2.目標の確立
異世界生活二日目。朝食は適当にパンとか昨日と同じようなもので済ませて魔法図書館を目指す。
念のためと言って服装を半袖短パンの姿からハンクのぶかぶかな服に取り換えて異世界人ということを隠して図書館へと向かう。ぶかぶかな服からある意味でのまなざしを受けるがそんなの気にしないほどに今亮太のテンションが高い。
浮足立ちながらようやくとてつもなく大きく、歴史を感じられる建物に着いた。
中に入ると驚いたように司書がハンクを見て、今日はどういった御用ですかと聞き、こいつに魔導書をくれてやってほしいといった。
司書は少々お待ちくださいと言い、裏からプレートのようなものを取り出してきてこれに手を置いてくれと言う。司書の言う通りプレートに手を置くと少し光り、そしてプレート全体が赤く輝いた。これを見た司書は驚き、もう一度お願いしますと言うが何度やっても結果は同じで今は何をやっているんだと司書に尋ねると、
「今はあなたの魔導書がこの図書館のどこにあるのかを調べているのですが見つからなくって、もしかしてあなたは他の国の出身ですか?」
「他の国というか異世界の出身なんですけど。」
亮太が正直にそう伝えると司書は頭を抱えてあぁ、という顔をした。
「あのね、魔導書っていうのは簡単に作れるものではなくてね、だいたい五年くらいで完成するの。それに作るのにはその人の血液が必要でね、普通は生まれて少し経ってから血液を採取してそれを魔導書の元本につけて時間経過を待つっていう仕組みなの。だからこの国のましてはこの世界の人間じゃないあなたの本はここにはないし、作るにしても五年はかかってしまうの。わざわざ来たのにごめんなさいね。」
そう言われた亮太は他の人の目など気にせずにその場で崩れ落ちた。この一言によって亮太の人生設計が完全に崩れた。さらば俺の最高の異世界生活よ・・・。
その後は一応血液を採取し、五年ほどで出来上がりますのでと言われ図書館を出た。
先ほどは元気そうに歩いていた青年がまさか数分後に隣の大男に肩を貸されてとぼとぼと歩いているのだからきっと町の人は亮太を見てさぞ驚いただろう。
ただ頭の中に絶望の二文字でいっぱいの状態で歩く。確かに五年後には確実に魔導書というものは手に入れることができる。だがその間の五年間はどうすればいいだろうか。ハンクに厄介になりっぱなしというのは絶対に嫌だ。ハンクの家から出るには少なからず働かなければならない。だが魔法すら使えない男に働き場所なんてあるのだろうか。この世界はそこら辺を歩いているちびっこですら魔法が使える世界だ。つまりは力仕事ですらも魔法の内容によっては亮太≺ちびっこという状況もありうる。というよりそうだと思う。はたしてそんな男を雇いたいというところがあるのだろうか。そうなると自営業や路上活動で稼ぐしかない。だがこれも駄目だ。自分にこれといった秀でた才能はないと自覚している。自分の特技という欄を履歴書で埋めるときに裁縫と料理と書いた男だ。こんなものここでどう使えばいい。元いた世界の料理を作ってカルチャーショックを与えるという手もあるだろうがハンクの家にあった調味料と食材、そして文明の違いによりそれは不可能だろう。それに二つともプロレベルという訳ではなく、料理は人に振る舞える程度のレベル、裁縫はバザーに出せる位のレベル、これでは元の世界でも厳しい。
ならば元の世界の話を路上ですることで金を稼ぐか?いやそれも無理だろう。なぜならば異世界人はボジョレーヌーボー並みに現れているのだ。そんな知識はとっくに知れ渡っているだろう。それにそんな話で五年ももつ気がしない。考えれば考えるほど先は暗い。
亮太は考えるのを辞めたいが、完璧人間でもない亮太にはそんなことは無理でだんだんと暗い感情を増大させていった。
そんな気持ちはもちろん家についても続くものでさすがにハンクも気づいたらしく亮太に何かを話しかけることもなく、一室に男二人がじっとしている状態が続く。さすがにハンクもきつくなったらしくトレーニングしてくると言って例の道場に向かう。亮太は変わらず部屋の隅っこで落ち込んでいる。浪人が確定した受験生がごとくそのテンションは昼に戻ることなく、いや娯楽という逃げ道やこの先の目標がない分浪人生よりもひどい状態となりさすがに一日中トレーニングできるはずのないハンクは汗だらけの状態でまた部屋に帰ってきてまだ暗いままの亮太を見てため息をついた。
このままではだめだと分かったハンクは亮太に昼はどこかに食べに行こうと誘った。亮太はから返事をしてハンクとともに外に出ようとするが、落ち込んでいても五感というのはしっかりと仕事をしていて、ハンクにとりあえず風呂に入るように指示した。
風呂に入りさっぱりしたが、どうにも匂いがしそうなひげ面と共に町へと向かう。肩を貸されない程度に回復した肉体と共に訪れたのはごく一般的な異世界系の料理店でありそこで遠慮なく注文してくれと言われたが適当にメニュー欄にあるほどほどの値段の料理を注文した。というか日本語対応しているって便利な異世界だな。
食事ということに集中する時間となりそんなことを思える程度に回復したのを亮太を見て分かったのか亮太に話を吹っ掛ける。が、やはりある程度の間合いは感じているらしく出来立てカップルの天気の話のようなたわいない、それどういう意味があるの?という話から始まる。それによりむしろ空気が悪化した状態となっているテーブルに料理が運ばれる。ナイスタイミングだ。運ばれてきたのは訳の分からない料理名とであるが現代で言うパエリアのようなものが運ばれてきた。一方ハンクの方は運動部の部活帰りといった量の料理が出てくる。内容はもちろん得体の知れない料理だがとてつもなく肉肉しい。
その後はどちらも食事に集中して会話のない状況が続く。まぁ、うるさいよりはこっちの方がいい。そんな感じで亮太はスプーンでパクパクとハンクは手掴みでがぶがぶと肉をほおばる。
食事も終わりが見えてきて、亮太はパエリアらしきものの二枚貝をから身を取り出して食べるという作業に入っていた。一方ハンクの方はあれほどの量でも足りなかったらしくさらに追加注文をしてがぶがぶととてつもない量をさばいている。見ているだけで胃もたれしそうだ。まだ食欲があるうちにこの貝を平らげてしまおう。
そうやって二枚貝を開いたとき、中に何やら身とは違う別のものが入っている。
パッと見の色や質感からしてこれは羊皮紙か?それもくるくると丸めてある。
一体、どうやったら料理店で羊皮紙が貝の中に入るという事態が起きるのだ。
これは、元いた世界で言うバイトテロという奴だろう。まったく、そんな輩よりも俺を雇えというのだ。雇えとは言っていないが。とりあえず文句を言ってやろうとそれが混入物であると確認するためにその羊皮紙らしきものを開いてみる。
すると案外長いもので文字が記されている。何々・・・。
中身を確認した亮太は皿の上の貝やら残りをすべて速攻で平らげて席を立った。
明らかに不思議な行為をとった亮太にハンクは口をもぐもぐさせながらどうしたと聞くと亮太はただトイレと言い席を離れた。ハンクは何となく亮太に元気が戻った、そういう気がした。
亮太は店の裏の路地にいた。その理由は先ほどの羊皮紙。中には店の裏で待っています。そう記されていた。亮太の記憶をたどればたしか給仕をしてくれたウエイターは美人さんだったはずだ。もしかしたら一目ぼれチャンスかもしれない。いたずらであってもその元凶はきっとここに現れるはずだからそいつらを店側に突き出しておしまい。それを生かせばもしかしたらここで働かせてもらえるかもしれない。何が起こっても亮太にはプラスに働く、はずだ。最悪の場合大きな声を出せばハンクが助けに来てくれるだろう。まぁ何とかなるさ。そんな思いで待ち構えていた。
すると路地の奥の方にいつに間にか黒いローブで体を隠した謎の人物がいた。一応周りを確認したはずなのにいつの間に。その謎の人はゆっくりと亮太に近づいてくる。もちろん亮太は身構えて戦闘態勢に入る。すると相手はローブの中をもぞもぞとさせて何かを取り出そうとしている。武器か?そうならば絶対に勝てない。亮太は大声を出そうとした。
そしてローブから相手は武器を・・・。と思ったが取り出されたのはナイフの類ではなく一冊の本であった。思わず気が抜けてしまう。だが冷静になる。たしかこの世界では魔法を使うのに魔導書がいるはずだった。もしもこれが魔導書ならばこの本も立派な武器になる。改めて身構えるとローブの人物はその本を亮太に押し付けてきた。
「へ?」
思わず声が出てしまう。そうしてよくわからない状態に呆然としていると本をぐいぐいと押し付けられる。その揺れでローブの中が少し見える。中にはやはり給仕してくれたウエイターが入っていて目が合った。
「あなたはやっぱり・・・・」
そう言うと、彼女はさらに本を押し付けて先ほどいた路地の方に去っていった。亮太は押し付けられた本を手に抱えてその美女を追う。が路地は少し行ったところで行き止まりであり、その美女もいない。行き止まりの壁も一人では登れないような高さであり一体どこに行ったのだろうと不思議な気持ちと本を抱えて席に戻った。
ハンクからしたら亮太はトイレに行って、帰ってきたら不思議そうな顔をしながら本を持ってきたのでこれまた不思議であり、亮太らの席は不思議でいっぱいになった。
「亮太、それどうした?」
もちろんのことハンクはそう聞く。
「店の人に貰ったんだ」
そう伝える。ハンクがそれを見せてくれと言ってきたので亮太は素直にハンクへと渡す。
この世界のものを亮太が見ても分からないと思ったからだ。ハンクが本の表紙をじっと見つめて中を開くとびっくりしたような顔をしてこちらを見てきた。
「それは何なんだ?」
「これは魔導書だぞ‼」
ハンクはノータイムで亮太に伝える。
「え⁉」
亮太は当然の反応を見せる。
そして急いで中を確認する。すると言葉が記されているのが確認できた。
「これ魔法の呪文なのか?」
念のためその言葉を口に出さずにハンクにそう聞く。
「呪文が見えるということは正真正銘お前の魔導書みたいだな」
「一体どういうことだ?」
自分の魔導書、見えるという言葉に反応してそう聞く。
「魔導書の中身っていうのは魔導書の本人にしか見えないっていうよくわからない仕組みになっているんだ。俺にはその本の中身がよく分からない子供の落書きにしか見えない。しかしなんでお前の魔導書がここに・・」
ハンクからの返答に亮太も同感する。俺の魔導書というのは分かった。だがどうしてここに俺の魔導書がここに・・。それにあの女。急に現れて俺にこの本を託してそしてどこかへと消えていった。女と言われて引っかかるのはここに来る前に見た夢の中の女性。もしかして同一人物なのだろうか。
ハンクと共にう~んと悩んでいても答えは浮かばず、とりあえずあのウエイターを探すことにした。が、店側の人間に聞いてもそもそもここには女性のウエイターなんていないと言われますます謎が深まり、二人は店から出た。
店から家へと戻る道中も二人は黙って考えたままで先ほど二人を見た人間からしたら息も帰りも同じように見えただろう。亮太は考えに考えた結果・・・、分からないけどラッキーだったで解決させることにした。ハンクもそのような考えに落ち着いたらしく二人は賑やかに家へと帰った。
もちろん家に帰ってから行うのは魔法のチェックであり二人は道場にいた。
「とりあえず魔導書について説明する」
道場で亮太は正座でハンクの話を聞く。というのも魔導書があっても用法を守らなければならない。そう思ったからだ。
「魔導書を開くと魔法が記されていると思うが一ページに一魔法とその説明が書いてある。まぁその説明通りに使っていれば大丈夫だ。」
そう言われペラペラと魔導書をめくるが魔法が書いているページはたった三ページで終わっていた。
「魔法ってこれで全部なのか?」
と言いペラペラとハンクにページを見せる。
「どれどれって、たった三ページか⁉」
ハンクはそう驚いてページをめくる。
「たったってどういうことだ。」
「言いにくいがなぁ、使える魔法っていうのは最初から全部書いてあるもんなんだ。それが三つだけってのはなぁ・・・普通は十数個は使えるもんなんだがなぁ・・。」
そうつぶやくように言ってくる。
じゃああれか、この三ページ以外にある白紙ってのはメモ帳にでも使えばいいのか?それとも、もしかしたらここはフリーに使える欄で自作の魔法が使えるところなのか?
異世界転生者ならばそれくらいの優遇があってもいいはずだ。一応ハンクに白紙の使い方を尋ねるとハンクは驚いて余白を見つめた。
「おかしいなぁ、魔導書っていうのは使える魔法分のページ数しかないはずなんだがなぁ。もしかしてお前の魔導書、熟成が足りないんじゃないのか?」
なに熟成って。この世界はすべてがワインで例えられる世界にでもなっているのか。そういえば司書が言っていただいたい五年とはもしかしたら熟成期間のことなのだろうか。
ともかくこれで分かったのは恐らくこの白紙部分はいつか埋まるということであり決して自分のすべてがこの三つの魔法だけではないということだ。
大切なことが分かったところで魔法を使ってみよう。
まずは一ページ目に書いてあった魔法からだ。
『スモーキーカーテン 詠唱すると名前の通り身体から白い煙が噴き出し周囲を覆う ちなみに人体には害はないので安心してほしい 噴き出す煙の量は調整が可能*自分のエールの量と相談して使おう! ご利用は計画的に』
と記されてある。魔法名と説明文から察するに元の世界の誰かが書いただろこれ。それに魔法名がスモーキーカーテンって。まんまじゃないか。絶対最初に魔法の内容から考えて魔法名どうしようかって悩んだ挙句に普通で良いか、ってなった奴だろう。
まぁ、そんなことはどうでもいい。それよりもエールってなんだ。ハンクに聞いてみよう。
「ん?エールっていうのはなぁ、簡単に言えば魔法を使うための力みたいなものだ。その量は人それぞれで、使いすぎるとぶっ倒れるから気をつけろよ。」
そう言われる。いわゆるMPみたいなやつか。RPGならMPが切れても武力で押せるがこの世界ではそうはいかないらしい。
まぁ、とりあえず使ってみないことには始まらない。詠唱してみよう。
「スモーキーカーテン‼」
勢いよく唱えてみる。すると光るとかそういうエフェクトがあるわけでもなく体から白い煙がもくもくと噴き出す。煙突の煙のようにただ上に昇っていくだけではなく横にも広がっていきまさにカーテンのような形になる。すぐに辺りが真っ白になり、周りが見えなくなる。
「亮太!能力は分かったんだし、そろそろ煙を出すのを止めてくれないか?このままだと周りから火事だと思われてしまう。」
そうハンクが大声で伝えてくる。確かにこのままだと次のステップに進めないし、エールとやらを使い果たしてしまう。しかしどうやって止めるんだこれ。イメージ的には汗みたいに受動的に煙が体から出で来るのでどうやって止めるのかわからない。汗が止められないように。
「おい!ハンク、どうやってこれ止めるんだ!」
「感覚的には体中の穴という穴を閉じる感じだ!」
ハンクからアドバイスを受ける。穴という穴か・・・。ハンクのイメージ通りにぎゅっと力を込めてみる。すると煙は力を込めた瞬間に止まった。が、煙は辺りに残り続け、ハンクと一緒に窓やら扉やらを開けて少しずつ煙を出してようやく煙はなくなった。
煙にはぼやのような煙臭さはなかったので道場には匂いも何も残らなかった。
しかし、これはどういった局面で使うものなのだろうか。煙幕にはなりそうだが煙幕を使う機会なんて一体どこにあるのだろうか。それに普通に魔法以外で互換が効きそうだ。
魔法としては微妙だ。
まぁ、気を取り直して次行ってみよう。
『ドライブ 自身の速度を上げる魔法 *エールの枯渇に注意』
今度は随分と淡泊に書いてある。説明文からするに今度は随分と魔法らしくて使い道がありそうだ。
「ドライブ‼」
そう勢いよく唱える。今度も光るようなエフェクトはなく随分とアニメーターに優しい設計だ。
とりあえず辺りを駆けてみよう。そう思ってスタートダッシュを決めてみる。
と、思った以上に足が回る。まず感じるにはとてつもない風。そして目の前には壁。そうして思う、あれ?
そしてドーン!と勢いよく壁にぶつかり目の前に星空が広がった。
ハンクが心配そうに近寄ってくる。とりあえず身体的には問題なくハンクはホッとした。
これは随分とピーキーな魔法のようだ。起き上がるときに、もしかしたら・・・と思ってゆっくりと起き上がるとやはり継続しているようで自分のイメージよりも早く起き上がった。今度もエールを抑えるイメージで力を入れて魔法の効果が止まった。
その後も何度も何度も試してみたがどうにも感覚がつかめない。ちょっと走っただけだと思えば足が回り目の前には壁状態。ちょっと歩く程度だと普通に走った程度の速さになる。
その二つの間の感覚というのがつかめない。まぁこれは追々慣れていくということで次に行こう。
『影分身 その名の通り自らの分身を出す魔法 なお分身は本体の状態に影響されることなく本体の平常時の状態のものが作り出され、本体が死ぬレベルの攻撃や病などにより消滅する また痛覚や経験は共有する *エールの奴』
ついにエールについての説明が雑になった。しかし、影分身。ロマンがある魔法だ。しかしながら説明を見る限り痛覚の共有はきつい。だが分身がなかなか消えないというのはおもしろい。
「影分身‼」
早速唱える。とりあえず二人ほどの分身をイメージしたらしっかりと二人出てきた。外見は完璧に自分だ。とりあえず何か命令してみる。とりあえずハンクの近くに走らせてみるか、と思うと分身は二人ともハンクに近づいて行った。どうやら口で命令しなくても頭で思っただけで命令ができるようだ。反乱もしないようなのでこれは安心だ。そしえ気になる痛覚共有。とりあえずハンクにその分身を殴ってくれと命令する。ハンクはいいのか?と言ってくるが手加減せずにやってくれと言う。分身はこの後起きることは分かっているのかびくびくしている。一体どちらの分身が殴られるのだろうと。だが分身だから避けられない。ハンクは大きくこぶしを振り上げて右の分身の頭を・・・
ポコッ!
「「痛っ‼」」
二人の言葉が重なる。本当に手加減なく来たのか。ジンジンする頭を押さえて分身の方へと向かう。殴られた分身の方は自分と同じように頭を押さえている。怪我を確認すると大きなこぶができている。外傷ができない分まだましな気がする。
一方殴られていない方の分身はホッと胸をなでおろしている。どうやら分身には痛みが反映されないようだ。次にこの分身たちは魔法が使えるのかを検証してみる。するとどちらの魔法も使えることが判明した。これは利便性が高まり、世界が広がった。この調子で次は消滅・・・と言いたいところだが死ぬレベルの痛みとか笑えない。
ひとまずだいたいのことは分かったので分身を消そうと身体に力を込める。
だが消えない。あれ?何度も同じことを繰り返すが消えない。もしかして消すためには殺すしかないのか?いろいろと試すと分身に触りながら力を入れると消えることが分かった。
これはとんでもないマイナスポイントが見つかった。つまりは遠隔で消すことができないということだ。これは面倒くさい。遠くから自分のところに戻す道中にけがをしてしまったらその痛みが自分にくる。厄介な魔法だ。
とりあえず今使える魔法をまとめてみる。まずはスモーキーカーテン。ただの煙幕。ドライブ。使い道はあるが難しい。そして影分身。使い勝手はいいが、弱点が多い。
さてこれらでできることを考えてみよう。
パっと思いつくのは運送業。自分を増やしてそいつらにドライブを使って走らせて荷物を運ばせる。思いつきにしては結構良いのではないか。ただ三つすべてを活かすのは無理だ。
というよりかはスモーキーカーテンがあまり実用的でない。さてどうしたものか?
と自分について考えているとこれまたハンクもまるで自分のことのように考え込んでいる。
そして考えがまとまったらしく亮太に話しかける。
「なぁお前、兵士になってみないか?」
そう言われる。
「お前のその分身とその速さ、そして煙もきっと兵士をするのに役に立つはずだ。俺が保証する。」
兵士か、確かにすべての魔法を使うことの出来そうな職業だ。でも、
「そう簡単に兵士になれるものなのか?」
兵士とは国を守る重要な職業。そう簡単になれるものではないはずだ。
「確かに普通に兵士になるには養成学校に入って何年か学んだ後に試験を受けてなるっていう工程がいるが俺に任せておけ!」
任せるって、もしかして裏口就職的なことをするのか?別にそんなことをされてまで働きたくはないのだが。しかし話を聞いてみるとそんな後ろめたい行為ではなく推薦という形で養成学校の過程をスキップして試験、それも筆記試験もスキップして実技試験から受けることができるそうだ。
「一応部隊長以上の人間じゃなきゃ使えない特例なんだがな。それに養成学校からの奴には標的にされるからなまじ普通に試験受けるよりもつらいかもしれないがな。あの時は俺も大変だった。」
とハンクは懐かしむ。ということはハンクも推薦で入ったということか。まぁハンクには筆記試験は無理だろうから当然だろう。しかしハンクはその部隊長以上というハードルをクリアしているのか。もしかしたらハンクはすごい人なんじゃあ・・。兎にも角にもこんな幸運を逃す理由はなくハンクに頭を下げてお願いすることにした。
「それで試験っていつ頃にあるんだ。」
「だいたい一週間後だな。」
「いっ・・しゅう・・かん?」
一週間だと⁉果てしなく短いではないか。その間にこの魔法たち、とくにドライブを関液にしなければならない。それに肉体もだ。自慢ではないが高校以来運動というのは避けてきたし、最近動いたなと思うことは激安スーパーに自転車で行ったことくらいだ。
とりあえず明日と言わず今日から筋トレを始めよう。それとハンクにお願いして稽古をつけてもらおう。部隊長クラスの腕を持っている男だ。きっと素晴らしい指導を・・と思ってお願いしたがノータイムで断られた。
「休みは今日までで明日からは一般兵しごいたり会合参加したり野盗征伐したりで忙しいからな。」
そういえばハンクは兵士だというのにずっと家にいたが兵士もしっかりと休日が設けられているのか。それに話を聞くと今回の休みは有給らしく消化しなければならなかったらしい。異世界もそういうところはしっかりしているのか。うれしい反面何だか現実的で寂しい気もする。さらにハンクは推薦な分自分が稽古等としているところを見られると自分も審査する側であるので面倒だとも言われた。
とりあえずここからは一人で自分を磨かなければならない。その日は一日中ドライブのコントロール練習で終わった。
どうも作者です。さて一話からほとんど時間もたたず二話となりましたがお楽しみいただけたでしょうか。
いまのうちに言っておきますが話が加速するのは2~3話後を予定しています。そこまでどうか・・・。
ちなみに流れは修正前と同じところや違うところが出てきます。なので前作は今は残しておくつもりです。それでは三話でまた会えたらうれしいです。