眠 -Good night xxx- 【キスの日2019】※英ジャス
ふ、と意識が浮き上がる。
と同時に耳に届いたのは、まだぼんやりと定まらない視線の先に居た、愛しいひとの子守唄だった。
「よしよし、アンジェはおねむが上手だね」
ごく小さく低くつぶやかれた言葉。そうしてゆっくりとベビーベッドへ向かった彼は、腕に抱いていた愛娘をそっと毛布の上に横たえた。
「おやすみ」
次いで小さなリップ音が聞こえ、そこではっきりと目が覚めた。
ベッドサイドだけがほんのりと灯された暗い寝室。とりあえず頭だけを巡らせて確認すると、時計の針は深夜2時45分を指していた。
「英一さん」
思うようにならない身体をもぞりと動かすと、気づいたらしい彼がこちらを向いた。
「アンジェがぐずっていたんでね、ちょうど授乳の時間だったし、ミルクをあげたんだけど……よかったかな?」
「ありがとうございます」
「ジャス」
感謝を口にした直後、静かに諭される。
「今夜はなにも気にせず、ゆっくり寝るんだよ。いいね?」
胸に湧くほの暗いものを見透かしたかのようなそれに、思わず返す言葉を失う。加えて至極真剣な眼差しで圧されては、もう、自分にはどうしようもなかった。
「わかりました。英一さんの言いつけに従います。だから」
「だから?」
「私にも……してください」
アンジェと同じに、と言ってしまってから頬が熱くなる。ベッドに横たわったまま、羞恥に毛布を顔まで引き上げると、彼が静かに近づいてくる気配がした。
「ジャス」
柔らかな声で呼ばれて。観念してそっと顔を出す。
「ジャスは、おねむが上手だね」
完全な子ども扱いが今は心底嬉しくて。ふふ、と小さく笑うと、目を閉じてと手のひらで促された。優しく視界を閉じられるや、ひどく疲れた自分の身体に、抗いようもなく再びの眠りが襲ってくるのを知覚して。
「おやすみ、ジャスティナ」
そうして頬に、そして唇に触れたぬくもりに安らぎを得て、ひとすじ現に残った意識を手放した。
おまけの一発書き小話
【罠 -xxxyz-】
日曜のリビング。
夫婦並んで座るソファ。
けれど今、妻の視線はスマホに向いていて。真剣な眼差しを邪魔するわけにもいかず、手持ち無沙汰に天井を仰いでいたその時だった。
ぶぶぶ……ぶぶ……
突然ジーンズのポケットで震え始めたスマホ。慌てて取り出し、バックライトを点灯させて。
そうして目に入った「メッセージ」に驚いた。
「ジャス……っ」
真相を問いただそうと、妻に向き直ったその瞬間。
ぷに。
「……っ!」
半ば予想通りの展開ながら、一気に顔に火がつき慌てる。
「ジャ……ジャスっ!」
一瞬唇に触れた柔らかさは、それはそれは忘れ難くて。
邪なその願いを悟られたくなくて、大げさにかぶりを振る。
けれど。
「英一さん」
「は……はい」
くすっと笑う、それは完全なる魔性の笑みで。
「もう一回、しましょうか?」
甘い誘いを、断れようはずもなかった。