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031 書いてる時に「これ面白いのかな」ってなりがちないわゆる説明回

 



「賢者、マーリン……」


 イフリートが言ったその名を、サーヤが繰り返す。

 彼女ですら知らなかった、師匠の正体。

 真実が明かされ、部屋に重苦しい空気が流れる……。


「そんな、サーヤちゃんの師匠が賢者マーリンだったなんて……」


「わたしも驚きました。まさかお師匠さまが賢者マリーンだったとは……」


「そうね、賢者マリーン……」


「……」


「……」


「……イフリートさん」


「どうした、女装娘よ」


「賢者マリーンって、誰です?」


 ガクッ、と崩れ落ちるイフリート、ノーヴァ、そしてレトリー。

 一方でセレナはサーヤに同意して頷いている。


「マーリンだゾ!」


「もしかして、魔女マーリンのことですか? 300年前に神器を持ち去った?」


「そうとも呼ぶな」


「300年前かぁ……ずいぶんと昔の話ね」


「セレナお嬢、知らないんですか? 学校で習いませんでした?」


「れ、歴史は苦手だったのよ……」


「勉強全般の間違いですよね」


「うぐっ」


 対して体育と音楽の成績はよかったらしい。

 例のごとく美術は壊滅的だったが。


「マーリンが300年前にこの大陸から“神器”ってすげー武具を持ち出しテ、神器戦争っつうヤベー戦いが終わったんダ!」


「あれっ、でも300年前で……お師匠さまがマーリンで……ええぇっ、お師匠さまって、そんなに年上だったんですか!?」


「賢者と呼ばれるぐらいだ、時間を止めるぐらい造作もないことだったのだろう」


「あ、そういえばこの前の神鎧との戦いのときも、そんなこと言ってましたね!」


「会ってたノカ?」


「わたしが意識を失ったら、いつの間にかお師匠さまの部屋にいたんです。戦いの途中でしたが、この部屋にいる間は時間が止まってるから大丈夫、みたいなことを言ってました」


「なんだソリャ。見てた限りダト、お前はずっと神鎧と戦ってたゼ? ワープもしてなかったはずダ」


「時間を止めた間に転移していたのか、あるいは意識だけがその空間に飛んでいたのか……」


「そういえばサーヤちゃん、以前、自分の故郷が見つからなかったって話してなかった?」


「はい、故郷を出て、戻って探してみても、山ごと見つかりませんでした」


「でもその一瞬で師匠に会えたってことは……」


「移動式故郷ですか、便利ですね」


 レトリーの答えがセレナの考えていたことなのだが、いざ言葉にしてみると首を傾げてしまう。

 仮に賢者マーリンだったとしても、そんな巨大な土地を動かすようなことが可能なのだろうか。


「神器も使わずニ、一人で魔王様を追い詰めたらしいからナ! イフリートほどじゃないガ、かなりのやり手だと思うゾ!」


「ガハハハハ! さすがにそれは言いすぎだぞノーヴァ」


「何を言ってるんだイフリート、オレの中じゃいつだってお前がナンバーワンだゼ!」


「照れるな」


「おウ、照れろ照れロ! ギャハハハハハッ!」


「ガハハハハハッ!」


「イフノヴァきてる……捗る……」


「来てないし捗るな! しっかしわかんないわねぇ。ノーヴァさんの話が本当なら、マーリンはまず魔王と戦って、そのあと神器を奪って姿をくらましたってことよね。それで、神器戦争とやらは終わった、と……それって、マーリンに何のメリットがあるの?」


「人智を超えたオーパーツ、誰が持っても一騎当千の力を発揮する伝説の武具。それを使った人間同士の大規模戦争――それが神器戦争と呼ばれています。その分だけ被害も大きかったらしいですから、人類の未来を憂いて行動したのかもしれませんね」


「レトリーさんって物知りなんですね」


「いえいえ、ちょっとばかしお嬢より頭がいいだけです」


「謙遜するのに私をダシに使うなー!」


 しかし、神器戦争については割と低学年で習う常識である。

 通っていないサーヤは仕方ないにしても、セレナが覚えていないのは問題アリだ。


「オレ様たちモンスターは神器の力に屠られ、嬲られ――今の人間とは全く真逆の立場であった」


 当時を思い出し、イフリートは腕を組みながら語る。


「大陸のほとんどを人間が支配し、力を失ったモンスターたちは怯え……現在における我らの憎悪の源は、その当時に形成されたものと言ってもよいだろう」


「やっぱり……憎んでるんですね」


「個に恨みは無い。だが人類という群に対して、好意的感情を抱くのは難しい。人とてそうだろう。こうしてオレ様やノーヴァ、ティタニアと親しく話せたとしても、なおもモンスターは人類にとっての敵だ」


「魔王が生み出した雑魚モンスターが無差別に人間を襲ってる以上、その認識は変わらないわよ」


「そう、だからお互い様なわけだ。これは人とモンスターの戦争だ。善と悪のぶつかり合いなどではなく、勝者と敗者を区分するための。もっとも、勝者が決まったところで、新たな争いの火種が生まれるだけかもしれんがな」


「どういうこと?」


「魔王様はオレ様やティタニアをいとも容易く切り捨てた。神鎧の存在も気になる。果たして魔王様の真の目的が、モンスターの隆盛なのか。それとも、また別の目的のために人類を滅ぼそうとしているのか……」


 何時になくシリアスな表情で、セレナとイフリートは話している。

 場に流れる重苦しい空気。

 なおも眉間に皺をよせるイフリートに、ノーヴァがおずおずと声をかけた。


「……なア、イフリート」


「なんだ、ノーヴァ」


「あんまり話が難しすぎたノカ、女装っ娘が目を回してるゾ?」


「お師匠さまが……魔王で……魔王が……えっと……あれ……?」


「ガハハハハ! これは失敬した、どうやらオレ様の知性が溢れすぎたようだな!」


「知能派は魔王軍を辞めても健在ってことダナ!」


「うー、ですが帝国や魔王軍、モンスターさんたちの話は知っておいた方がいいと思うんです……」


「でしたら勉強熱心なサーヤさんのために、まずは私がここ300年ほどの歴史について簡単に解説しましょう」


「神器のこと以外についてはあまり知らないので、おねがいします」


 ぺこりとレトリーに頭を下げるサーヤ。

 レトリーも「お願いされます」と頭を下げた。


「レトリー、余計なスパイスは入れないようにね」


「ご心配なく、あとで一人になったあとで妄想しますから」


「それもそれで心配だわ……」


「まず、300年前にマーリンさんが各国家の宝物庫に侵入、神器を持ち逃げ、人間同士の戦争はひとまず終わりました」


「人間の戦争が終わったのは……ひとまず、なんですか?」


「神器が無くなっても、人間たちは争いを再開したからナ!」


「そうです、通常兵器による戦争は続行しました。その後も、250年に渡り大陸の覇権を巡り、帝国やら共和国やら王国やらが戦っていたわけですが……」


「そんなに戦ったら、ボロボロになっちゃいそうですね」


「その通りだ。今から50年前、人間たちが疲弊したところで、力を蓄えてきた魔王軍が侵略を開始した」


「人類は劣勢を強いられ、どんどん領地を失っていきました。ここまで来て、ようやく人類は結託して、モンスターに対抗することを思いつくわけです。周辺諸国は、最も栄えており、武力も高かった帝国への併合を望みました」


「だから、この大陸には帝国しかないんですね」


「そういうことです」


「そこまでやっても、人間はモンスターに勝てなかった、と……」


「お嬢の言う通り。勇者伝説なんて、眉唾ものと言われていた伝承にまで頼る始末ですからね」


「そのタイミングでエクスカリバーを抜いてしまうフレイグという男も、なかなかの役者だな。オレ様には敵わんがな」


「イフリートは役者としてもナンバーワンだからナ! それニ、エクスカリバーはぶっ壊れたって聞いたゾ? マーリンが一番有名な神器を置いていくとは思えないカラ、偽物だったんじゃないカ?」


「実は勇者フレイグがエクスカリバーを抜いたのは、ただの力づくだったって噂もあるぐらいですからね」


「それもそれですごくない……?」


 四天王を撃破したのがフレイグではなくサーヤと判明して以降、勇者にまつわるそんな噂が帝都に流れつつあった。


「そんなわけありません! フレイグさんは立派な勇者です、わたしなんかよりずっと強いですよ?」


「汚れた大人である私にはサーヤさんが眩しく見えます……」


「そのまま浄化されて綺麗なレトリーになればいいのに」


「お嬢、綺麗なレトリーなんて存在しませんよ? 私から汚れを取り除いたら消滅するだけです!」


「それ、胸を張りながら言う……?」


 なおも帝都には、サーヤのように熱心な勇者ファンも多い。

 そういった人間は今でも、よく知らない少女であるサーヤの活躍よりも、フレイグが四天王を倒した説を信用していた。

 おかげでどうにか勇者としての面子は保てているようだが、真実とは異なる以上、それも時間の問題である。


「そういヤ、まだ大事なことを言ってないよナ!」


「大事なこととは何だ、ノーヴァ」


「魔王サマにまつわる、300年前の話ダ!」


「魔王様……300年前……ああ、入れ替わった(・・・・・・)という話か」


「入れ替わった、ですか?」


「魔王サマはいっつもローブで姿を隠してるカラ、オレたちでも本当の姿は知らないんダ」


「だが、300年よりさらに前の魔王様は、実はあまり人間と戦争するのに乗り気ではなくてな。それが300年前を境に変わってしまった」


「だかラ、オレたちモンスターの間ジャ、実は先代の魔王サマはマーリンに負けテ、別の魔王サマに入れ替わったんじゃないかって言われてるんダ!」


「それは興味深い話ですね」


「じゃあ魔王を倒して神器はもう用無しだと判断したから、マーリンは神器を各国から奪って、姿を消したのかしら……」


「それハわかんねーけどナ!」


「そうなるとやっぱり、マーリンさんがサーヤさんを帝都に派遣したのは、人類が魔王軍に追い詰められている現状を憂いたから、ってことになるかと思うんですが。『倒したはずの魔王が復活しただなんて、これはうかうかしてられないわー』と言う感じで」


 再びサーヤの目がぐるぐる回っている。

 それでもどうにか話についていこうと、頭をフル回転させている。


「えっと、たぶん、それはちがうと思うんです。お師匠さまは、冒険者としてがんばれって言っていましたし、困った人をたすけるとか、いろんな人と知り合うとか、そういう目的だったと思うので」


「見聞を広める……修行としては王道だな」


「結果として魔王軍の戦力は落ちたガ、女装っ娘は別にオレたちを殺そうとしたわけじゃないからナ。まア、死にかけたけどナ!」


「その節はもうしわけないです……」


「ガハハハハハ! 気にするな、さっきも言った通りだ。オレ様たちは人類に害をなそうとし、阻止され、敗者となった。それだけのこと」


「そういってもらえると助かりますです……あの、それでなんですが、お師匠さまはどちらかと言うと、モンスターさんたちのことが好きなんじゃないかと思うんです」


「ほう、オレ様たちのことが」


「イフリートは魅力的なナイスガイだからナ!」


「よせ、また照れる」


「そういうことじゃないと思うわ……」


「イフノヴァきて……」


「来てないから!」


「そういうところも含めて、人とモンスターにそんなに違いはないって言ってました」


「なラ、女装っ娘は誰と戦うためにここに来たんダ?」


「……神鎧(しんがい)か」


 イフリートが低い声で言うと、サーヤは頷いた。


「はい、そうだと思います。お師匠さまは、あれをとても嫌っている様子でしたから」


「あのドデカい動く鎧カ……魔王サマも知ってるようだシ、賢者マーリンも知ってるとなるト、300年前からいたんだろうな」


「それどころか、白金剛が火山に埋まっていたということは、はるか太古から存在したのかもしれん」


「そんなもノ、大昔の人間やモンスターが作れるとは思えねえよナ……」


「超常的な文明の存在を感じさせますね。場合によってはロマンかもしれませんが、脅威として実在しているとなると、ちょっとしたホラーです」


「色んな国が一つになってモンスターに対抗しようとしたみたいに、人とモンスターも協力しないといけないのかもね……」


「うむ、今回はどうにか勝利したが、次も同じように戦えるとは限らん。何より、女装娘の負担が大きすぎるからな」


「でモ、当の魔王サマが神鎧を使う側だからナー」


 ノーヴァはイフリートの肩にとまると、目を伏せて考え込む。

 するとレトリーが、ぽんっと手を叩いた。


「そうだ、マーリンさんに関する資料が帝国図書館にあったはずです。手がかりになるかはわかりませんが、みんなで行ってみませんか?」


「お師匠さまの資料……きになります!」


「人間の文明を記した書物の数々か、オレ様も興味があるな」


「図書館なんて行ったことないわねぇ」


「そんなポンコツお嬢のためにも、レッツお勉強タイムでーす!」


「あんたさっきから好き放題言うわね……!」


 セレナは微妙に涙目であった。

 かくして、一行は帝都にある図書館へと向かうのだった。




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