怪物退治の夢Ⅰ
※主人公視点
6時間目までの授業が終わり、掃除と帰りのホームルームが済めば生徒たちは手早く帰り支度をして教室を後にする。
そこから先は部活動へと足を運んだり、帰宅したり様々だ。
僕はというと特にどこの部活動にも所属していないのでそのまま帰宅となる。
これから部活だという剛造に「また明日」と別れを告げれば、「おう」とだけ返事が返ってきた。
教室を出て階段を一段ずつ下り、下駄箱で靴を履き替えて校門から学校の外へと出れば目に映った景色が登校してきた時とは逆向きに映ってようやく学校が終わったことを実感する。
(あぁ~・・・今日も一日が終わったようなものだな~)
軽く伸びをしながら僕は自宅へと続く道を歩いた。
30分前後の道のりを歩けば住宅街にひっそりと建つ2階建ての一軒家が見えてくる。
両親は共働きなので、予め持たされている鍵を使ってドアの鍵を開ければ、見慣れた我が家が学校から帰った僕を受け入れてくれた。
少し雑に背負っていた鞄を抛るように投げ捨て、僕は自室のベッドに横たわる。
僕以外に誰もいない空間は静か過ぎて僕が大きく動きでもしない限りは音らしい音は響かない。
体を捻って寝返りを打てばベッドから軋むような音がする程度だ。
しばらく身動きもせずじっとしていれば、うとうととして瞼が重くなるのを感じる。
窓の外からかすかに聞こえてくる下校中の小学生の楽しげな会話を子守唄のように聞きながら、僕は眠気に逆らうことなく重くなった瞼を静かに閉じた。
*
ビュービューと吹き荒れる風の音が聞こえてくる。
「・・・ターさん・・・きて・・・ださい!!・・・ピーターさん!!!」
「ん・・・なんだよ~・・・」
「こら!寝たら死にますよ!!!お・き・て・く・だ・さ・い!!!!」
「は!?!?」
「おはようございます。昨日ぶりですね、ピーターさん。」
「・・・なんだまたお前か。」
「またとはなんですか!!またとは!!」
また夢の中なのだろう、目の前には昨日夢の中で会ったばかりのティンクがいた。
ビュー、ビュー
「ってか、なにこれさっむ!!!」
「そりゃ、一面真っ白な雪と氷ですからね。さっきから言ってたでしょ?寝たら死ぬって。」
「いや、ここ夢の中だろうが・・・」
夢の中だというのに目が覚めるというのもおかしな話だが、目が覚めたら景色は真っ白だった。
ティンクによれば辺り一面が真っ白な雪と氷に覆われているということだが、僕は一体何の夢を見ているのやら。
夏でもないのに暑い日が続いているせいか無意識のうちに冷たいものでも求めたのだろうか。
「だからって夢の中でわざわざ寒さまで感じることはないだろうに・・・」
「アハハハハハ!!!めっちゃガタガタ震えてますね~」
「そういうお前も全身真っ青じゃねーか!!」
「いや、まさかこんな寒いところに来るなんて予想外すぎて・・・」
「そりゃあ、そんなバレリーナみたいな格好してたらな。ってか、それこそ昨日みたく想像力でなんとかなったりとかしないのかよ。」
「今回は想像力でなんとかなるような夢じゃないみたい。」
「まじかよ・・・ってか夢の中なんだか防寒着くらいなんとかなんないもんかねぇ・・・」
「とりあえず、かまくらでも作ろっか?」
「空を飛ぶ夢の次はかまくら作りかよ。かまくら作るなんて夢の中じゃなくてもよくね?」
僕は学校の制服姿のまま、ティンクはバレリーナのような薄着でとてもこの寒さを耐え切れるような装備ではない。
都合よく寒さを凌げそうな洞穴があるわけでもなかったので、僕らは文句を言いながらも少しでも寒さを防ぐために吹き荒れる雪の中、足元が滑る氷の上でかまくらを作り始めた。
「あ゛あ゛ぁ゛~ざむ゛い゛!!!」
「我慢しなされ!」
「これかまくら完成する前に僕らが氷付けになって終わるんじゃないか?」
悴む手で必死に雪をかき集めては固めを繰り返す。
ティンクの小さな手ではそれほど多くの雪は運べないので、ほとんど僕がやっていると言っても過言ではないだろうが。
「なんかこれ、かまくら作るよりも早く現実で目を覚ました方がいいような気がしてきた・・・」
「起きたいと思って起きられたら苦労しないでしょ。」
「夢の中で顔ボコボコに殴ったら現実で目覚めたりしないかな・・・?」
「そこまでして目覚めなかったらどうするんですか!?」
本当にやってみようかと悴んで思うように動かなくなってきた手を無理やり握り締めて顔の前へと持ってくる。
その時だった。
遠くから「おーい」と男性の声が聞こえてきたのは。
「おーい!!お前そんなところにいたのか!」
「だ、誰?」
「いいな~あったかそう!」
片手を振りながら現れたのは温かそうな防寒着に身を包み、頭は耳まで覆えるくらい大きなニットの帽子をかぶっていて、さらにその上に防寒着についていたモフモフのファー付きのフードを深くかぶった男性だった。
年は僕より一回り以上上で父親くらいの年齢だろうか。
「お前どこ行ってたんだよ!!これから任務だっていうのに。」
「任務?」
「寒さで頭でもいかれちまったか?
というか、そんな寒そうな格好じゃ任務どころじゃないな。一旦作戦室まで戻るぞ。」
「えっ!?ちょ、ちょっとぉー!!!」
半ば強引に連行された僕は彼の言う作戦室という名の隠れ基地へと連れて行かれた。
基地の一室には何もなく灰色の壁と床で覆われた部屋にポツンと正方形のテーブルと椅子が4つ置いてあるくらいだ。
だが、悪いことばかりではない。
吹き荒れる吹雪の中にいた僕にしてみたら室内というだけで寒さが緩和できたし、男性が持ってきたコートと温かいココアは身に沁みた。
ティンクサイズのコートやカップがあるのは夢ならではだろうか。
「少しは落ち着いたか?」
「・・・はい。ありがとうございました。」
「そうか。それじゃあ落ち着いたばかりで悪いんだが、これから任務に付き合ってもらうぞ。」
「ねーねー任務って何?」
「そんなことも忘れちまったのか!?任務ってのはな」
ビビー、ビビー
「な、なんだ!?」
「チッ・・・まだ説明の途中だってのに奴らもう来ちまったのかよ!」
基地内に設置された赤ランプが基地の中を赤く染め上げ、危険でも知らせるかのようにアラームが鳴り響く。
「や、奴らって?」
「行くぞ!任務だ!!」
「だから任務ってなーにぃー!!!」
飛び出した男性に続いて僕らもまた基地の外へと駆け出す。
「ピーターさんあれ見てください!!」
「えっ?・・・えええええええええええええええぇー!!!!」
ティンクが指差す方に視線を向ければ、真っ黒な霧に覆われた巨大な怪物の姿が。
怪物は高層ビルくらいの高さはあるだろうかという大きさで、ただの人である僕らではとても太刀打ちできるとは思えない。
真っ白な景色の中でこれでもかというくらいに目立つ黒い霧は不気味で関わらない方がいいとでも言うように足は自然と来た道を戻ろうと後ずさる。
「これ、踏み潰されたら確実に死ぬやつじゃん・・・」
「ゆ、夢の中だから平気ででですよ・・・」
「だ、だよねー。夢の中だし、逃げたって別に誰も困りはしないって・・・」
「「あははー・・・」」
僕とティンクは互いの顔を見合わせて逃げるという選択を下した。
だがしかし、任務だと意気込んでいた男性の選択肢は違った。
「出たな怪物めぇー!!!」
「えっ!?ちょっとオッサン!!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「オッサン無茶だ!死ぬって!!」
「くたばりやがれぇーーーーーー!!」
男性は真っ黒な霧に覆われ、中に果たして本体があるのかどうかもわからないような不気味な怪物に一人立ち向かっていく。
手にはどこから出したのか、怪物と比べればとても小さくてペラペラでちっぽけな剣を握り締めており、並外れたジャンプ力で怪物の頭上からその剣を振り下ろす。
グアアアアアアアアアアアア
「「嘘だろ!!!」」
するとどうだろう。
怪物は真っ二つに割れ、真っ黒な霧は液体よりも弾力ととろみがあるゼリー状になって真っ白な景色を一瞬にして黒に染め上げた。
大地も空も何もかもを真っ黒に。
「こちらC班。任務は完了した。」
スタッと難なく着地した男性は基地内にいるであろう仲間に任務完了の報告をしている。
その様を僕らは間抜けにも開いた口が塞がらないまま見ているだけだった。
「ん?どうしたそんな鳩が豆鉄砲でも食らったような顔して。」
「いや~おじさん見かけによらず人外だな~と思いまして。」
「ストレートすぎだろ!!」
「はっはっは。そんな他人事のように言っちゃってー。
これからはお前たちにも同じことをやってもらうことになるんだぞ?
おじさんもう年だし、お前ら若いんだから期待してるぞ!」
「嘘やろ・・・」
「今の訳すと『お前ら人間やめろ』ってこと・・・?」
僕らはもう一度顔を見合わせ、互いに青く染まった顔を見てから笑いをした。
だが、そんなくだらないやり取りをしていたから気付かなかったのだ。
奴らはまだ完全には消滅してはいなかった。
僅かに残ったゼリー状の物体はまだ活動を続けていて、奴らは近場にいたアザラシの体を乗っ取ることに密かに成功していた。
ピピピピ、ピピピピ
「はい、こちらC班。・・・なんだって!?わかった任務を続行する。」
「何かあったんですか?」
「どうやらまだ終わりじゃなかったようだぜ・・・奴らはまだこの近くで活動を続けている!!」
「「な、なんだってぇー!!」」