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041 人材不足による魔王軍倒産の恐れ

 



 果てしなく続く銀世界。

 一歩踏み出せば、新雪がきゅっきゅっと鳴り、独特の心地よい感触が足裏に返ってくる。

 寝そべればそれはふかふかのベッド。

 銀狼は全身ふさふさの毛皮に覆われているので、凍えることもない。


「……さ……リル……まっ!」


 フェンリルがそんな風に雪原に寝そべると、どこからともなく仲間たちも現れ、添い寝する。

 無数の銀狼が横たわり、ただゆるやかに時間が流れるだけの、奇妙ではあるが、平和な光景。

 それが、かつての彼らの日常だった。


「おき……ださ……ンリル……っ!」


 極寒の雪原には外敵も少ない。

 フェンリルは優秀な長だったので、軽く狩りをすれば食糧に困ることもない。

 外敵による侵略も、氷のスペルで、指先でつつくぐらいの力で退けることができた。


「起きて……いっ!」


 ここは楽園だ。

 そしてフェンリルはその守護者であった。

 それは今も変わらない。

 またあの雪原で仲間たちと寝そべるために、魔王軍でもっと高みに上り詰める必要が――


「フェンリル様ぁっ! 死んじゃやですぅっ! わふうぅんっ!」


「はっ!?」


 横たわっていたフェンリルの意識は急激に覚醒し、すばやく起き上がった。

 首を左右に振り、現状を確認する。


 ここは秘密結社ダークネスのアジト。

 そしてここを訪れてから、まだ時間はそう経っていないようだ。


「わふん、良かったぜ」


「フェンリル様が気絶したときはどうなるかと思いました。わふわふっ」


「そうか……我は……あまりにショックすぎて魂だけが故郷に帰ってしまっていたのか……」


「この方が助けてくれなかったら死んじゃってたかもしれませんよ? わふわふっ!」


「すまなかったな。助けてくれた人間に礼を――」


「わたしです」


 にょき、っとフェンリルの眼の前に顔を出すサーヤ。


「うわあぁぁぁあああああああああっ――あ」


 そして再び気絶するフェンリル。


「フェンリル様っ!?」


「わふんっ、フェンリル様がまた気絶しちまった!」


「大丈夫です、わたしが気を注げば意識を取り戻すはず……はッ!」


 サーヤはフェンリルの胸あたりに手をあて、目には見えない何かを注ぎ込む。

 すると再び彼はゆっくりと瞳を開いた。


「我は……一体……」


「フェンリル様、気絶しちゃってたんですよ。わふわふっ」


「すまなかったな。助けてくれた人間に礼を――」


「わたしです」


 フェンリルの視界を埋め尽くす、サーヤの笑顔。

 悲劇は繰り返される――かのように思えたが。


「っぐ……そ、そうだったな。お前、だったな……」


 フェンリルの心臓は耐えた。

 だが代償に胃が大きなダメージを受けた。

 そんなフェンリルの気持ちなど知らずに、サーヤは少し距離を取って、ぺこりと頭を下げる。


「どうもはじめまして、サーヤともうします」


「我は……魔王軍四天王最後の一人、フェンリルだ」


「はい、知ってます。他のお三方から話は聞いてますので。同族の銀狼さんたちを引き連れて、養うために戦ってるんですよね。一番話ができる四天王だって、ティタニアさんがほめてましたよっ」


「わふわふっ、フェンリル様が褒められてるぞ!」


「わふわふっ、嬉しい限りですな」


「わふぅん、自分たちのことのように喜んじゃいますね」


「お前たち……」


 脳天気な仲間に、頭を抱えるフェンリル。

 どうやら彼らは、今がどういう状況なのかわかっていないようだ。

 もっとも、フェンリルにも理解不能だったが。


「シルフィードさんともお友達になれましたし、きっとフェンリルさんともお友達になれると思うんです。これからよろしくおねがいしますっ」


「だ、誰が友達になどなるかっ! これはどういうことだサーヤ。なぜ貴様が、帝都の裏で蠢き、帝国を破滅に導く秘密結社の総帥になっているのだ!」


「なんかいつの間にかなってました」


「そんなわけあるかぁっ!」


「でしたら、私が説明しましょう」


 フェンリルをここまで案内してきた男が、すっと会話に割り込んでくる。


「あれは二週間前のことでした――」


 ローブを纏い、顔にタトゥーを刻んだいかにも邪悪そうな彼は、胡散臭い口調で語りだした。






 ◇◇◇




 二週間前、帝都の裏路地にて、一人の男が始末されようとしていた。

 男なので名前は割愛するが、彼は結社の一員であり、その“掟”によって始末されようとしていたのである。


「違う、俺はただ……上に命令されて……っ」


「邪神様に捧げた金銭を奪うことを、か? ならばその幹部の名を言え。直接問いただして来よう」


「そ、それは……」


「言えぬのか? まあ、どちらにしろ私に嘘など無駄だがな。発動せよ、邪神より与えられし我がスペル――マリオネットストリングス!」


 ローブの男が手をかざすと、その指先から五本の糸が伸びる。

 その先端は標的である男性の手足と頭に沈んでいった。


「うっ……こ、これは……っ」


「この操り糸を受けた人間は、いかなる手段を用いようとも私の支配から逃れることはできない!」


「これが……ダークネス幹部の力なのか……!」


「秘密結社ダークネスは完全実力主義。強いものほど成り上がることができる。その幹部の中でも私はトップクラスの実力者だ。次期総帥とも呼ばれる私の力を受けて、自ら命を断つがよい、裏切り者よ!」


「いやだ……俺はっ、俺は死にたくねえぇぇええっ!」


 叫び声をあげ抵抗しても、体は勝手に動く。

 男は唯一自由に使える“喉”を使って「助けてくれー!」と叫んだ。

 しかしここは裏路地の深い場所。

 本来なら、誰もいるはずなど無かった――


「あれぇ、おかしいですね。やっぱり一度飛んで、現在位置を確認したほうがいいんでしょうか」


 偶然迷い込んだ、サーヤが通りかからなければ。


「チッ、迷子か。しかしマリオネットストリングスは両手から射出可能! 恨みは無いがお前も人形になって自害しろ、名も知らぬ少女よ!」


「逃げろっ、お嬢ちゃぁぁぁんっ!」


「違います、こう見えてもわたしは女の子ではなく、女装してるだけなんですよ?」


「そんなこと言ってる場合じゃ……ああぁ、糸が……体の中に……」


 女装アピールをしているうちに、サーヤはマリオネットストリングスの発動を許してしまった。

 幹部はほくそ笑み、左手で彼女の肉体を操ろうと指を動かす。


「なんですか、この糸」


 だが、サーヤが何気なく糸が沈んだ右手を動かすと――


「おぉぉおおっ!?」


 幹部は急に、前のめりに倒れようとする。


「何だ今のは、まるで糸に引っ張られるような感覚だったぞ……? いや、そんなわけはない。これは“一方的に操る”スペルなのだから。今度こそあの女を始末してっ!」


「左手にも繋がってますね」


「ぬわあぁぁあっ!」


 今度は後ろに倒れそうになる幹部。


「どうしたんです? 大丈夫ですかっ?」


 サーヤは彼を心配し、駆け寄ろうとする。

 しかし、もちろん足にも糸は繋がっているので――


「やめろっ、動くなあぁっ! あぁっ、ああぁぁぁああっ!」


 サーヤが走ろうものなら、幹部の体は空気が抜けていく風船のように、縦横無尽に動き回る。

 マリオネットストリングスは、本来は相手の体を操るために射出されるもの。

 正しい方向に魔力が流れれば、正しく力は行使される。

 しかし魔力の逆流、あるいは身体能力で強引に糸による支配を脱した場合――術者には、“力の暴走”とも呼ぶべき反動が返っていくのだ。


「大変ですっ……待ってください、すぐにつかまえますから!」


「違うっ! 違うんだぁっ! お前が動けば動くほどっ、私はっ! 私はああぁぁああっ!」


「なんてスピード……力が暴走してるんですね!」


「だからお前のせいだよぉおおおおおっ!」


 結局、サーヤはかなりの力技で幹部の体を捕まえ、暴走を止めることに成功。

 その後、彼のスペルは解除され、殺されかけた男と共に、サーヤは――いや、幹部は操り糸から解放されたのである。

 しかし、重力を無視して空を飛び回り、壁にも衝突した幹部はボロボロであった。

 意識は朦朧とし、もはや男を始末する元気などない。

 そう、つまり――サーヤは秘密結社ダークネスの幹部に勝利し、男の命を救ったのである。


「あんた、すげーな! その力、まさか四天王を倒したっていうサーヤとかいう女の子じゃねえのか!?」


「女装です」


「……そこ、大事か?」


「大事です! ですが今は置いといて、確かにわたしはサーヤです。四天王さんは倒したわけではなく、お友達になっただけですけど」


「それでも大した奴だ。ダークネスの幹部を倒しちまうんだからな……」


 男はぐったりと倒れる幹部を見ながら言った。


「ダークネスって、何なんです?」


「帝都で暗躍する秘密結社だ」


「かっこいいですね」


「かっこいいだろ? 俺もそう思って入ったんだ」


「気持ちはよくわかります」


 かっこいいものに惹かれるのは老若男女関係なく、万国共通である。


「あんたはその幹部を倒した。つまり、次の幹部ってことになる」


「かんぶ……って、なんですか? 怪我したとこ?」


「それは患部な。幹部ってのは、その……偉い人ってことだ」


「偉いひと! つまり、立派な人間ということです。立派な人間ということは、お師匠さまの課題でもある立派な冒険者に近づくということ……!」


「なあ、もし幹部になってくれるんなら、俺を部下にしてくれないか? そしてもっと高みを目指すんだ!」


「幹部よりもっと偉い人もいるんですか?」


「ああ、総帥がいる」


「総帥……なります! わたし、総帥に!」




 ◇◇◇




「その後、サーヤ様は次々と幹部たちを倒し、前総帥は『こいつヤバすぎる』と白旗をあげ、ついにダークネスのトップにまで上り詰めたのです! 私は部下として、その様を近くで見届けてきました」


 壮大なサクセスストーリーを聞き終えたフェンリルの頭に浮かんだのは――一つの疑問だった。


「それは、二週間の間の出来事なのか?」


「はい、そうです」


「ならば最初に部下にしてくれと言ったいかにも小物っぽい男は……まさか……」


「はい、私です」


「二週間で口調とか変わり過ぎだろう!」


「そうかもしれませんね。なぜだかわかりますか?」


 不敵に笑む男。

 フェンリルはごくりと生唾を飲むと、神妙な表情で答えた。


「邪神のオーラを間近で受けたから……か? まさか、サーヤが総帥になったのも、邪悪な力に充てられたのでは!?」


「いいえ、かっこいいからです」


「我を舐めてるのかお前!?」


「大事ですよ、かっこいいの」


「それはよくわかるが!」


 かっこいいのに憧れるのは男の子なので仕方がない。


「いや……だが、仮にサーヤが総帥になっていたとしても、ダークネスという組織が変わっていなければ問題はないはずだ。いや、むしろあの少女が邪悪に染まっている今ならば、手を組むことすら可能なのではないか!? おいサーヤ、お前たちは今も、邪神を信仰しているのか?」


「はい、みんなじゃしんさんのこと大好きですよ。ほら、みなさんの腰のあたりを見てください!」


「腰……? 何だあの、兎のような、だがそれにしては若干グロテスクな、ファンシーとサイケデリックを混ぜたような人形は」


「じゃしんさんキーホルダーです」


「グッズ化してるのか!?」


「わふん、とってもかわいいです……フェンリル様、あれもらえませんかね?」


「帝都のお土産屋で絶賛販売中です」


「わふわふっ、お値段は!?」


「銅貨5枚です」


 だいたい500円ぐらいである。


「うわあ、良心的ですね、フェンリル様」


「秘密結社の秘密感はどこに行った!? あと破滅をもたらす邪神のくせに良心的価格で売るんじゃない! もっとぼったくれ!」


「ふふふ……これが価格破壊というやつです」


「うまいことを言ったつもりかーっ!」


 吠えるフェンリル。

 だが構成員たちは、サーヤの言葉に「おぉ……」とざわめき、拍手すら聞こえてくる。

 あとフェンリルの仲間も一緒にうなずきながらうなっていた。


(いや、しかしこれも、帝都に暮らす若者たちに支持者を増やす作戦だとしたら……安価で人形をばらまくことにより、認知度は増していく。そして今の疲弊した帝国にはそれを取り締まる余裕すらないのだとしたら……!? そうだ、まだわからん。わからんぞ。もしかしたらこのサーヤという少女、恐ろしく狡猾で卑劣な存在なのかもしれん!)


 だが、フェンリルはまだ諦めない。


「貴様らの邪悪な行いはまだあるはずだ。言え! その全てを我に聞かせろ!」


「それなら――私がお話しましょう」


 構成員の集まりの中で、一人の中年男性が手を上げた。

 彼はいかにも悪徳商人が浮かべそうな金に汚い笑顔を顔に貼り付け、フェンリルの前に立つ。


(いい顔つきだ。これまで数千人から金は騙し取ってきたし、数万人の人間を売買してきた――そんな顔をしている)


 男の放つ雰囲気を見て、フェンリルの期待は膨らむ。

 そして彼は口を開いた。


「くっくっくっ……私はこの帝都で商人をしていましてね。昨今の魔物による侵略のおかげで、それはもう大儲けしたんでございます。それこそ、どんな悪事でも働けるぐらいにねぇ。そして私はその金を……」


「その金を?」


「くっくっくっ……」


「その金をどうしたんだ、早く言えっ!」


「くひゃひゃ――孤児院に寄付してやったんですよぉ! いいや、孤児院だけじゃない! 帝都の貧しい子供たちにばらまいてやったのさぁ! くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! そしたら、あんなに泣いていた子供たちの目から涙が消えたんです! そう、私は涙を破滅させた! 子供たちの悲しい顔を破滅させたんですよおおぉぉおお!」


(な、何だこれは……)


「それなら次は俺だぁ。見てくれよ、この袋を。中身が見えねえって? そりゃそうだ、見せられるもんじゃねえからなぁ! この中身は……なんと……帝都に散らばっていたゴミどもだあぁぁぁぁっ! ゲハハハハハッ! 俺は今日だけで帝都のゴミを100個も破滅に導いてやったぜぇぇええっ!」


(何なのだこれは……)


「待てよ、たった100個だと? オレたちのチームは、全部で500個も破滅させてやったぜ! これには邪神様もにっこりだよなあぁぁぁ!?」


(一体、邪悪な結社に何が起きているのだあぁぁぁああっ!)


 心の中で叫ぶフェンリル。


 このダークネスという秘密結社、確かに非常に悪どい集まりであった。

 白金剛の剣を作ってくれたオーレと、その娘であるパーナス、二人を襲った機械の怪物を作り、譲渡したのも元々彼らである。

 しかしこの組織には、決定的な欠点があった。

 それは、あまりに『実力主義』すぎたところだ。


 かつて総帥として君臨していた男は、かなりの強者であった。

 それこそSランクの冒険者ですら敵わないほどの。

 だが――相手が悪かった。

 どんなに強かろうとも、規格外なサーヤに勝てるわけなどないのである。


 そして圧倒的な強さを誇るサーヤに、構成員たちは憧れ、盲目的に従った。

 結果として、組織は急激に形を変え、今やただの慈善団体になりつつあった。

 そのおかげか、最近の帝都の治安は、キャニスターが思わず目を疑うほど良くなっているんだとか。


「わふわふっ、さすがフェンリル様が目をつけた組織だな」


「わふんっ、彼らの志には胸を打たれるばかりですな」


「わふっ、フェンリル様、私たちもあの人たちと一緒にゴミ拾いを――」


「するわけがあるかあぁぁぁぁあああああっ!」


「フェンリル様!?」


「何だそれは……何なのだそれはっ!」


「ど、どうしたんですかフェンリルさんっ」


「どうしたもこうしたもあるか! サーヤ、我らは貴様を倒し、そして人類を滅ぼすためにダークネスと手を組もうとしていたのだぞ!」


 フェンリルの仲間が「わふ、そうだったのか!?」などと驚いているが、話がとっちらかるので今はスルーする。


「それが何だ、寄付だのゴミ拾いだの人助けなどと! どこが破滅だ! 完全にただのいい人の集まりではないか!」


「……それでよくないです?」


「よくないです! 全然よくないです! くそっ、かくなる上は……このような役立たず組織、我がこの手で破滅させてやろう! 喰らえ、アイスブレス!」


 銀狼の最大の特徴は、詠唱もなしに放つことができる、この“氷の吐息”であった。

 口から吐き出される冷気は、触れたもの全てを凍りつかせる。

 銀狼最強であるフェンリルほどの力があれば、ここにいる全員を、一瞬で凍死させることすら可能であった。


 ヒュオォォオオオオオッ!


 広間に拡散しようとしたその冷気を、


 フォンッ!


 サーヤは腕の一振りで消し去る。


「さすがに今のはあぶないですよ、フェンリルさん」


 特に苦戦した様子もなく。

 フェンリルの必殺の一撃を、軽くいなしたサーヤ。

 わかっていたが――彼は改めて知った。


(あ、やっぱ絶対に勝てないわ――)


 そしてすぐさま方針転換。


「お、お前たち、撤退だぁ! 我に続けぇー!」


 サーヤに背中を向けて、一番近くにあった出口に飛び込み、大急ぎで駆け抜けていく。


「わふわふっ、フェンリル様、何で撤退したんだ?」


「わふん、あのまま手を組んでも良かったと思われますが」


「できるか! 確かに群れとしては安泰かもしれんが、魔王様を裏切れば魔王城に残った連中が危ないだろう!」


「なるほど、確かに……」


「わふぅん……フェンリル様」


「どうした、そんな悲しそうな顔をして」


「じゃしんさん人形……欲しかったです」


「そ、それは……我慢しろっ! 帰ったら我が似たようなの作ってやるから!」


「フェンリル様、裁縫なんてできたのかよ」


「できんが頑張る!」


 やけくそ気味にフェンリルは言った。

 直後、彼らは秘密の通路を抜け、出口を突き破り――帝都のど真ん中に出る。


「あれ、フェンリルじゃん」


「ガハハハハッ! 久しぶりだな、元気にしていたか?」


 そこで、帝都に戻っていたティタニアやイフリートたちと鉢合わせた。

 彼女たちは手に、最近できた店のクレープを持って食べ歩きをしている。


「ティタニア、イフリートっ!?」


「オレたちもいるゾ!」


「わかっている! ドラゴンもいるし、しかも人間まで一緒に……裏切った上に、人間たちに馴染みすぎだろう、貴様らは!」


「どーせなら楽しんだ方がいいに決まってんじゃん。で、あんた何やってんの? 魔王様の命令?」


「そ、そんなものだ」


「ふーん……そういやさ、どっかでサーヤ見かけなかった?」


「あんなハチャメチャな少女のことなど知るかあぁぁぁぁぁっ!」


「何でいきなり怒ってんの……?」


「そんなもの我が聞きたいわっ! 行くぞお前たちっ!」


 ティタニアの疑問に答えること無く、フェンリルたちは走り去っていく。

 だがある程度離れたところで――フェンリルだけが立ち止まり、しばしその場で止まると、くるりと向きを変えてティタニアの前まで戻ってきた。

 そして、恥ずかしそうに口を開く。


「そ、その……ティタニア」


「今度は何なワケ?」


「腰につけてる人形だが……」


「ああ、じゃしんさん人形。帝都で流行ってるんだよねー」


「1個、分けてもらえんか」


「こういうの好きなの?」


「そういうわけではない! ただ、ちょっと必要なだけだ!」


「んー、ウチのは渡せないかな。これ、サーヤから貰ったもんだし」


 恋する乙女の表情で、腰にぶら下げたじゃしんさん人形を撫でるティタニア。

 見かねたレトリーがフェンリルに近づき、人形を差し出す。


「なら私のをどうぞ」


「いいのか、人間」


「まだ布教用に未開封のものも残っているので」


「助かる。本来、礼など言うべきでは無いかもしれんが……ありがとう」


「どういたしまして」


「だがっ、貰ったからと言って手加減はしないぞ。我は必ず、四天王の最後の一人として、人類を滅ぼしてみせるからな! それでは、さらばだっ!」


 再び走り去っていくフェンリル。

 待っていた雌の銀狼は、彼からじゃしんさん人形を受け取ると、嬉しそうにはしゃいでいた。


「前から思ってたんだケドさ。あいつって、四天王に一番向いてないよね」


「うむ、オレ様も同感だな」


 ティタニアとイフリートは、その姿を見ながらしみじみと呟くのだった。




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