第6項 『ランクを上げてください』
「はぁ~、暇だねぇ」
何気なしにウェイライが呟いた。確かに暇だ。
特にウェイライはこの辺りの地理を全く把握していないだろうから、あとどのくらいで到着するのか予測を立てることすらできない。
その精神的苦痛もあるだろう。
「ならカーターさんの運転でも眺めてみろ。素人目にも上手いことが分かるし、面白いぞ」
「さっきからず~っと見てるよ。たしかに面白いけど、これだけじゃあねぇ…」
もっともだ。
「だったら、お前の身の上話でも聞かせてくれよ。なんで天の目になったのかとか」
「あ、私も少し気になりますねそれ」
カーターさんも興味津々だ。
「ん~、ぶっちゃけて言うとお金かな」
「「ほう」」
これはまたウェイライの性格からは想像しづらいリアル思考。
「私今お金貯めてるんだけどね。ほら、天の目って給料良いじゃない?最初は普通にギルドの清掃員してたんだけど、これだけじゃ全然目標額に届かなくてさ。何の気なしに試しに天の目の試験受けてみたんだ」
(こいつ…清掃員だったのか)
冒険者ギルドにおける清掃員は見習いのような扱いで、半分非正規雇用なのだ。
本部から来たわりにどこか抜けてると思ったらそういうことか。
「そしたらなんか受かっちゃってね。そのままここに派遣されたってわけ」
それでは、ギルド職員としての仕事はほとんどなにも知らないということか。
教育係としては更に負担が増えたという事実に目眩がしてきた。
「な…なんで天の目なんだ?天の目になるには冒険者の資格が必要だ。つまりそのまま冒険者として働くという選択肢もあったわけだが」
「悩んだよ。冒険者なら自分で仕事を選べるからある程度高額のクエストを受ければドンドン稼げるでしょ?でも仕事のたびに命を賭けなきゃいけないし時期が過ぎると一気に仕事が無くなる。それに最初のうちは報酬の低いクエストしか受けられない」
ウェイライが言っているのは冒険者のランク制のことだろう。
冒険者は鉱物の名を冠する6段階の等星が付けられており、これによって受けられるクエストの難易度や報酬金のボーナス、手当などが変わってくる。
冒険者に登録したら最初は緑砲から始まるが、この等星では大したクエストは受けられないのだ。
「その点天の目は、冒険者ほど一攫千金は狙えないけど収入は安定してるし危険度も比較的低い。結局死んだら元も子もないってことでこっちにしたんだ」
意外だ。
コイツは後先考えず「あ、こっちのほうがジャンジャン稼げるじゃーんっ!」とかいって迷わず冒険者を選び野垂れ死にそうな性格に見えるが。
「考えてるんだな、色々と」
「ま~ね~。一応オトナですから」
そう呟くウェイライの横顔は、少しだけ……。
ほんの少しだけ寂しそうに憂いを帯びた表情を形作っているように見えた。
(……訊いたらマズかったか?)
「あ、そろそろハザードエリアに入りますからスピード上げますね。少し揺れますのでご注意を」
カーターさんが注意を促す。
ハザードエリアとはモンスターによる被害が特に多いスポットのことで、御者の間で恐れられている比較的危険な領域のことである。
俺の心配をよそに馬車は速度を増し、3人の髪をより一層強くなびかせた。