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Ideal’ Garden 〜ギルド職員は冒険者より多忙です〜  作者: RinRin
ギルド職員入門編 ―第1条―
8/55

第7項 『周囲全体に注意して走行してください』



 雲一つなく広く澄み渡った青い空。



「……」



 地平線の彼方まで続く広大な草原を風が揺らし、形作っては流れ消えゆく芸術的な波紋を作り出す。



「……」



 日差しを遮るものはなく、まどろむ太陽の丸く優しげな陽の光が、柔らかな暖かさと全てを包み込む心地よさを演出する。



「……」



 そんな極楽の昼下がり。


 広野を駆け行く馬車に乗った3人の旅人の顔は、熊のフンでも噛み潰したかのような鬼気迫る壮絶な表情で固められていた。



 『ハザードエリア』


 モンスターの遭遇率が異常に高い区域のため、馬車は全力疾走、同乗者も常に周囲に気を配りながら進まなければならない。


 3人の顔が険しいのは、周囲を警戒する緊張が最高潮に達しているためである。



「……よし、そろそろ抜けましたよ。2人ともお疲れ様でした」



 カーターさんが速度を少しずつ緩めながら労いの言葉を放つ。



「……ふぅ」



「はぁぁぁぁ、よかったぁ」



 その言葉を聞いた途端張り詰めていた緊張が解け、自然とため息が口から漏れ出た。



「しかし、こういうとき盗賊(シーフ)がいると助かりますね。『サーチャー』があるだけで安全性が段違いです」



 ハザードエリアを走行中、ウェイライは盗賊(シーフ)が得意とする索敵スキル『サーチャー』を使ってモンスターが接近していないか常に監視し続けていた。



「フヘヘへ。まあ、まだ練度が低いので適応範囲狭いですけど」



 たしかに、盗賊(シーフ)はなにかと便利なスキルが多い。


 索敵に逃走、隠伏などモンスターを避けられるスキルに富んでいる上、なんと言っても盗賊(シーフ)の真骨頂、窃盗スキル『セプト』シリーズが強い。


 

「なんならこれから採集は全部お前が行くか、ウェイライ」



「な…っ!さすがにそれは酷いよユーゴくん!」



 軽い冗談のつもりだったが結構大きな反応を返された。

 さきほどのハザードエリアはよほど精神にキたらしい。



「それに、あたしが行くなら教育係のユーゴくんも自動的に来ることになるけど?」



「たしかに」



 それもそうだ。やはりさっきのは無しで。



「それにしてもさぁ、こういう採集は冒険者の人に頼むのが一番なんじゃないかなぁ。ギルド職員の仕事かなぁ」



 たしかにそれは俺も考えたことはあるが、他ならぬ冒険者ギルドの意向なのだから仕方がない。



「ラウンドの街はな、周辺モンスターの平均討伐レベルに対する冒険者のレベルが著しく低い。仮にギルドから出した依頼で冒険者を死なせちまったらギルド全体の信用に関わるから慎重なんだよ。ギルドの仕事はあくまで『冒険者と依頼主の仲介』だからな」


「あ、ラウンドの冒険者ってレベル低いんだぁ。どうして?」



 冒険者には強さの指標となる『レベル』という要素が存在する。


 レベル20まではこなした仕事内容に応じて勝手に上がっていくが、それ以降は冒険者ギルドが月に1度行う昇段試験で上げていくことになる。


 スキルの強度は繰り返し使い続けるか、モンスターを討伐するほどに上がる。


 ある程度モンスターを倒しスキルを強化しつつ実践経験を積んで試験に臨むのが、冒険者の一大イベントとなっている。


 討伐レベルはモンスターの種族ないし個体にかけられた数値で、冒険者のレベルがこの数値を上回っていればある程度安定して倒すことができるという目安になる。



「この街の平均レベルは20。つまり自動的にどんどんレベルが上がるちょうど限界値だ」



 通常冒険者はオーレンの端の街々からレベルを上げつつ国の中央に位置する王都を目指して旅をする。


 モンスターは国の中央、王都に近づくほど強くなる傾向にあるため、それに応じて報酬金額も上がっていくためだ。



「『バルザン』や『メルドナ』…いわゆる『始まりの街』からここまでトントン拍子で来れた冒険者の多くがラウンド(ここ)で足止めを喰う。20以降のレベルを1上げるのがどれだけ大変なことか、身をもって知ることになる。ラウンドから急激に周辺モンスターの討伐レベルが上がるんだよ」


 

 ラウンドの前の街『アンタスク』周辺モンスターの平均討伐レベルは14


 対してラウンドの平均討伐レベルは28。


 いきなり14も跳ね上がる。


 

「ああ、だからラウンドのクエスト成功率はほかの街に比べて低いんだね」



「まあ、そもそもクエストの絶対数が多いのと高水準のものばかりという理由もありますがね」



 カーターさんが補足を入れる。



 ラウンドは繋がりの街といわれるように、あらゆる街の中継地点となっている。


 すると当然行き来する馬車の数も多くなるため、それに比例して討伐や護衛の依頼も増える。



「へぇ〜。じゃあラウンドで冒険者として活動するのってすごく大変なんだねぇ。やっぱり天の目(サンヘッド)にしといて正解だったかな」



「バカ、なんのために天の目(俺たち)がいると思ってんだよ。そのすごく大変な冒険者の負担を肩代わりして軽減するのが天の目(サンヘッド)の役割だろうが」



 天の目(サンヘッド)の仕事内容には、正式なクエストとして受理された討伐対象モンスターの偵察や監視、討伐レベルの測定、報酬の計算などがある。


 モンスターが予定の位置にいない、討伐レベルが予告と違う、などの事故があると冒険者の生存率が一気に下がる。


 仮に倒せても報酬が割に合わなければ生計やモチベーションに関わってくる。


 冒険者が確実に対象とエンカウントできるのも、敵戦力を把握して戦闘に臨めるのも、相応の報酬を受け取ることができるのも全て天の目(サンヘッド)の命がけの下調べの賜物。


 冒険者とギルド。2つの要素はあらゆる面での相互関係の上に成り立っているのだ。

 


天の目(サンヘッド)は『守りたいという思いを守る』職業。俺たちは常に天から全てを見渡す目にならなければならないのだ」



「あ!もしかしてあれが例の森!?」



 天の目(サンヘッド)の役割を力説する俺を無視して、大きく前のめりになりながら前方を指差すウェイライ。



「ちょ…おい。人がせっかく……ああ、もういい」



 先輩のありがたいお言葉を無視するお嬢ちゃんに文句の一つでもつけてやろうと思ったが、瞳を輝かせながらはしゃいでいる彼女の姿を見ると怒る気が失せてしまった。



「はい、そうですよ。()()あそこにアッカの木があります」



 気を取り直して前方を見るとたしかに、鬱蒼と生い茂る木々の塊が視界の先に確認できた。


 やっと到着したようだ。



「ウェイライ、手順はさっき打ち合わせた通りだ。頼んだぞ」



「うん、任せといて!」



 気合い十分の心地よい返事が返ってくる。あとはこの気合いが空回りしないことを祈るだけだ。



(久々の実戦だからなぁ。()()()も頼むぞ)



 鼓舞と信頼の念を込めながら、俺はコートのポケットにそっと手を当てた。


 さあ、収穫の時間だ。



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