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014 幼女が全裸の女性二人をペットとして連れ回す事案

 



「グワアァァァアアアアアッ!」


「イフリートー!」


 ノーヴァの叫び声が火山に響く。

 イフリートは突如頭上から降り注いだ光線の直撃を受けていた。

 攻撃が止まると、彼は体からプスプスと煙をあげながら膝をつく。


「ぐ……オレ様としたことが、まさか奇襲を受けるとはな」


「大丈夫か、イフリ――グワアァァアアアッ!」


「ノーヴァー!」


 今度はイフリートに近付こうとしたノーヴァが直撃を受ける。

 力なく地面に落ちるノーヴァ。

 イフリートはすぐさま彼に駆け寄ろうとした。


「ノーヴァ、大丈夫かグワアーッ!」


「イフリート、大丈夫カグワーッ!」


「ヌワァーッ!」


「ウヒィーッ!」


 近付こうとする度に、天井を貫き降り注ぐ光線が二人を襲う。

 何を隠そう、それは上でファフニールと戦っているサーヤが放ったものであった。

 もちろん彼女は、下にイフリートたちがいることなど知らない。


「く……地下にいれば安全だと思ったが、それを逆手に取って奇襲を仕掛けてくるとは!」


「相手もかなりの頭脳派ダナ! でもイフリートのほうがスゲーゾ!」


「ああそうだな。頭脳には頭脳で対抗する。これだけの力を持っているということは、上にいるのは勇者か、その仲間であるはず。直接顔を合わせるのははじめてだが、格の違いというものを見せつけてやウワァァァアアアアアッ!」


 ひときわ大きな光線が降り注ぐ。

 ノーヴァは辛うじて巻き込まれずに済んだが、イフリートが――というより彼の足元の地面が、かなりの衝撃を受けていた。

 地割れが生じ、さらに大きな穴が空き、イフリートはそこに落ちていく。


「イフリート! ナンテコッタ、イフリートが落ちちまっタ! ここが火山の一番奥だって聞いてたノニ、なんで穴なんて空くんだヨォーッ! イフリートォーッ!」


 ノーヴァは落下する彼を必死に追いかけた。

 なんとなく、理不尽な暴力が彼ら二人を襲ったかのように見えるかもしれないが――火山を噴火させようとしていたのだから、自業自得ではある。




 ◇◇◇




「まさかこんなドラゴンが火山にいるとは。大きな図体の割には素早い相手でした」


 構えを解くサーヤの前には、ぐったりと倒れる大きなドラゴンの姿があった。

 このドラゴンこそが、イフリートたちが使役していたファフニールである。

 サーヤが言っていたように、巨体からは想像できないほど機敏に動き、正拳エクスカリバーを何度も回避するほどであった。


 とはいえ、それは回避に専念したからこそ。

 ファフニールはまったく攻撃に転ずることができずに、最終的にエクスカリバーの直撃を受けて敗北を期したのである。


「それでは白金剛の採取に向かいましょう! かっざんー♪ かっざんー♪ しっろこんごー♪」


 上機嫌に奥へと向かうサーヤ。

 するとそんな彼女の肩を、何かがちょんちょんと突く。


「……ん?」


 振り向くと、そこにはファフニールのしっぽがあった。


「ドラゴンさん、何かご用ですか?」


「グルゥ……」


 こくん、と頷くファフニール。

 どうやらサーヤの言葉がわかっているようだ。

 かと思うと、ファフニールの体が突然光を放ち、サーヤの視界を埋め尽くした。


「ひやあっ!?」


 急な発光に驚き、声をあげるサーヤ。

 光が消えると、そこには十代後半ほどの女性が立っていた。


 髪はオレンジのショートボブ、頭の左右には立派な角が二本生えている。

 顔は整っており美人だが、やんちゃそうな笑みのせいか、見た目よりも少し低めの年齢に感じられた。

 身長は高く、体型も、多くの女性が羨むであろう引き締まったスレンダーなボディ。

 しかし胸は暴力的に大きかった。

 全裸なので、余計にその大きさが際立っている。


(でもなぜだか、まったく色気をかんじません。いやらしいとか、そういう雰囲気すらまったくありません。お師匠さまとおなじです!)


 あまりに堂々としていると、全裸でも案外そんなもんである。


「というか、ドラゴンを倒したと思ったら露出狂があらわれたんですが!」


「ちげーよ! ファフニールだよ!」


「ふぁふ……?」


「あんたがさっき戦ってたドラゴンの名前さ。ったく、人間ってのは不便なもんだな。この姿にならないとまともに会話もできないんだから」


「さっきのドラゴンさんなんですか!? ドラゴンが人間に……いえ、元が人間で、ドラゴンに?」


「元がモンスターだよ。ある程度力を持ったモンスターは、人の姿に変わることができる。はっ、人間を憎んでるモンスターの完成形が人の姿ってんだから皮肉なもんだよなぁ」


 自嘲気味に笑うファフニール。

 だがサーヤは状況がいまいち飲み込めず、首をかしげるばかりだ。


「ま、愚痴はどうでもいいんだ。あんた、名前は?」


「サーヤです」


「サーヤか。じゃあサーヤ様……いや、ご主人様でいっか」


「ご主人様……なんだかえらくなった気がしますね!」


 えっへん、と胸を張るサーヤ。


「すぐに調子に乗るし、見た目もあんま強そうじゃないな。でも実際は、とんでもなく強かった。間違いなく、四天王よりも」


「そこまでですか……? 勇者さんなんてわたしよりもずっと強いはずですし、四天王さんなんてとても……」


「言っておくが、戦闘力だけならあたしも四天王には負けないぐらい強いかんな」


「そうだったんですか!? え、じゃあもしかしてわたしって、強いのでは!?」


「だから強いんだよ」


「はえぇ……そうだったんですねぇ。わたし、強かったんですか……」


「普通はもっと前に気づくだろうに……まあそういうわけで、あたしはあんたに付いていくことに決めた」


「付いていく? どこにですか?」


「ドラゴンってのは、孤高の存在だ。だが、自分より強い相手に敗北したとき、そいつに従うっていう掟があるんだ。相手が人間でもな」


 過去、勇者と呼ばれた人間が、ドラゴンを従わせていたという記録が残っている。

 それゆえにドラゴンという存在は、物語の中などでも他のモンスターより特別扱いされることが多い。


「つまり今日から、ファフニールさんはわたしの弟子ということに……?」


「弟子、か。まあそんなもんかもな」


「つまり、わたしが師匠に!?」


「そうなるな」


 サーヤはぺちん、と両手を自らの頬に当てた。

 彼女にとって師匠とは、友人であり、姉であり、親でもあった。

 全ての尊敬を一身に集める存在、それこそが師匠なのである。


「ど、どうしましょうっ、わたしが師匠だなんて! うれしいやら、うれしいやら、うれしいやらですが、恐れ多い気もします! いいんでしょうか? あのお師匠さま、いいんですかね、わたしが弟子なんてもらってしまって!」


『いいわよー』


 どこからともなく聞こえてくる女性の声。


「あ、オーケーもらいました!」


「誰に聞いたんだ!?」


 幻聴なのか、はたまたサーヤの脳にだけ響いた音なのか。

 どちらかは彼女自身にもよくわからなかったが、なんにせよ許可はもらえたので善しということにした。


「というわけでファフニールさん、これからよろしくおねがいします!」


「おう、よろしくな!」


 握手を交わす幼女と全裸の女。

 いやらしさは感じないと言いつつも、やはり気になってしまうサーヤ。

 特に目の前で圧倒的な存在感を放つソレ(・・)を見ずにはいられない。


「なんだ、これに興味があるのか? 触ってもいいぞ」


「い、いえ、そういうわけではっ! あの、ですがやっぱり、服は着たほうがいいと思います……そう都合よく湯気や不思議な光が守ってくれるとも限りませんし。なによりファフニールさんの髪、短いのでぜんぜん肝心なところがかくれてません!」


「湯気? 不思議な光? よくわかんねーけど、あたし服は苦手なんだよ。なぁんか窮屈でさあ」


「そういうわけにはいきませんー!」


 結局、町に戻るときはファフニールを外に待たせ、サーヤが先に服を調達することとなった。

 それまでは全裸で我慢である。

 幼女が全裸の女性を侍らせながら火山を練り歩くという、特殊性癖の極北のような光景を繰り広げながら、サーヤはひとまず素手で白金剛の採掘を行った。


 ファフニールがいた場所から下に降りた先に、白金剛はたくさん埋まっている。

 どれだけ硬くとも、加工のできない鉱石に価値はないということだろうか。

 白金剛の採掘地の真横には、大きな穴が空いていたが、サーヤは『エクスカリバーで空いてしまったんでしょう』とあまり深くは考えなかった。


 充分な量の白金剛を袋に詰めると、出口を目指し、来た道を引き返すサーヤ。

 再びファフニールと出会った場所まで戻ってくると、彼女はふいに足を止めた。

 前に進んだファフニールが遅れて足を止め、振り返る。

 あれがばるんと揺れる。


「どうしたんだ、ご主人様。急に止まったりして」


「実はわたし、ファフニールさんと戦う前に、一度ドラゴンと戦ったことがあるんです」


「ああ、そういやちょっと前にニーズヘッグのやつがやられたって聞いたな。もしかしてそのことか?」


「あの方、ニーズヘッグさんって言うんですね。ファフニールさんの言う通り、ドラゴンさんたちが負けた相手についてくるなら……」


「あー……ニーズヘッグもついてきてるかもな」


「じゃあ、もしかしてあの人が……」


「あの人?」


 サーヤは前方を指さした。

 すると壁から半分だけ顔を出す、黒髪の女性の姿がある。


「じー……」


 彼女は眠そうなジト目で、じっとサーヤとファフニールを見つめていた。


「マジだ、いるな。間違いない、あいつがニーズヘッグだ」


「ニーズヘッグさーん! こっちに来てくださーい!」


 サーヤが手招きすると、ニーズヘッグはしばし考えた後に、こちらに駆け寄ってきた。

 例のごとく、彼女も服を着ていなかった。


「うひえっ!?」


 思わず顔を隠すサーヤ。


「いい加減慣れろって」


「無理ですー!」


 顔を赤らめるサーヤだが、やはりファフニールと同じく、ニーズヘッグも恥じらわない。

 いや、むしろ彼女は恥じらいを理解した上で、惜しげもなく見せつけている。


「サーヤ、やっと話せた。嬉しい。わたし、あなたの熱を浴びた瞬間から、所有物になりたかった。ずっと、ついていく。好きにして欲しい」


「で、では、あの、弟子になるということで……」


「わかった。弟子。よろしく、ご主人様」


 “ご主人様”のニュアンスがファフニールとは微妙に違うのだが、サーヤにそれは伝わらない。

 こうしてニーズヘッグも仲間に加わり、サーヤは自分を『ご主人様』と呼ぶ全裸の美女二人を引き連れて、帝都へと戻っていくのであった。




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