6 【プリン@ゲーム枠No.1】チュートリアル後@プリン
きな子がママと出会った頃、まな板パイセンは秒速でチュートリアルを終わらして、粛々とレベル上げに勤しんでいた。
「やっぱ森なだけあってモンスターは虫系が一番多いなぁ。虫系は高確率で群れるし、群れてると気持ち悪いから相手したくないんだけど、なっ!」
頭上の枝から無音で降下してきた蜘蛛っぽいモンスターを唐竹に斬り殺す。襲ってきたのはサイレントスパイダーと呼ばれる暗殺型のモンスターだった。このモンスターがもつ【消音】というスキルは自身が発する音を限りなくゼロにする効果で、初心者が手こずるモンスターの一体だ。
「ま、私には効かないけどね〜。あっ、もー、またゴミドロだし」
サイレントスパイダーのドロップアイテムを確認するや否やすぐさま捨てるまな板。そして己の武器である低級のロングソードを揺らしながら森の奥へと進む。
プリンが忍び寄るサイレントスパイダーに気づいたのは訳がある。それはロングソード、細かくは武器の持ち方がポイントだった。
剣の腹を上に向けて平面部を鏡の代わりにしていたのだ。いくら平面度が悪かろうが頭上に広がるのは空の水色と枝葉の緑、茶色のみ。そこに紫ボーダーの蜘蛛が混ざればどんなアホでも気付く。
ゴミの泥率が高かろうが比較的柔らかい部類の蜘蛛は戦闘時間と経験値のコスパが良い。ついでにレアドロアイテムの毒液は高値で売れるのもあり見逃すには惜しいモンスターでもあった。
葉擦れのみの森に軽快な女の声が響く。
「とまあ、こんな感じで頭さえ潰しちゃえば大体クリティカル入るから序盤は楽だよ。虫系は関節部が狙いづらい代わりに頭部がデカいからね、クリティカルも狙いやすいのよ」
【コメ欄】
『見てる分にはあっさり殺すから、あんま強そうには見えないんだよね』
『それな、けど上の警戒してないのによく分かるよね』
「まーねー。人の上に立つ様になると、視覚的にも意識的にも視野を広げなくちゃいけない場面が多々あるからね、言ってみれば慣れよ」
プリンが今いる【アニマジャングル浅域】は獣人でスタートしたプレイヤーの基本拠点アニマジャングルから一番近いフィールドダンジョンだ。山脈に囲まれた森の中心部にあるアニマジャングルから山脈に近づくにつれ浅域、中域、深域と名称を変える。
奥地に進むにつれ絡め手を多用するモンスターが徘徊しだすが、浅域にポップするモンスターは地表を彷徨く小動物型の獣系・虫系モンスターがほとんどで、先程のサイレントスパイダーはレアモンスターに分類される。
プリンの行なっている索敵の方法は、視界を正面から地表に固定しておけばいい分効率が良い。視界の端にロングソードを入れておき、剣の傾きをずらして反射角を操作し、あっちこっちに目を向けずとも正面と上方向の索敵が出来るという訳だ。
もっとも慣れで済ませるには難易度の高い技術ではあるが。
「一先ずワープゲートは登録できたし、きな子が連絡してくるまではこのままレベリングを続けるよー」
【コメ欄】
『きな子ちゃんの方はやっとギルドに着いたとこだね』
『ツブxきな……いや、きなxツブか……?』
『これにはホモレズ厨のワタシもニッコリ』
「あのアホ、まだチュートリアル始めてねぇのか、よっ! こりゃ合流する、ほっ! まで時間が掛かる、なっとぉ!」
地面の穴からヒョッコリ湧いた蟻型モンスター、ワーカーアントの群れをワンキルしていくプリン。流れる様に剣を滑らせ最後の1匹の頭部を刎ねる。
ピロンッ
「おっ、レベルアップだ、やったね!」
【コメ欄】
『おめ〜』
『今レベルいくつだっけ?』
「今? えっとぉ……今レベル8だね。ついでにステも見る?」
【コメ欄】
『見たいっ!』
『レベル8か〜、すごいハイペースだね』
『初見です』
「ハイペース……そうかな? あっ、初見さんいらっしゃい、あんま夜更かししちゃダメだよ〜? っと、ステータス表示だったね」
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名前:マシュマロプリン
Lv:8
性別:女
種族:猫人
ジョブ:なし
STpt:35
HP:191
MP:149
STR:[15]18(+2)
VIT:[10]14(+4)
INT:[8]6
MND:[8]8
AGI:[12]14
DEX:[7]7
装備
右・初心者用ロングソード(S+2)
左・初心者用バックラー(V+2)
頭・
胴・布の服(V+1)
腰・布のズボン(V+1)
脚・皮の靴
アクセサリー
1・
2・
3・
4・
5・
種族特性
STR+10%
INT-20%
AGI+10%
スキル
ユニークスキル
【キャットセンス】【戦闘時AGI10%上昇】
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「はい、こんな感じです。初見さんもいるので色々と説明込みでいきましょうか〜。
このゲームでのステータスはLv1の時点ではHPとMPが100で、それ以外が0の状態から始まります。最初期にステータスポイント、ジョブの下にあるSTptってやつね。それを各ステータスに振り分けることでステータスの数値を上げる事が出来ます。
ここまではおーけー?」
【コメ欄】
『おけでーす』
『はーい』
『ふんふん、なるほどね』
「んで、レベルを上げていく事でSTptが貰えて、HPとMPも上がっていく仕様みたいね。今の時点で7つレベルが上がってるから……1レベル上がる毎にSTptは5ポイント貰えて、HPが13づつ、MPは7づつ増えるみたい」
プリンは周囲の索敵をしつつ説明を続ける。
「そのステータス値に、選択種族毎のステータス補正やスキルの補正が掛かった値が最終的なステータス。いわゆる実数値と呼ばれるものになるわ。
私が選んだ【猫人】って種族は力と速さが1.1倍、賢さが0.8倍になる。それプラススキルの効果で戦闘中は更に早くなって、まんま猫っぽいステータスになってるわね。
後は説明不要だと思うけど、武器とかアクセサリーとかでもっとステータスが上がるわ。
はい、ここまでで何か分からない事がある人〜」
【コメ欄】
『説明分かりやすい』
『へ〜、面白そうなゲームですね!』
『おっぱいはどんだけ増やしたの?』
『虚乳……(小声)』
「ん? 増やしてないよ? むしろ減らしたくらいだし。普段から肩こりが酷くてね、いや〜ゲームだからそういうのが無くて助かるわ。けど全く無いってのも普段の感覚とズレが出ちゃうからギリギリ違和感が無い程度なんだけどね、それでもこの大きさなのよ。本当よ? あのアホが言ってた事は酔っ払いの戯言だわ。あのアホはあんま酒に強くないからね、す〜ぐベロンベロンになって困っちゃうわ〜」
怒涛の勢いで口を回すも、どこぞのアホが事前リークした事でリスナーの反応は薄かった。
【コメ欄】
『ちょー喋んじゃん』
『普段はそれよりもデカいって、どんだけデブなんだよw』
『てか、今、酒入ってんの?』
『言い訳するへべれけプリンちゃん可愛い』
「あ"あ"ん"!? 今デブっつったかオラァン!!
あんなぁ、あのアホはケツがどうのって言ってだけどなぁ、アタシはデブでも無けりゃあ、ケツもデカないわい! つーかあの男はデリカシーっつーもんが足りねーと思うんだよ、何かにつけてヘラヘラして人のケツばっか見て……バレてねぇと思ってんのか、とっくのとうにバレてるわッ!!」
リスナーのとあるコメを目にして瞬く間に堪忍袋の緒がキレる。瞬間湯沸かし器もかくやという勢いでキレ散らかしたプリンは、熱するのも早ければ冷めるのも早かった。
「まぁ、アイツも悪いトコばっかって訳でもないんだよ。なんだかんだ気がきくし、仕事もそれなりに出来る。偶の失敗もフォローすればリカバーできるようなのばっかだしね。出来が良い可愛い後輩なんよ」
【コメ欄】
『あー、リアルの知り合いって言ってたもんね』
『情緒不安定か?』
『これ酔っ払ってんな』
『キレ方が堂に入ってんな』
フラフラと森を進むプリン。感情が昂ぶったせいで酔いも回る。目についたモンスターを片っ端から切りつけていく。
「オラッ、くたばれ! 今のご時世ちょっと叱ればパワハラだぁ何だうるさいし……邪魔じゃゴラァッ! 飲みに誘っても、やれプライベートが〜お酒苦手で〜とか言って、挙げ句の果てにゃあアルハラだ言われて……死ね虫ケラがッ!」
感情の赴くままに剣を走らせストレスを発散させる。剣のみならず左手に持つバックラーも盾としてではなく面で押さえ付け、フチをぶつけてもはや鈍器と化している。
「そんなゆとり世代共の中で尻尾振ってついてきてくれるのはアイツだけだから、そりゃあ可愛がるってもんよ。ちょっとナメてる部分もあるけど、そこもまた愛嬌だわな、褒めてやれば尻尾振るから無茶振りも出来る。どう転んでも何してても、まぁ見てて飽きないんよ、そこら辺みんなに分かるかなぁ〜?」
【コメ欄】
『よう分からんが、結局マシュプネキはきな子ちゃんの事が好きなの?』
『それな』
『マシュきなてぇてぇ』
『最近の若い奴らが冷めてるってのは同意』
「あ〜ん? ばっか、恋愛感情とかじゃねぇよ、なんつーの? ダメな子ほど可愛いじゃないけど、そんな感じよね。
あ〜、チノさんの言う通りね。そう、冷めてるのよ。ノリが悪いんじゃなくて、一匹狼気取ってるといか……話しかけんなオーラがバンバン出てんのよ、も〜めんどくさい!」
【コメ欄】
『あー、分かるわ』
『ウチんとこもそうだわ』
『つまんない時代になったよね』
『ほんそれ』
思いの外リスナーとの管理職トークで盛り上がったプリンは、きな子からチャットが来るまでひたすら愚痴を零し、アニマジャングルのモンスターを切り刻んでいくのであった。