表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界とゴキブリのような俺と  作者: なないたかし
3/3

3.奇怪な友

翌日。目が覚めると身体が物凄い筋肉痛であった。ドライブのし過ぎで体が悲鳴を上げたのだ。それに少しのけだるさもあった。

甲冑やらを着込んだハンクは初めてエールを使ったから疲れているんだろうと説明した。

いわゆるエール痛というやつなのか?城へと向かうハンクを見送って亮太はトレーニングを開始する。しかし筋肉をつけるには超回復なるものがいるはずだったので昨日のように激しい運動はできない。何をしようか・・・。そう考えているときに妙案が浮かんだ。

「影分身!」

まずは分身を二体出す。そしてそいつらにドライブのコントロール練習をするように命令した。影分身というのは本人の状態によらず平常時の自分が作り出されるというのが書いてあった。つまりはこいつらは筋肉痛もけだるさもない状態だ。こいつらにドライブを練習させてその経験を自分が得る。これこそこの影分身だからこそ成せる練習法だ。

魔法は分身たちに任せるとして、とりあえず本体の俺は武術でも勉強しておこう。

ハンクから案内されたがこの道場の倉庫には剣や槍、鎌や小剣など、様々な武器があった。ハンク曰く好きに使ってくれとのことだった。

とりあえずここは勇者の証、剣を手に取ってみる。が重くて振り回すなんてことはできずむしろ振り回されてしまう。まぁ言ってしまえば鉄の塊だからな、一般人の自分には無理だ。それならばと槍や鎌などを使っては見るがどうにもうまく扱えず、結果的に小剣と弓、そして拳銃で試験に臨むと決意した。小剣ならばスピードを活かした攻撃に便利だ。弓ならば調整すれば簡単に引くことのできる遠隔武器になるし、拳銃は反動があるがまぁ何とかなるだろう。外国の子供が護身用で誕生日に親からもらうくらいだし。

だがそれだけでは駄目だ。もしも武器を落としたときにも対応できなければだめだ。

ひとまず自分の知識のなかから格闘に使えそうな武術を検索してみるが、映画で見た酔拳くらいしか思い浮かばない。酔拳はゆったりとした動きと予測不可能な動きで相手をほんろうする拳法。ドライブと真逆だ。ひとまずどうしようと考えている間がもったいないので新たに三体の分身を出してそれぞれに武器を渡して訓練させることにした。改めて自分が何人も動いている姿を見ると気持ち悪いなぁと感じた。

結局武術をどうするかに答えが出ぬまま、その日は終了した。というよりかはエールの使い過ぎで何もできなくなった。その日はふらふらとベッドへと向かい早めの床に就いた。

二日目。筋肉痛は和らいだがエールの使い過ぎか昨日よりもだるさが体に重くのしかかる。

昨日のようにガンガン魔法を使っては明日どうなるか分からない。ひとまず今回は一体だけ分身を出して剣術の練習をさせる。遠距離武器はやはり魔法と相性が悪い。拳銃は近距離でも優位に機能するが弾が切れてしまって練習どころではない。昔から自分には後先考えずに突っ走ってしまう悪い癖がある。これも試験までに直した方がいいな。

そう思いつつ昨日の成果を確認してみる。

「ドライブ」

そう静かに唱えて動作を確認する。そしてエールが無駄遣いにならなくて良かったとホッとした。初めて使った時とは違い、自分の意思通りに動けている。これならば拳銃も使う必要はないだろう。というより今の自分は恐らく銃弾よりも速いのではないだろうか。とりあえず今日はエールの消費を控えて肉体的なトレーニングで終わろう。そう決めた。

そして次の日。実践練習に移行する。というかそろそろ移行しなければ間に合わない。

やはり影分身は便利な魔法で一人で一対一が可能になる。小学生の頃にこれがあれば俺は寂しくファミリーゲームをコンピューターとやらずに済んだんだけどな・・。

そんな悲壮感を拭い去って練習を積む。この練習法のデメリットは相手の痛みも自分が食らうという点のみだ。不思議と自分の顔は殴りやすい。だからついつい手加減なしでやってしまう。そのダメージが自分にかえってきてしまうというのに。そんな練習で今日は・・というより一週間は終わった。というのも爆裂にやることがなかったからだ。魔法を極めようにも練習がいるような魔法はドライブしかない。そのドライブの調整は初日で終えている。結果武術を極めることしかやることがない。やることと言えば栄養のあるものを食べて試験前日に早く寝る、そのくらいだった。

そして当日。早朝に兵士がやってきて試験会場に案内すると言われその後ろをホイホイとついていく。別に城の場所は分かるといったが兵士と一緒に入場しないと入れないと言われた。いわゆるパス代わりだ。だんだんと城に近づくにつれ人が増えていき、さらに出店も出ていてお祭り騒ぎになっている。これはもしかして試験があるからだろうか。そしてきょろきょろとしながら兵士についていくと城に着いた、と思ったが大きな城の門をくぐることはなくその近くのこれまた大きな門をくぐる。門は開いてはいたがその前には兵士が二人立っていてなにやら引率の兵士がごにょごにょと話し、亮太一人だけがその門をくぐった。この後はどうすればいいと聞くとまっすぐ行けば広場があるから後はそこで待ってれば分かると言われた。なんとも雑な説明だがハンクの部下と聞いて納得した。

亮太は指示に従ってただまっすぐに進んでいく。奥に奥にと進むにつれてだんだんと人の声が大きくなっていく。そして道が開けて広場に着くとその理由が分かった。

まず目に見えたのは人。数えるのが億劫になるほどの人の塊が見えた。

恰好は基本的には全員同じで、皮の防具で身体を覆い、剣やら槍やら弓やらを持った人ばかりだった。つまりは全員受験生。正直俺の中堅大学の文学部の受験レベル程度の人数が集まると思っていたがまさか有名私立大レベルの人数が集まるとは・・・。

もしかしてこの世界の兵士とは元の世界で言う官僚とかそういう職業なのか?

正直どうにかなると思っていたハードルが急に棒高跳びのバーレベルになった。

この就職戦争に俺は勝てるのだろうか。そしてそれ以外に気づいたことは視線を感じる。

皮の装備をした人間の燃えるような視線を感じる。これがあれだろうか、ハンクの言う標的にされるという奴だろうか。思っていたよりもきついな。まぁそうだろうな。あいつらはいわばすげぇ努力した奴らだ。血のにじむような努力をした奴から見た俺はいわば親のコネで就職を決めたゆとり教育真っ只中の時代の七光り野郎だろう。俺がその立場だったらもちろんそんな奴には嫌悪感以外の感情は浮かばないだろうし殺意すら芽生える。

とりあえず端っこで誰にも目を合わせないようにじっとして、空気になろうと努力する。

するとそんな視線は感じないようになり受験者たちは自分の練習に移っていった。

しかしどのような試験内容だろう。もしかしてここで殴り合えとかいうハンター試験みたいなことをやらされるのだろうか。そうなればタコ殴り必須だろう。そうなったらスモーキーカーテンで隠れてドライブでかき乱すことにしよう。

そんな作戦を考えていると急にガヤガヤした空間がピシャっと水を打ったような空間となり、急にピリピリ感が増した。一体どうしたのかと思って前を向いてみると全員がある一方向を見て気をつけの態勢をとっている。とりあえず亮太もその場で気をつけをして周りと合わせる。

「えぇ~、これより第百二十六期生及び推薦者兵士登用試験を行う。」

そんな声がほんのり聞こえた。恐らくみんなが向いている先にその声の主がいるのだろう。

だが人が多いせいで声しか聴くことができない。

「今年度のルールは前年度と同様。一対一の一本勝負。これにより適正かどうか審査する。もちろん勝てば登用に近づくが負けたからといって終わりという訳ではない。あくまでこれは適正かどうかを我々が判断するための試験であり負けたからといって登用されない、逆に勝ったからといって必ず登用されるわけではないということを念頭に置いておくように以上!」

そう要点だけをまとめたような挨拶をして試験官?は去っていく。

それは分かったがこの後俺は何をすればいいのだ?もしかしてもう試験は始まっているとかいうハンター試験的な奴なのか?それを聞こうにもパブリックエネミーである亮太は聞くことができない。それに教えてもらっても嘘の確率の方が高いだろう。

周りをみると少しずつ人が減っていっているのが分かるのでそれに流されていくのもありだとは思うが万が一ということを考えると一歩が踏み出せない。

そうやって初期位置から一歩も動けずにいると一人の男がとんでもないスピードで走ってきた。

「やぁ‼君も外部受験なんだね‼よかったぁ~仲間がいて。一緒に頑張ろうね‼」

そう一方的に言い、一方的に握手をしてくる。亮太にとっては救世主ともいえる存在なのだが外見が見るに怪しいというか危険だ。

容姿は中性的であるが声からして男だろう。だが背も低いので声を聞かなかったら女の子と間違ってしまいそうだ。そんなゆるキャラのような容姿をしているのだがワンポイントおかしい部分がある。

「え~っと、その首についてるのは何かな?」

「あぁ‼これかい⁉これは僕の友達‼蛇のリューくんだよ‼」

「あぁ、・・そうなんだ。よろしくね。」

これが亮太がこの男を危険視する理由。首に大蛇を巻いているというとんでもインパクトな容姿を見れば誰でも警戒するだろう。

「さぁ、早く行こうよ‼」

亮太が首の蛇について質問する前にこの危険児は亮太の手を取って強引に連れ出す。

あ、意外と柔らかい・・とか思っている場合じゃない‼が、どうにもできない現状が変わればそれでいいかとも思いホイホイとついていくことにした。

結果的にそれは正解でこの性別不明は試験について色々と知っていた。

「まずは一旦外に出て自分がどの会場に分配されたかを見るんだよ!そしてその会場に移動して指示を待つって言う流れさ!」

どうでもいいがうるさい。全ての言葉にビックリマークがついている。

「ありがとう。俺は亮太っていうんだ。君は?」

「へ〜亮太か珍しい名前だね!ボクはカルン!よろしくね!」

そう言ってカルンは再びとんでもなく激しい握手をしてくる。良い奴ではあるのだろうがコミュニケーションはしにくい。

二人は一緒に外に出て自分の会場を確認する。

すると同じ会場だったようでカルンが熱い抱擁を交わしてきた。多分男だよな?でも俺のこの下半身の熱は何なのだろうか?俺のレーダーがぶっ壊れたのか、それとも俺のコンピューターがエラーを起こしたのか、それとも実は…。

駄目だ。そんな事を考えて普通に男だったら悲しくなってしまう。でも男の娘はそれはそれで需要が…。

そんな葛藤をしながら亮太はカルンに連れられて自分の会場に向かう。会場に着くともう受験者やら観戦者で人がいっぱいでそこらで出店だったり試験の結果予想で賭けているおっさんやらでしっちゃかめっちゃかになっている。

てゆうか国の試験で賭けていいのか?普通にしょっぴかれるのではないかと思ったがカルンの話ではあれは国が行っているものでその利益が国の資金になるという。

とんでもない商売をしているもんだ。しかしいいアイデアだな。

二人は会場の入口にいる兵士に話しかけてそのまま控え室に案内される。控え室は何個かに別れているらしく中に入ると数十人程しかいなく先程の会場を考えると広く感じた。

控え室には試験内容が貼り出されてあり一回勝負のガチンコマッチであることとその対戦相手が記載されていた。

亮太の対戦相手はカルンではなく二人ともホッとしたが寧ろ相手が分からない方が怖い。蛇を首に巻いてる時点でカルンも怖いのだが。そこからはしばらく待機時間となり何人かが兵士に呼ばれて連れ出されたが亮太とカルンの番は来ない。

その間はカルンが賑やかに話していて正直助けて欲しかったが周りは一般受験者でさらにこんな明らかにヤバそうな奴の話を聞きに来るやつはいなかった。

そうこうしてようやくカルンが呼び出されてニコニコしながら会場に向かう。ようやく精神統一できると思ったがカルンは亮太の手を握り、

「ボクの試合を見ててよ!」

と言い無理やり亮太も連れ出された。

こうして亮太は会場の選手入場ゲートのようなところでカルンの試合を見ることになった。まぁ相手は一般受験者のようだし実力をみるいい機会になる。それに俺以外の特別受験者の実力も知りたい。

「両者、礼!」

審判らしい兵士が声をかける。カルンも対戦相手も大きな声でよろしくお願いします!と言って礼をしたので亮太も気をつけようと思った。

そうして二人は距離を取って審判の

「始め!」

という合図とともに試合は始まった。

カルンも相手も詠唱を始めるが相手の方が早く手に小さな竜巻を作る。

カルンは少し遅れて詠唱が終了して地に手を付く。

一体何が起きるのかと見ているとカルンの周囲の地面に闇が広がりそこから呻き声とともに何かが出てこようとしている。対戦相手もこれはヤバい思ったのか竜巻をカルン目掛けて発射するが時すでに遅し。闇からカルン身長をゆうに超える大きな化け物が飛び出した。ライオンの顔に蛇、それに翼。キマイラか?とにかくキマイラに竜巻は向かっていくがキマイラはその竜巻を

「ガウッ!!」

という一喝で打ち消してそのまま突進。

相手も急いで詠唱を開始するが完了する前にキマイラに踏みつけられて呆気なく試合終了。

時間にして一分程度の試合となった。終了後の握手と礼をしてカルンが戻ってくる。

「亮太!!僕どうだった!?」

「うん。とても凄かったよ。」

そう言ったが一つだけ大きな疑問が残る。

「その蛇は使わないのか?」

「リューくんのことかい?リューくんは友達だからね!」

カルンはそう答える。

うん。本当にヤバいやつだ。亮太はそう思って待合室に戻って時が来るのを待った。


3話です。これでストックが無くなりました。

これからは気合いでやっていきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ