1話 召喚勇者、挫折する
しがない高校生だった俺、辰巳隼人はひょんなことから異世界に召喚された。
国王から「其方は選ばれし勇者である是非この世界を救って欲しい」と言われ、ベタなRPGかと心で思いつつ喜びと興奮を必死に抑えていた。
かくして、冒険の旅が始まったが旅が中盤にかかる頃一緒に旅をしていた仲間とつまらない事で喧嘩して仲たがいし、気付けば1人で旅を続けていた。
「大丈夫だ俺、知らない世界に飛ばされてここまでやってこれた! 何とかなるさ!もし強い敵が来ようとこの剣があれば負けはしない!」
俺は背中に背負っていた剣を抜く。
その剣は、仲間と一緒にダンジョンをクリアした時に手に入れた剣で金色の鍔には細かな彫刻が彫られていて、刃の部分は眩い光を放っている。
そんな剣を翳していると、近くの茂みから「カサカサ」と音が聞こえてくる。
音がした方に振り返ると、小さな魔獣が飛び出して来た。
見た目はウサギだが、額から大きな角が生えている。こっちの世界ではホーンラビットと呼ばれている。低級の魔獣である。
「よし! せっかく剣を抜いた事だし、恨みは無いが倒させてもらうぜ!」
持っていた剣を高らかに構えホーンラビットに向けて振り下ろす。
その瞬間、ホーンラビットは横にぴょんと飛び振り下ろされる剣をかわす。
空を切った剣は、ホーンラビットが元々いた所に埋まっていた岩に当たり、その瞬間「カキーン」という音と共に真っ二つに折れた刃が宙舞う。
ホーンラビットはそのまま森の奥へ逃げて行った。
現実が受け入れられない俺は暫し折れた剣を見ながら佇んでいた。
「もう勇者辞めよう」
愛用していた剣と心を同時に折れた俺は、もはや何もする気になれなかった。
近くのダンジョンに行き、魔獣に殺されたと思われる死体に装備していた鎧と剣を置き死亡を偽装した俺はまるでゾンビの様に気力を失い森の中を歩いて行った。
それから2年ぐらいの時が経ち、ようやく立ち直った俺は、森の中に小さな小屋を作り細々と生活していた。
そんなある日、俺は食料を買いに近くの村に来ていた。
食料が少なくなれば、魔獣を狩っていた。魔獣を狩ると魔石が出てくるのでそれで買い物をしていた。
いつもの様に買い物をして魔石を店主の男性に渡す。
「いつも魔石で買い物するのはいいが、ギルドで換金してもらった方がいいんじゃないか?」
店主の男性は右手で魔石を摘みながら左手で顎をさすっている。
「良いよ、わざわざ換金しに行くのも面倒だし」
実際の所は、ギルドに行き勇者である事がバレる恐れがあるからだ。
俺が姿を消してから1年程経った時に俺の鎧を付けていた死体が発見されて、都では「勇者が死亡したと」大騒ぎになったという噂が片田舎であるここにも流れてきたのだ、そんな時に死んだはずの勇者が現れれば大問題になるだろう。
「まぁこっちは構わないんだけどよ」
店主の男性は魔石を籠にしまうと思い出した様に話し出す。
「そういえば、兄ちゃん最近王都の方でまた勇者召喚をしたらしいんだよ」
勇者召喚は準備に多大な魔力や労力を強いる儀式で1回行うと次回行うのに数年かかる国家プロジェクトである。
買い物を終え、帰路に着き小屋に向かう中頭の中では、自分が勇者だという事は過去の事であり今後は新しく召喚された勇者が皆の期待を背負って冒険していくのだなとかそんなことを考えていると、森の中から悲鳴が聞こえた。
俺は咄嗟に悲鳴のする方に走り出した。
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