信#1】チュートリアル②
リスナーママのツブアンを引き連れ勢いよくギルドに入ったイキリベイビーこと俺。キョロキョロとギルドの内装を見渡してポツリと呟く。
「……役所みたいなトコだな」
ギルド内に疎らにいるプレイヤーを除けば飾りっ気の無い作りの施設だ。てかプレイヤーが見た目ロボで近未来感バリバリなのに、ギルドのこの普通さは何なん? 場違い感が半端ないんだけど。
「はっはっは! いや、言いたい事は分かるよ。なんというかチグハグだよねぇ。ギルドと言えば可愛い受付嬢がテンプレなのに、中途半端にハイテクだから受付も無人機だし」
「なー、NPCがいないんじゃどうすりゃいいか分かんねーっつの。ツブアンママは分かるか?」
「勿論さ、ママに任しときなさい」
先行プレイヤーと思しき複数のロボも、こちらをチラッと見ただけですぐさま手元の端末に目を落とす。
ったく、不親切なやっちゃなぁ。
幸いにも情報収集をしていたツブアンママのお陰で狼狽える事なく目的の場所まで進む。
「ここの無人端末を使って諸々の作業をするって攻略板に書いてあった。ま、取り敢えずやってみようか」
「はーい!」
しっかし、面倒臭ぇ仕様だな。ツブアンママじゃないけどゲーム=NPCじゃないのか?
ゲームやるような奴なんて十中八九童貞拗らせたキモオタって相場が決まってるもんだ。リアルじゃお近づきになれないような美女美少女と絡めるからリアルボディのレベルアップをしないでアバターのレベルアップに心血を注ぐっつーのに。
初っ端からゾーマみてぇな強キャラ美女の彼女が出来るわけねーんだから、先ずはスライム女の相手して経験値を稼げっつー話だろ。
あ? スライムが妊娠した? 知らねぇよボケ。
話を戻してチュートリアルについてだ。
端末の画面には様々なアイコンが並んでいて、クエスト受注だのアイテム売却だのの中にピッカンピッカンチュートリアルのアイコンが光っている。これか。
ポチッ
『冒険者ギルドへようこそ! これからチュートリアルを始めます! チュートリアルを終えるまでは他のクエストを受注出来ない旨を確認して次のステップに進んで下さいね!』
「やたらテンション高いな」
「チュートリアルはスリーステップ、冒険者登録、クエスト受注、アイテム売買の3つだね。きな子ちゃんはこの後マシュプ姉さんと待ち合わせてるみたいだし、余り時間を掛けずに終わらせようか」
「そうだな、だらだらやってもしょうがないし」
『チュートリアルその1! まずは冒険者としてギルドに登録しましょう! 登録方法は簡単! 記入欄にお名前と種族を入れるだけ! それではやってみよう!』
いちいちうっせぇな、声がデカいんじゃ。
「名前は……くず餅きな子、っと。種族はガイノイド、で決定、登録。ツブアンママもオッケーか?」
「ああ、つつがなくね」
『チュートリアルその2! 次はクエスト受注だよ! あなたにやってもらうクエストは、《悪性外敵種》の討伐クエストだよ! チュートリアル中はデスペナルティが付かないから何度でも挑戦してね!』
【討伐クエスト】
《スペースウェブ》で悪性外敵種3体の討伐
受注しますか?
Y/N
「おいおい、なんか知らないワードが出てきたぞ。何だ悪性外敵種って。モンスターの事か?」
「ふむ? 掲示板ではそんな単語は無かったと思うのだが……しかし、モンスターの事を指しているんだろう。やってみれば自ずと分かるはずだ」
「それもそうだな」
ゲームによっちゃモンスターの事を固有名詞で呼ぶ事も珍しくはないか。Yを選択してクエストを受ける。
『クエストの受注を確認しました! それではワープゲートからスペースウェブに移動して下さい! クエストをクリアしたらここでクエスト達成の報告をして下さいね! それではいってらっしゃい!』
「んじゃま、討伐にいってきますか」
「実際に体を動かして戦うってなると、なんだかドキドキしてきたよ。歳を取ったと思ったが、まだまだ私も童心を持っていたみたいだ」
【コメ欄】
『やっとバトルか、楽しみだな』
『きな子ちゃんがんばれ〜』
『悪性外敵種ってなんか嫌な呼び方だな』
『ね、普通にモンスターって言えばいいのに』
ママと一緒にワープゲートまで移動する。
ワープゲートはギルドの中に設置されている見た目は光る台座だ。この上に立つ事で任意の場所のワープゲートまで移動出来るらしい。移動先の選択肢はスペースウェブのみの為、迷わずそれを選択。台座から光が上がってきて、やがて視界は白で塗りつぶされた。
『スペースウェブに到着しました』
光が台座に戻ると、俺たちはだだっ広い荒野に立っていた。ってか、
「なにここ! 思っきし宇宙じゃん!」
えー!? すげー! まるで月面だ!
【コメ欄】
『うわっ、すげぇ』
『めっちゃ綺麗……』
『グラフィック細かいな』
『お手軽宇宙旅行やん!』
コメ欄の盛り上がりも上々だ。そりゃそうだ、ドラクエだって最初は草原でスライムと乳繰り合うってのに、いきなりの宇宙だもんな、そりゃテンションも上がるわ。
「成る程……スペースウェブのスペースは宇宙の事だったのか。となるとウェブは蜘蛛の巣とか罠かな? 虫系は苦手なんだけどなぁ……」
ツブアンママが苦笑と共に零す。が、その頬は緩んでおり傍目に見ても楽しそうだった。
『クエスト受注のチュートリアルを受けた冒険者さんですね! ここはスペースウェブ! 悪性外敵種の侵略を食い止める最前線です!』
「うわっ、ビックリした……」
ゲートワープ脇にギルドにもあった無人端末がいきなり喋り出す。音声が無駄にデカいから余計ビビるわ。
「ってか、なに? 侵略とか聞こえたんだけど……え、これチュートリアルだよな? なんか物騒過ぎん?」
「なにやらきな臭いな……」
ツブアンママも訝しんでいる。
無人端末はそんな俺らに構わず話を進める。
『悪性外敵種と戦う前に武器を装備しましょう! クエストを受けるのが初めての方はもれなく剣と盾です! 希望の武器を装備出来るのはジョブに就いてからですので、チュートリアルを終えた後でジョブの選択をしてみて下さい!』
無人端末が言い終わると、ポンっという軽い音と共に剣と盾が置かれたテーブルが現れる。
《初心者用ロングソード、並びに初心者用バックラーを装備しますか?》
Y/N
「もちろんイエスだ」
Yを選択して剣と盾を手に取る。見た目の割には重くない。まるで鉄パイプを持ってるみたいだ。
しかしツブアンママは違うみたいで、苦々しい顔をしている。
「おおお、結構重いな……これを持って戦闘か、ううむ慣れるまで時間が掛かりそうだ」
「え? これそんな重いですか?」
「ふむ? きな子ちゃんは軽く感じるのか? ……そうか、ステータスか。確かきな子ちゃんはSAに振っていたね、恐らくSTRの数値によって文字通り筋力が変わるのだろう」
「あぁ、かも知れない。ツブアンママは魔法職って言ってたもんね、多分STR低いでしょ?」
「そうだな、IM寄りバランスビルドだよ。
種族特性でほぼ半減してるが、やっぱり魔法というのを使ってみたくてね」
ガイノイドは種族特性でINTとMNDに-40%の補正が掛かる。他のステータスをどれだけ削ったかは分からないが、魔法職としてのステータスにするなら通常の倍近いステータスポイントを振る必要があるだろう。つまりツブアンママは戦闘となると手こずる可能性が高い。だとすれば俺がやるべき事は一つだ。
「大体分かった。生まれたてほやほやの赤ちゃんだが、親孝行の機会みたいだ。
ツブアンママ安心してくれ、幸いにも俺のSTRは武器を装備して26となった。所詮はチュートリアルだ、ママを襲うモンスターは俺が倒してやるよ」
生まれて1日も経たないで親孝行は早過ぎる気がしなくもないが、ツブアンママは俺の為にゲームを始めてくれたんだ。なんだかんだ言っても俺はその事が嬉しかったのだ。
俺は鼻の下を擦りツブアンママにニコッと笑いかける。
ツブアンママはそれを聞いて目元に手をやった。
「ううっ、こんなに大きくなって……! あたしゃ、嬉しくて涙が出るよっ!」
「ママッ!」
「きな子っ!」
俺たちは互いに抱き合って親子愛を更に深めるのであった。
ママ最高ー!!