1.夏の日
どうも、作者です。僕の作品欄を見ればわかると思いますが同じタイトルがもうすでにありますよね。
これは若気の至りで作った作品の不可解な点を修正したいわば修正パッチを追加したバージョンだと思ってください。まぁ、これはいずれ旧バージョンの方に移植する予定ですが・・。
その日は特に暑い日であったということを覚えている。一人暮らしである以上最低限の援助はするが贅沢したきゃ自分で稼げという両親の教えにより日中であろうと冷房をつけっぱなしにはできず、白神亮太は週末だが大学の図書館にいた。飲食禁止という制約はつくがここなら一日中冷房が効いているし、ファミレスとは違って静寂が約束されている。とりあえず日中はここで乗り切って夜は気合でなんとかしよう、そういう思いでいた。が、実際に夜になるとそれは甘かったと感じるほどの熱帯夜となった。仕方がなく冷房をタイマー設定で動かし、何とかタイマー内に眠ろうと目を閉じた。
その夜こんな夢を見た。暗い何もない空間で自分が眠っている。そしてこれが夢であるということを自身で自覚している。日常生活では眠っているという普通の行動に思えるが夢としては何もないのに自覚しているという何とも不思議な夢だ。そんな状態が少し続き、夢に変化が起きた。どこからか光が自分の周りに広がり始める。ぼんやりとした蛍のような光が無数に。そしてゆっくりと自分の中に入り込んでくる。特に痛いとかそういうのはなく、温かいものが体中に広がるといった感じだ。そうして光がすべて身体の中に吸収され身体中がぼんやりと光っている状態になると急に目の前の暗闇が切り裂かれ光が広がっていく。自分の身体の光と違いとてもまばゆい光が。その光のまぶしさに思わず目をつぶると今度は意識が遠くなっていく。意識が糸レベルに細くなったときに
『貴方に加護を』
うっすらとそんな声が聞こえた。どこか知性を感じる、とても美しい女性の声だった。
・・・・目が覚めた。明晰夢といえばいいのか、それを見たせいで精神的には疲れが取れていない、そんな目覚めだ。だが身体にも異変が感じられる。腕や脚がとても窮屈でどうにも動けない。まるで何かの箱の中に入っているようなそんな感じだ。何とかしようとバタバタと手足をできる範囲で動かすとカタッと上の方で何かに当たり、光が線上に入り込んできた。どうやら本当に箱の中にいるみたいだ。今度は両手で思い切り押すとガタンと蓋が外れて外の光が一気に入り込んできた。ゆっくりと身体を起こすとやはり箱の中にいたようで長方形の木製の蓋と箱が目に入る。えっ。俺死んだ?そう思ってしまう。そう考えるとあの夢はあの世の世界、あの声は天使の声と合点がいってしまう。だが身体の感覚というのは確かなものであり、死ぬようなこともしていない。俺はただ冷房をつけて寝ただけだ。一回深呼吸をして周囲を見渡す。どうやらここは人通りのない路地のようだ。自分を挟んでいる建物を見ると石造りのようで目に見える所だけでもどことなく中世といったイメージを感じる。ここがどこかはっきり把握するためにも路地の先に見える光に向かって歩みを進めた。
そうして見えた景色は自分が住んでいた大都市とは全く異なる世界だった。
「らっしゃいらっしゃい!今日はいい果物が入ってるよ!」
「魔術師お墨付きのネックレス。これさえあれば神の加護があなたに訪れ・・・」
「王の下で兵として働くものは・・・」
そんな声とともにまるでファンタジー映画の中のバザーのような世界が見える。
亮太は自分の目をこすり、自分の頬をつねりこれが夢でないということを完璧に自覚するととりあえず元いた路地へと引き返した。そして大きく息を吸う。肺が空気でいっぱいになりもうくうきが入らない状態になると
「はぁ⁉」
辺りに響くくらい大きな声で叫んだ。一回叫ばないと気持ちを整理できない。
何処この場所⁉何処この時代⁉何処この世界⁉
だがどうやっても整理が追いつくわけがなく、頭の中を不思議が駆けまわる。
とりあえず今ある情報を整理しよう。とりあえずここは俺がいた世界とは全く違う世界だと断言できる。そうじゃなければありえない。それではどこなのか。確かさっき魔法がどうとか聞こえた気がする。だが気が動転していたから確証はない。もう一度確認しようと今度は路地からのぞき込むのではなく思い切って町に繰り出して周りを見渡す。
そして自分が見たものは幻なんかではなく現実のものだと確信する。よくわからない謎の液体を売る老婆、日が出ているというのにローブで歩く男、甲冑の兵士など・・・。フィクションの世界でしか見ないものが目の前に広がる。
これはあれだ、異世界転移というやつか。さっき町を見た時に少し頭をよぎっていた。俺の本棚にも陳列されている夢の異世界転移だ。亮太はもう一度路地に戻り先ほどと同じ工程を踏む。そして
「よっしゃー‼」
また町に響くほどの大声で叫んだ。
ありがとう神様!やっぱり平凡な人間が転移するって本当だったんだ!もう元の世界なんてどうでもいい。ここで生きていこう。そう決心した。
スキップしながらまた町に戻ると周りの人々が冷たい目でこちらを見てくる。どうやら先ほどの咆哮二回が聞こえていたらしく、一回目は気のせいくらいで流したのだろうが二回目が聞こえ、聞こえた先に俺がいたことで方向の主だと分かり近づかないようにしているのだろう。これは我ながら恥ずかしいことをしてしまった。顔が熱くなってしまう。だが行商人の方は嘗め回すように亮太を見つめ、にやにやとしながら近づいてくる。
「お兄さん、このネックレスはどうだい?特別に安くしとくよ?」
「それよりも坊や、この魔法の薬はどうだい?これさえあれば病気なんてへっちゃらだよ?」
いかにも商売スマイルで、猫なで声で優しく伝えてくる。
「えっ、でも俺金なんて・・・」
「いいんだよ、お金なんて、その代わりその服を・・」
そういいながら行商人たちはシャツやトレパンを強く握ってくる。なんとか引きはがそうとするが全力で握りしめているらしくなかなか離れない。
「いや、ちょっとやめてくれませんかね?」
「いいじゃないか服なんて、そこらで手に入るものだろう?」
そう笑顔でいいながら今度は服を無理やり脱がそうとしてくる。
引きはがそうにも人数が人数なので対処できない。どうすれば、と頭を回していると大きな手が一人の行商人の腕をつかんだ。
「悪いな、こいつは俺の連れなんだ。あんまり乱暴しないでもらえるか。」
大きな手の主のこれまた大きな甲冑の男がそう伝える。行商人はその顔を見るや否や国の人間かと舌打ちしながら自分の持ち場に戻る。甲冑の男は今度は亮太の腕をつかみもといた路地の方に連れていく。引きはがそうにもこの人は恩人であるわけだからそんなことはできない。亮太が箱から出てきた場所よりも奥の奥に着くと男は手を放す。
「大丈夫か?異世界の坊主。」
そう男は亮太に話す。
「はい、あなたのおかげで。ありがとうございます。」
「なに、例には及ばねぇよ。」
そう男は頭をかきながら言ってくる。だが甲冑の腕ではうまくかくことができず右腕の部分だけ装備を外した。どうやら少し抜けているところがあるようだ。だがさっき気になることを言っていた気がする。たしか異世界の坊主と言っていたよな?なぜそんなことを知っているのだろうか、そのことを尋ねてみると予想外の回答が来た。
「だってその恰好はどう見ても異世界人だろう、周期的にも来てもおかしくないしな」
「周期ってどういうことですか?」
「どうもこうも、坊主みてぇな異世界人はだいたい五十年に一度くらいの周期で突然現れるんだよ。俺は見るのは初めてだけど」
なに?異世界転移ってそんなボジョレーヌーボーみたいな感じで何年に一度くらいのペースで現れるの?そんなシステム的に転移って行われるものなの?何だか異世界転移の神秘性というのが薄まってしまう。
「異世界の服ってのは珍しいからコレクターに高く売れるんだ。お前あのままだったら路上で全裸にされて速攻俺らに捕まっていたぞ」
本当に危なかった。初めての土地で全裸にされて捕まるとか本気で笑えない。それよりも捕まるって言っていたよな、ということはこの男は・・
「あぁ、言い忘れていたな。俺の名前はハンクだ。一応これでも城で兵士をしている。」
一応これでもと言ったがそれにしか見えない恰好をしている。さっきは抜けていると思ったが前言撤回。恩人には悪いがおそらくこいつは脳筋タイプだ。でかくて筋肉ムキムキ、それだけでもわかる。だが面と向かってそんなことがいえるはずもなく普通に関亮太ですと自己紹介に応えた。
「それでお前、これから行くとこあんのか?」
そうハンクが訪ねてくる。もちろん来たばかりで右も左も分からない世界に行き場所があるはずもなくないと答えるとハンクは少し考えてから、ついて来いと亮太に言い、亮太はその言葉に応えて、ほいほいとハンクの後ろについていった。
ハンクに連れられて町を進んでいくとだんだんと町の中心地に近づいて行っているようで先ほどよりも人通りが増えていく。それにつれて建造物で隠れていた大きな城が姿を見せていく。亮太が田舎者のようにきょろきょろとしながら歩いているとやはり格好で異世界人と分かるらしくそれが分かったハンクは亮太に気を遣って少し急ぐぞ、と言い町を早歩きで過ぎていく。しばらくすると民家が連なっているエリアに出てその中の少し大きめの家の前で止まり、俺の家だ、しばらくはここにいていいぞと言われ遠慮なくお世話になることにした。
大きな家であるので中はさぞかし豪華絢爛なのかと思ったがそうではなくひとり暮らしには若干広い程度であり何がこの家を大きくしているのかと家を散策するとでかい道場のような場所にたどり着きやはり自分の予想は間違っていなかったと感じた。その後この世界のことを聞こうとしたが腹の虫が鳴り、その前に腹ごしらえだなとハンクが台所に行き料理を作り始めて完成するまで亮太はもう一度考える猶予が与えられた。
まずはこれからどうするか。ハンクに厄介になるのはできるだけやめたい。自分は何もしていないのにという罪悪感を覚えるしせっかく異世界に来たのにおっさんと二人でいるとかありえない。とはいえ何も知らない、無一文の状態で外の世界に繰り出すのは自殺行為だ。ここはまずハンクから情報を得て、金を得る術やどうここで暮らしていくのかを考えていかなければならない。
「さぁ、できたぞ!」
そんなことを考えているとハンクが大きな皿とともに現れた。机の上に置かれたのはまさに男の料理といった、いや男というよりかは火を使うことを覚えた人類が初めて作った得体のしれないものだった。
「さぁ、遠慮なく食え‼」
そう言い、ハンクはそれを手掴みでバクバクと食べていく。亮太は覚悟を決めその物体を食べる。そして、次からは自分で料理しようと心に決めた。
なんとか皿の上のものを片付けその余韻に何分か動けなくなった後に今後のことをハンクと話し合う。
「そうだなぁ、働くにしてもお前の魔法がどんなものかをしらなくちゃなぁ。」
「魔法って俺にも使えるのか⁉」
「もちろん使えるさ。お年寄りから子供まで、みんな平等に使えるぞ。」
その言葉に亮太はガッツポーズをした。おそらくすべての異世界転移者(チート系を除く)が悩むであろう最初の関門である魔法をいとも簡単に使えるというのは心が躍る。
「それでどうやって使うんだ?」
「どうやってって言われてもなぁ、魔導書がないとどうにもならないからなぁ。」
「魔導書って、ハンクは持っていないのか?」
「いや、持ってはいるが俺専用の魔導書だからお前が見ても意味がないんだ。一人一人使える魔法っていうのは異なるからお前も自分専用の魔導書を手に入れないと魔法は使えないんだ」
「その魔導書っていうのはどこで手に入るんだ?」
「魔法の話には随分と食いつくな。城の方に魔法図書館というのがあってだな、そこで誰もが無償で手に入れられるんだ。王のおかげでな。」
ここでハンクが兵士らしく王を立てる。だが俺も王に感謝しなければならない。まさかの無償で魔法を使えるようにしてくれるなんて。早速図書館に行こうとハンクに言うと外を指さし、暗くなっているから明日にしようと言ってきた。亮太も外を見るともう日が暮れ始めていてすっかり町はオレンジ色になっている。ここはハンクに従い明日へとこの興奮をとっておくことにしてハンクからもう少し話を聞くことにした。そんなこんなですっかり外は夜の姿に化粧をしてハンクが夕飯にするかと元気に言って台所に向かおうとしたので全力で食い止め、亮太が夕飯を作ることになった。食糧庫にどんな食材があるのかと確認すると中はひんやりと涼しく、もしかしたら電気があるのかと思ったがそうではなく食糧庫の中に手を伸ばし謎の札を見せてきた。それはなにかと尋ねてみるとこれに魔法が込められていてそのおかげで中を冷たい状態にできているとか。異世界は文明的に現実世界と差があるから不便なことが多いと思っていたがこっちはこっちで不便を魔法で解決しているのかと感心した。とりあえず食糧庫の中は元いた世界で見たものはほとんどないが、奇怪な色の卵やらどうやって解体したらいいのか分からない肉塊、そして調味料という自分でもなんとかなりそうなものが入っていて、改めてハンクは何を使ってあれを作ったのかと思ってしまう。もしかしてハンクの魔法って錬金術なのだろうか。とりあえず中にあった卵やらなんやらで適当に料理っぽいものを作るとハンクはとてつもなく喜んだ。どれだけ生活レベル低かったんだよと思いつつ異世界生活初日を終えた。