4話 元勇者、覚悟を決める
興奮しながら話す騎士の男、その側で顔俯かせている。新しく召喚された勇者の葵と更にその側でただその様子を見ている俺、側から見れば異様な光景である。
興奮状態が冷めてきて呼吸を整えた騎士はやっと葵の側に居た俺の存在に気付いた。
「何だ貴様は! 何者だ!」
騎士は腰を少し落とし、腰に下げている剣に手を掛けた所を葵が慌てて止めに入る。
「違います! この人は魔獣に襲われそうになっていた私を助けてくれたんです」
「そうか、助けてくれた事には礼をいう私達は先を急いでいるので失礼するおい行くぞ!」
騎士の男は剣から手を離すと、淡々と礼の言葉を言うと振り返り歩き出し、その後を葵は駆け足で追いかける。
そんな光景を見ていた俺の心の中では、自分勝手な行いの性で彼女の元いた世界での日常を奪い、過酷な冒険をさせてしまっている。
バッドエンド1
高レベルの魔獣と無謀な戦闘をして死亡。
バッドエンド2
仲間の騎士の男に裏切られて死亡。
最悪なシナリオが俺の脳内を駆け巡った。やばいせめて最悪な展開だけは阻止しなければならない。
「ちょっと待ってくれ!」
気付くと俺は去ろうとする騎士の男と葵を呼び止めていた。
俺の呼び声に足を止めて騎士の男と葵がこっちに振り返る。
「何だ、まだ何か用か?」
急に呼び止められたので怒気混じりの声で騎士の男は答えた。
「確かに彼女には勇者として果たさなければならない事があるかもしれないが、今のままではそれは叶わない」
俺がそう言うと、騎士の男は眉を寄せ眉間に皺を寄せた。
「どういう事だ」
言葉自体は冷静だが、騎士の男の顔からは怒りの感情しか読み取れない。
「この冒険にあんたは必要ないという事だ、そしてあんたの代わりに彼女は俺が守る」
俺は右手で親指を立てると自分の胸を指した。
俺の言葉に騎士の男と葵は一瞬言葉を失うがすぐに騎士は俺の方を見ながら笑い出した。
「ハッハハハハハ、私が必要ない? そして貴様が代わりに旅をする? なぜそこまでする?」
やばいどうしたものか、俺も葵も今回が初対面だ中々良い言い訳が見つからない。無いわけでないが…俺が黙っていると騎士は更に苛立っていた。
「おい! どういう事だと聞いているんだ!」
騎士の男の言葉に俺は覚悟を決めた。
「俺は彼女に一目惚れをしたんだ」
俺の言葉を聞いた騎士の男はポカーンとして表情をして葵は顔を赤くして戸惑った表情をしていた。
「フッフフフ、ハーハッハッハー何を言いだすかと思えば、一目惚れしただと? ふざけているのか?」
騎士の男の馬鹿笑いが辺りに響き渡る。
「俺は真面目だ! 今までの俺だったら愛だの恋だのいうのに感ける者は下らないと思っていたしかし、彼女と出会いその考えが変わったんだ! 俺の様な平民が勇者と一緒に旅をする事は出来ない、せめて一緒にいる仲間が頼れる者ならまだいいがお前みたいな自分勝手で仲間の事を省みない奴に彼女は任せられない」
俺は騎士の男に向けて短剣を向ける。
「貴様、さっきから聞いていれば騎士のこの私に向かって生意気な口を、私は王都に仕える護衛隊が隊長ファブルク・リーガンの息子ラルク・リーガンだぞ!」
「だからどうした? お前が凄い訳ではないだろ?」
俺はあっけらかんとした態度を取ると騎士の男の顔色が変わる。
「どうやら貴様には口で言っても分からない様だな! ならば、体に分からせるまでだ!」
堪忍袋の尾が切れたラルクは剣を抜き、構える。俺も短剣を構え中腰になる。
「やめて下さい2人とも剣を収めて下さい」
葵が再び止めようとするがもはやその言葉を聞き入れる者はいない。
今ここに1人の女性を掛けた2人の男達の闘いの火蓋が切って落とされた。
小説を書き始めて4話目仕事で疲れてしまい、作成が遅れてしまう時もありますが、間が開かない様に更新したいと思います。