大通りから脇道、路地裏へ
「こっちに来たの間違いだったかな」
歩きだして三十分ほど経過してから俺はすでにそんなことを思っていた。
迷宮へと続く主要道路らしき大通りは人でごった返しており、ときおり肩をぶつけ合ったもの同士で喧嘩している声が聞こえる。
少し脇道をみればボロ切れを着たような少年少女たちがぼうっとこちらを見ていたり、厳ついお兄さんお姉さんがこちらに睨みを利かせているので彼らと視線を合わさないようにしながら俺は周囲を観察していた。
何よりこっちに来て後悔だったのは……。
「むふう。むふふう」
鼻息荒く俺の後ろを歩く男がいることだ。
道の左の方に行っても右の方に行ってもこの男はどうやら付いてきているようでずっと俺の後ろを歩いてる。
ときおり脇道から怖いお兄さんがこっちを向いて歩いてきたと思ったら俺の後ろを見て直ぐに方向転換するくらい恐ろしいものが俺の後ろにはいるようで俺は後ろを見ることができない。
「むふふふ。ふひい」
余りに激しい鼻息で俺のうなじに息がかかっているのではないかと感じてしまうほど。
いや、これ、勘違いとかじゃなくてガチでかかってないか。
ちょっとすーってうなじがするんだが。
何やら大きな影が直ぐ真後ろに存在してないか。
変な熱気を背中に感じて……。
「いい尻肉じゃないか」
濁りが入った声がしたかと思うとお尻に手が当たった。
「逃げないってことはお前も望んでいるんだろう?」
全身に鳥肌が立つとともに凄まじいまでの嫌悪感と吐き気を俺は感じる。
棒立ちになりそうに震える足を無理矢理動かして俺は全力疾走で逃亡を開始した。
「待て!今夜のおかず!」
「ぎゃああああああああっ!」
「な、なんだ!大男がこっちに走ってくるぞ!」
声にならない悲鳴を上げながら俺は人をかき分けて全力で逃走する。
幸い後ろにいた男は俺よりはるかに巨体であったためか大通りを歩いている多くの人々に邪魔されて追いつくことは出来なかった。
初日で男に襲われるとは異世界って恐ろしい。
遠目からでも大男が見なえなくなってから俺は比較的大きな脇道へと逸れて身を隠した。
「回復魔法【キュア】」
俺はこの世界の一般的な回復魔法では無く、さっそく自分が改造したばかりの魔法を試す。
効果は怪我を治すのではく体力を回復する魔法だ。
肉体労働の激しそうな異世界ならば必要なこともあるかもしれないと思っていたけれどまさか初日に男に襲われて使うことになるとは思わなかった。