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019 「そういえば取扱注意って言い忘れてました。でも勇者さんなら大丈夫ですよね!」

 



 混沌とした朝をどうにか乗り越え、サーヤは唇をぺたぺたと触りながら、宿を出た。

 白金剛の剣をオーレから受け取り、フレイグに渡すためである。


 昨夜は色々あったので、剣の完成を、オーレの妻に報告することはできなかった。

 今日の朝のうちにそれを済ませ、サーヤに引き渡す手はずになっていたのだ。


 そんな彼女を、複雑な表情で送り出すセレナ。

 今日のセレナはお休みの日らしく、実家でのんびりと休むつもりのようだが――


「そんなに心配ならついていけばいいだろ」


 メイド服姿のファフニールはセレナを背後から抱きしめ、胸を持ち上げるように手を当てていた。

 ただし、一応揉んではいない。


「その通り」


 一方でニーズヘッグは床に膝をつき、セレナの太ももを枕代わりにするように顔を埋めている。


「さすがにそれは過保護だから……ってあんたらなんで私に絡みついてくるのよ!」


「暇だから」


「ご主人様がいたらご主人様でいいんだが、今はいないからな。あと唇の感触で信用できる相手だと思った」


「素直に喜べない評価基準はやめなさいよ……! てかあんたら、サーヤちゃんの弟子になったんじゃなかったの?」


「弟子は弟子だが。ぶっちゃけ弟子って言っても何すればいいかわかんないからな」


「私はご主人様と一緒にいられればそれでいい」


「だったらついていけばいいのに」


「勇者の所に行くのに、私がついていったら話がこじれる」


「……そこは冷静なのね」


 思ったよりも正論だったので、それ以上セレナは反論できずに、結局二人に身を委ねるしかなかった。

 そんな密着した三人の姿を、角から見守る怪しげな影――


「ふおぉおおおおお! セレナお嬢様、まさかおねロリだけでなくそちらにも! ドラゴンまでも手篭めにしてしまうのですか! さすおじょです! さすおじょぉおおっ!」


 目は血走り、鼻息は荒く、口元は正気を失ったように笑う、レトリーであった。

 彼女はセレナたちの姿を見ながら、スケッチブックに、サーヤの動きすらも超える速度で絡み合う三人の姿を描いていく。


「おひょぉおおお! 来てます、これは来てますっ、来ていてヤバいやつです! やはりここで働き初めて正解でしたっ! まるで噴火する火山のごとく、アイデアが! 妄想が湧いてきますよぉおおお!」


 もちろんそれだけ騒がしければ、身を隠していようと気づかれるわけで――


「なんかうるさい」


「あいつ、なんなんだ?」


「……うちに住んでるモンスターみたいなもんよ」


 セレナたちは呆れた表情で、のけぞり、手元すらも見ずに手を動かすレトリーを見ていた。




 ◇◇◇




「う……うぅん……あぁ、体が金縛りのように重いわ……」


 目を覚ましたマギカは、疲れ果てた様子でそうつぶやいた。

 そして自分の右側を見る。


「……そりゃ重いわね」


 裸のファーニュが、腕に絡みつくようにして寝ていた。

 とはいえ、布団で覆われているので体は見えないが、しかしその大きな胸の感触がダイレクトに感じられる。


「幸せそうな寝顔……ったく、そんなに私のことが好きなの?」


「しゅき……れひゅぅ……」


「う……ったく、ほんと……あんたってやつは……」


 左手で顔を覆い、大きくため息をつくマギカ。

 ファーニュは起きている様子もなく、どうやら本当に寝言で反応しただけのようだ。

 それがわかるがゆえに、マギカは思わずときめいてしまった。

 心臓がきゅっと締め付けられて、無性にファーニュがかわいくみえる。


「違うんだから、私はそっちの趣味じゃないんだから、こんな爛れた関係間違ってるんだからぁ……!」


「うにゅ……? あ、マギカさぁん、おはようございますぅ……♪」


「おはよ……」


「へへ……えへへぇ……」


「なによ」


「朝起きてぇ、好きな人がすぐそこにいてぇ、幸せだなぁと思ったんですぅ……んへへ」


「あんたは本当に……もーっ!」


 ファーニュは淫魔だ。

 だから、これも自分を落とすための演出に違いない――そう自分に言い聞かせるマギカ。

 だが二人は、そこそこの期間を旅の仲間として過ごしてきた。

 ゆえにある程度はわかってしまうのだ。

 ファーニュが、別に演技や命令でマギカに寄り添っているわけではないことを。




 ◇◇◇




 服を着たマギカは部屋を出て、宿の食堂へと向かった。


「遅かったな」


「おはよう、二人とも」


 フレイグとシーファはすでに朝食を終え、コーヒーを飲んでくつろいでいる。

 時計を見れば、いつもの時間を二時間ほど過ぎている。


(ファーニュがあまりに底なしだから……)


 なまじ冒険者なせいで、マギカもそれに付き合えてしまう。

 結果、こんな時間に起きなければならないほど、夜更かししてしまったのだ。


 隣り合わせで席につくマギカとファーニュ。

 ファーニュはテーブルの下でマギカと指を絡ませた。


「んふふ……」


 そしてちらりとマギカのほうを見て、頬を桃色に染めて微笑む。

 あまりのかわいさに、マギカはとっさに目をそむけることしかできなかった。


「あれ……フレイグさん、それどうしたんですかぁ?」


 ふとフレイグのほうをみたファーニュは、彼が腰に新しい剣を下げているのを見つけた。


「ああ、これか。壊れたエクスカリバーの代わりとして、天より与えられし新たなる力――見るがいい、これこそがエクスカリバー・ツヴァイだ!」


 フレイグは立ち上がり、椅子に足を乗せて、鞘から抜いた白金剛の剣を高々と掲げる。


「エクスカリバー・ネクストジェネレーションじゃなかったの……ってあんたそれ、神器の素材にも使われてたっていう白金剛じゃない! 誰からもらったのよ!」


「勇者の使命に燃える俺の心の叫び――ブレイブ・ハート・スクリーミングが天にまで響き、神の心――ゴッズ・エレメントを揺るがした。そして本来ならば人の世には干渉しない神がその禁――いわゆるタブーを破って、俺に力を与えてくれたんだ。そう、これこそが真なる神器! ゆえにただのエクスカリバーではない、すなわちこれぞ――ツヴァァァァァイッ!」


「サーヤちゃんって女の子が探してきてくれたんだ」


「翻訳ありがとうシーファ」


「すごいねぇ、そんな剣を見つけてくるなんて」


「サーヤか……その子、何者なの?」


「ボクたちもよくわかんないんだけど、10歳ぐらいの女の子でね、最近田舎から出てきた冒険者なんだって」


「違うぞシーファ、あいつは男だ。女装しているんだ!」


「……女装? また新たな変態が現れたの? 変態はファーニュとフレイグだけで十分よ!」


「私のは変態じゃなくて愛ですよぉ。むしろ感度の高いマギカさんのほうがよっぽどへんた――むぐっ」


「黙らっシャラァップ!」


「仲いいなお前ら。付き合ってるのか?」


「フレイグにそういうこと言われると無性にムカつくのはなんでかしらねー!?」


 自分のこと以外には無駄に鋭い男、それがフレイグであった。

 マギカの言葉に同意するように、シーファは遠い目で窓の外を見ている。


「実はエクスカリバーが壊れたときも、サーヤちゃんが殴ったのがきっかけだったんだよね」


「まあ、あれは俺の強すぎる力によりエクスカリバーが限界を迎えていたからだがな。だがこのエクスカリバー・デッドエンドは違う」


「ツヴァイどこいった?」


「つまり俺が本気を出しても壊れる心配は無い!」


「私の話を聞けよぉ!」


「そう、こんな風にな!」


 フレイグはマギカをガン無視して、窓側に向かって剣を軽く振った。

 もちろん刃が誰にも当たらないように配慮して。


「ちょっと、危ないから室内でそんなもの振り回さな――」


 ヒュゴッ――ズガァアァァァアアッ!


 光に包まれる室内。

 剣の先端から放たれたエネルギー波は宿の壁を貫き、外へ出ると、まるで人々を避けるように天に向かって伸びていった。

 光線が雲に触れ、霧散させる。

 さらにその向こうに薄っすらと見える衛星にまで命中。

 ドオォオンッ――と全世界に重低音を響かせて、地表からでも見えるほどのクレーターを刻み込んだ。


「あ、あわわわわわわ……」


 まるで女の子のように口元に手を当て、あわあわするシーファ。


「……」


 白目をむいて気絶するマギカ。


「大丈夫ですかぁ、マギカさぁん」


 今がチャンスと言わんばかりにマギカの背後から抱きつき、胸を揉むファーニュ。


「……やべえ」


 さすがに素に戻り、顔面蒼白になるフレイグ。

 気まずい沈黙が流れる中、壊れた壁の破片がパラリと床に落ちた。




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